社長が認識すべきテック企業との付き合い方
「テック企業」というバズワード。数年前から耳にします。ITを含め、様々な技術でとがったビジネス活動をする企業のことを総称しています。先日、当社のコンサル先の社長と話をしていて、ふと気になったことがありました。「テック企業を単なる取引先・外注、として扱っている」ということです。企業にとっては確かに単なる取引先の一つかもしれませんし、取り扱う金額が大きければ主要取引先という表現をされると思います。しかし、テック企業との付き合い方は従来の取引先の扱いと大きく変える必要があるのです。
確かに、テック企業が部品や製品の仕入れ先になっている場合において、当該企業は単なる外注とか取引先です。ネジや板を仕入れるのと商習慣は全く変わりませんから。しかしそのような扱いをして痛い目に遭うこともあることを、社長は認識していなければなりません。
最近の例で例えると、自動車メーカーが鉄鋼メーカーに特許侵害で訴えられた件があります。鉄鋼メーカーはEVで使われる特殊な鋼材を販売していたのですが、自動車メーカーが他の鉄鋼メーカーから類似品を仕入れることとなり、その類似品が特許を侵害している疑いがある、という事案です。訴えられた自動車メーカーにしてみれば、「売っている会社が特許の問題をクリアして売っていると主張している」という認識と、「仕入れ先が顧客を訴えるという違和感」を感じているでしょう。ここで問題なのが、後者の「仕入れ先の方が強い立場になる」ケースがあるということです。
テック企業はその名の通り、技術先行型のビジネスを展開します。ITであろうが鉄鋼であろうが、他社にないユニークなプロダクトを武器にマーケットを主導しようとします。言わば超強力な「プロダクトアウト思想」です。当然「お客様は神様」という考え方は皆無か比較的希薄です。ところが買っている方の企業がその認識を持っていない場合、この例のような事件が発生するものです。
鉄鋼メーカーは自動車メーカーと何十年という付き合いがあったので、自動車メーカーから見れば今回の案件は青天の霹靂だと思います。しかし、鉄鋼メーカーがこの特殊な鋼材の分野で徐々にテック企業に変貌してきたことを自動車メーカーは充分に認識していなかったのだろうと思います。要するに、自動車メーカーはこの特殊鋼をどうしても必要とする時代に突入していた訳ですから、鉄鋼メーカーを単なる仕入れ先ではなく、ともに歩んで成長するパートナーとして扱うようにしなければならなかったのです。
さて、翻って、DXやIT化の件に話しを進めましょう。ソフトウェア業界は、テック企業と労働集約型企業の二つに大別できると思います。後者は顧客の要求に応じてソフトを開発したりカスタマイズしたり、という「作業提供」がメインです。ところが前者はユニークなソフトウェア商品をプロダクトアウト型で打ち出すタイプです。この企業には従来の「採用してあげます」的な発想は通用しません。強力なプロダクトのチカラを頼りに、極端に言えば「欲しければ売る」というハイポジションのビジネススタイルとなります。注意するべきなのは・・・
今まで労働集約型のソフト企業だったはずなのに、気がついたら魅力的で先進的なソリューションを保有し、それをメインビジネスとしていた
という変化です。このような場合、顧客企業は当該ソフト企業が変貌するにつれ、上手に付き合い方を変えなければなりません。今までは単なる外注だったかもしれませんが技術やソリューション力を武器にテック企業に変身しているわけですから、それを上手に察知し、単なる外注先から、長期的・対等なパートナーとしての扱いに変えていかないといけないわけです。
顧客企業にとっては少し感情的不満が残るとは思いますが、充分に強力になったテック企業が顧客企業との古い付き合いを重視し、顧客企業とのパートナーシップを守る…。今やテック企業となったソフト企業と新たに取引しようと他社が考えても、なかなか取引させてくれない中で、従来からの顧客企業は既得権益とも言える取引関係を守ることが出来る…。悪くは無い関係だと思います。
仕入れ先がテック企業に変身する兆し、これを捉えて適切な対応をとるのは経営者の務めです。技術の発展が著しい分野において、取引相手の技術優位性がどう変化しているのか、常に把握し適切な対応をとることが、これからの時代における社長の大きな責務であると言えるでしょう。
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