これが最後のハードルか?システム導入段階の青天井化
当社のコンサルティングでは、システム化の範囲とその機能や達成できる効果について明確化し、システム会社さんに書類として提示できる”提案依頼書(RFP:Request for proposal)”を完成させるところまでをワンパッケージでコンサルするメニューとなっています。しかし当然ですが業者やシステムを選定した後の導入段階や開発段階の伴走支援も期待されることも多く、きちんと使い始めることができるところまで支援させていただくケースもあります。
そんな導入段階・開発段階で「ここを間違えると危険!!!」と思われることがあります。それが「青天井化」です。
青天井と言ってもモヤモヤすると思いますが、ここでは「システム開発予算が当初の想定を超える、もしくは日程が遅延する、しかもとめどなく…」という状態を指します。限りある経営資源を投入し、脱アナログ会社を目指す決断を下された社長には大問題ですが、このような青天井化は実に数多く見かける失敗なのです。当社の門を叩かれたお客様の中にも、当初見積予算額で開発スタートしたのに、途中で追加見積が何回か発生し、結局20%増しになってしまった」といった社長もいらっしゃいました。このような予算の青天井化はどうして発生したのでしょうか?それは大抵の場合、以下の様な背景から発生しています。
(1)開発途中で機能を追加した
(2)作ってみたら、その機能では現場が回せないことがわかった
ここで、(2)については本コラムでも何回か解説した「業務プロセスの可視化」によって、ほぼ回避可能となります。問題は、(1)でしょう。これは何も開発の途中で「やっぱりXXXの機能が必要だと気がついた」という明確な区切りがあるわけではなく、「この機能を作るなら、ついでにこれも…」といった、ちょっとした欲張った意識から発生することが非常に多いのです。たとえば、受注管理システムを作りたいと考えたA社さんの例で説明すると・・・
受注を登録し、売上と紐付いた管理だけを目的としたシステムの導入を決めた
機能設計を行った
開発をスタートし、機能ができる度にレビューを繰り返した
そのレビューの中で、責任者(A社の場合は社長)が不在の打ち合わせの中で
「受注がデータ化されているのだから、請求書もついでに自動発行できるようによう」
という話が担当者から出て、周囲が「いいね」と言っている間に開発規模が膨らんでしまった
という経緯をたどったそうです。
A社さんは、そもそも「受注をデータ化することだけを、まずは実現しましょう」というスタートの仕方をしていたので、そもそも請求書の発行はシステム化の目的には入っていません。ところが現場担当者とシステム開発会社が打ち合わせを重ねていく過程で、売上管理機能が「なんとなく」追加されてしまった訳です。
A社さんの場合、運が悪かったことに、社長が予算オーバーに気がついた時、すでに請求管理の機能も作り込みをはじめてしまっていたため、後戻りが難しい状況になっていました。結果的に、売上管理の機能までを持つ、統合的なシステム化となってしまい、予算も工期も大きくくるってしまいました。
そして、是非注目頂きたいのは、「担当者が機能を追加した」という事実です。システム開発会社側は顧客企業からの要望は全て叶えるというスタンスをとりますので、担当からの意見は素直に聞き入れて実装を図ります。社長が目を離した隙に、機能追加の検討がされてしまい、増加した費用を支払わざるを得ない状況に至ったわけです。
これが建物建設などのプロジェクトだった場合には、追加工事はたいていの場合資材の追加も伴うので、追加見積→発注、という正常な流れになり、社長も事前に気がつくことが可能です。ところがシステム開発の場合、開発側は自分達の手を追加で動かすだけのことが多いので、ややもするとお金についての協議が後回しにされてしまうことがあるのです。商習慣としては原則から外れているので好ましくありませんが、開発担当者が顧客のことを強く思えば思うほど、お金の調整の前に手を動かしてしまうことが多くあるのです。
私はシステム開発について「社長の役割は開発会社との間のコミュニケーション管理である」とお伝えしています。ふとした会話の中からコスト増になる、日程遅延になる、といったことが多く見かけられますので、社長はそのやりとりを常にウォッチングしなければならないのです。忙しい社長にとっては煩わしいことではありますが、きめ細かく社長の方針を伝え続け、システム化の範囲がその方針に収まっているか、会話を管理することで青天井化は防止できます。「見積を承認して発注したのだから、これで社長の役割はおしまいだ」というのは大きな誤解なのです。
開発プロジェクトの管理については、これ以外にも難しい側面もあるので、以後折に触れて解説していきたいと思います。
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