社員一人当たりの年間の稼ぎが700万円と低い事業モデル。何に取り組めば良いのか?
会議室には、グループ会社から4名の「社長」が集まっています。
私からの課題として、各社長に、事業の方針書の提出をお願いしました。
それを拝見すると、やはりという内容になっています。
「〇〇の品質を高める」、「〇〇を効率化する」、「次の管理者を育てる」
そこにあるのは、『内部』のものばかりなのです。
私の指摘に対して、一人の「社長」から反論があります。
「効率を高めれば、利益をもっと出せるはずです。」
私は、答えます。
「利益を出しても、大きくすることは出来ません。」
次のことも、年商10億円に進むための条件の一つです。
『手間と単価が、見合っていること。』
「手間の割に儲かっていない」ということが、多くの年商数億円の会社が抱える問題です。その原因は、ここにあります。
「手間がかかる割に、儲け、すなわち、粗利高が小さい」のです。
その代表的な業種が下記になります。
・リフォーム業・外構業:打ち合わせの回数が多い割に、1件の案件から得られる粗利高は小さい(粗利率は良いが)。そして、リピートは当面無い。また、サービスの提供に、高いコミュニケーション能力や対応力が必要となり、一部の優秀な社員しかできない。
・受託開発型システム業:上記同様に、工数の割に、粗利高は低い。「一回開発して、また、次を開発の繰り返し」・・・技術者としての喜びは大きいものの、会社としては、何も積み上がっていかない。顧客は、その開発したモノで、長く稼ぐことをしている。
他には、「建設業」、「コンサルタント業」、「設備業」も、この「手間の割に儲からない」という状況に陥りやすい。
自社の事業モデルが、『手間と単価が、見合っていること』という条件を満たしているかどうかを確認することです。
それは、『生産性』を確認すれば、すぐに判断することができます。
生産性とは、「社員一人が一年間に稼ぐ粗利高」です。
会社の総粗利高(売上から変動費を抜いたもの)を、社員数で割ればそれを算出することができます。
この生産性が、1000万円以上あれば、OKとなります。(理想は1200万円です。)1000万円以上あれば、「手間と単価は見合っている」と判断できます。
これなら、十分に利益が残せます。また、頑張る社員に報いることもできます。そして、拡大することができるのです。
これが、700万円や600万円だと、NOとなります。「手間と単価が見合っていない」と判断できます。
利益は殆ど残りません。貢献度の高い社員にも報いてやることはできません。社員の昇給は、ダイレクトに利益を逼迫します。当然、拡大はできないのです。
先に上げた業種では、生産性が低くなる傾向があります。
リフォーム業、外構業、受託開発型のシステム業、設備業、建設業、コンサルタント業。これらでは、何かしらの変革が必要になります。
総粗利高を総人件費で割ることでも、生産性を測ることができます。
短時間労働者や派遣社員のいる会社では、こちらのほうが正確にとらえることができます。
総粗利高 ÷ 総人件費
(総人件費には、社会保険料や退職金の積み立ても含みます。)
・・・すなわち、人件費一万円で、いくら稼ぐかを出すということです。
この数値が、「3」を越えればOKです。「2」以下ならバツとなります。
1万円で3万円稼ぐか、1万円で2万円稼ぐかです。
(労働分配率で表現すれば、33%と50%となります。)
生産性が悪いと判断できれば、何かしらの変革が必要になります。このまま拡大に進めば、崩壊は目に見えています。
「単価を上げる」か「大幅な効率化」、その変革が必要になります。
「単価を上げる」ためには、「顧客」を変えることになります。
それは、「サービス」そのものを変えることを意味します。事業モデルの変革となるのです。
「大幅な効率化」とは、いま「10名」で回している事業を、「6名」で回すことを意味します。それだけ人数を減らせれば、十分な利益がでます。(ただし、大きな設備投資は無し)
「手間と単価のバランスが良い」、すなわち、「1000万円以上の生産性」が確保できた時に、いよいよ展開に入ることができます。
集客に金をかけます。拠点を増やします。社員(作業層)を倍増します。
そして、ガンガン顧客を増やします。
その時の粗利高の伸びは、通常、昨年対比140%になります。
1億⇒1.4億⇒2億⇒2.7億⇒3.8億⇒5.3億
粗利率、50%の会社では、売上は次の伸びになります。
2億⇒2.8億⇒4億⇒5.4億⇒7.6億⇒10.6億
すごい伸びのように感じますが、実際に、この通りになります。私は、そんな会社を五万と見てきました。そして、驚くことに、伸びと反比例するように、社内は、より「静か」になっていくのです。
顧客数(案件数)を増やすことを、展開といいます。
展開こそが、「拡大」であり、「発展」となります。
そこに移れた後に、「効率化」をどんどん進めることになります。
数が増えることで、一つのノウハウをより多くの社員で共有することができます。出来上がったシステムで、沢山の物を管理することができます。
本部に、マーケティングや管理機能を集約することができます。
これらの取組みにより、更に利益が出やすくなります。
「数を増やす段階に入る」と「効率化で利益率を高める取組みができる」のです。
冒頭のH社は、まだこの段階にありませんでした。
グループ各社の生産性は、高い会社で900万円、低い会社では700万円ほどです。これは、完全に単価と手間が見合っていない状況です。
まだ、「数を増やす段階」にも入れないのです。
H社長は、この話を理解した時に言いました。
「複数の事業、複数の会社で、大きくすることを考えていました。いまは、この愚かさが解ります。」
事業と言うものは、本来「数」で稼ぐものなのです。「一つの必勝パターンを、阿保みたいに繰り返す」これが、事業です。
「小さな本部と沢山の現場(顧客・案件)」が、理想であり、大儲けの原則なのです。H社は、その原則から外れているのです。
その結果、全部の会社が、儲かっていません。すべての取組みのスピードが遅くなっています。弱いものが集まっても、相乗効果は生まれないのです。烏合の衆と化すだけです。
その複数の会社の「社長」には、「自社の社員」を据えています。社長と言っても、それはやはり唯の「社員」なのです。
私は、その各社の「社長」に、課題を出させていただきました。
「今後、会社を発展させるために、事業の方針書を作成してください。」
提出されたものに記されているのは、「内向き」の物ばかりだったのです。
「〇〇の品質を高める」、「〇〇を効率化する」、「次の管理者を育てる」とあります。
これらでは、「展開」をすることにはなりません。案件の単価を大きくすることもありません。数を増やす取組みでもありません。
これらは、パイ(限られた粗利高)の中で、如何に上手に回すか、如何に効率良くこなすかの策ばかりなのです。
パイ自体を大きくするという視点が、完全に抜け落ちているのです。
これこそが、「社員」の発想です。
社員の役目は、社長の出した方針を、いかに正しくやるかにあります。そして、如何に効率よくやるかにあります。それこそが、社員すなわち組織の役目なのです。
また、「大手中堅企業から戻ってきた後継者」にも多い傾向です。
社長である父親に提案するのは、「内部の効率化」ばかりになります。
視点が、外部に向くようになるのに時間がかかります。もし、それを得る前に、社長に就くものなら、その会社には停滞が訪れます。その後継社長は、内部の取組みに熱心であり、市場の欲求や変化に無頓着なのです。
私は、彼らにお伝えしました。
「利益率は上がったとしても、それは、事業の拡大にはなりません。」
事業の拡大とは、あくまでも、数(顧客数、案件数)を増やすことなのです。
効率化だけでは、大きくすることはできないのです。
ましてや、生産性の低いH社です。
現在、700万円の生産性を、業務の効率化によって、1000万円以上にすることなどできないのです。業務の改善や社員教育で何とかなるレベルではありません。
彼らの反応を観て、私は、少し強い口調で言うことにしました。
「この方針書からは、事業を、5倍、10倍と、大きくしようという絶対的な意思を感じられません。」
いまのH社には、事業モデルの革新しかないのです。まずは、手間と単価が見合った事業モデルの開発です。
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