現代『真似ぶ』考
建築系の「ハウツー本」さがし
最近多くなったデジタルメディアは場所を取りませんが、アナログ系のメディアは物理的なサイズというものがあって場所を取ってしまいます。特に本は、重さもありますしすぐにかさばってきます。Kindleなどの電子書籍はスマホにたくさん入れて歩けますし検索機能も使えて便利なのですが、どうも苦手です。やっぱり紙の本がいいのです。
ということで、自宅では本が溢れてあちらこちらに散乱しています。サイズごとにしまってあるので、ちょっと建築関係の本を探すのにもあちこち見て回らなければいけません。先日、クライアントさんとzoomで話しているときにオススメの建築本を紹介してもらいました。「・・・」の教科書、とか「・・・」のお手本とかいう感じの本でした。「あ」「たしかそれ持ってたかも・・・」と思いつつも自信がありませんでしたので、その時はあやふやなリアクションしかできませんでした。
終了後、家じゅうに散らばっている本の置き場を廻って、そのオススメ本を探してみました。やっぱり、ありました。でも、買ったもののちゃんと読んでませんでした。そして、それらを探しているうちに同じジャンルの建築系の本を一旦集めてみましたところ、なんだか共通点が。「・・・」の設計手法、「・・・」のつくり方、「・・・」のレシピ、「・・・」の方程式みたいな建築ハウツー系タイトルの本がずらりと並んでしまいました。
鹿児島に移住してからはAmazonで買うことがだんだん多くなり、立ち読みしないので手っ取り早そうでキャッチーなタイトルにやられてしまうケースが増加してしまいました。建築関係でハウツー系タイトルの本は昔からあるにはありますが、どちらかというと写真少なめのモノクロ印刷の教科書的というか理系なものが多かったものです。しかし、最近ではオールカラーで図版豊富なのはあたりまえでベストセラー本の帯のようにタイトルが上手につけてあります。
タイトルに惹かれて買って、中を見てみるとイマイチでちゃんと読んでないものも結構あります。「教本」的なタイトルでありながらも内容は単に作品紹介であるものも普通にありますし、「知識だけでなく経験や、それにより結論として至った考え方をも共有したい」という熱量に満ちた良書に出会うこともあります。まさに玉石混淆であります。
↑そういう自分も“建築系”だけでもこんなにハウツー的な本を買い込んでしまっていたのです。
せっかく集まっているのでまとめてパラパラめくって「なんでイマイチと思うのかな?」と考えてみましたところ、こんなところがイマイチ要因なのでした。
①情報は豊富だが、読んでみるとまとまっていない
②見出しと本文、図面と写真のアングル、写真とキャプションがそれぞれ合ってない
③そもそも本のタイトルと内容が合ってない(YouTubeみたい)
YouTubeは無料なのでしかたないかもしれませんが、タイトルばかりキャッチーでコンテンツはただ長いだけで内容がないものも多いですよね。有料の書籍でもタイトル付けにYouTubeの影響を少なからず受けている気がします。(とりあえず売れるのでしょうね)
そして、もうひとつ思ったことが「これらの本はいったい誰のために書かれた本なのだろう?」ということでした。一見プロ用のようですが「超入門」と書いてあったりするのもあるし、上記①②③のような内容ですから「一般向け」なのかもしれないとも思えてきました。「超入門」の「超」は何が「超」なんでしょうか?一般には「わかりやすい」プロには「いまさら聞けない」みたいなニュアンスでしょうか。出版社としてはどっちにも売れた方がいいし、一般の方に多く読まれるとプロも読まざるを得なくなりますから。
そう思うのは、以前からこの手の本を買ってきたいちばんの動機は「お施主さま対策」だったからです。鹿児島や福岡で出会ったお客様たちは誠に勉強熱心な方々で、ご自宅にお邪魔したりすると、最新の建築系書籍が茶の間にドドっと積んであったりしたものでした。(大阪時代は他社のパンフレットが山のように積んであることがほとんどでした)その都度、慌てて買いに走って読みふけるという事がよくありました。「あの頃のあれは出版社の作戦だったのかもしれない」と今になって、ふと思ったのです。
↑プロにも一般にも響く巧みな“建築系”「出版ワード」たち
『真似ぶ』ことすらスルーする危険な風潮
逆に、これまでで同業の工務店関係者からオススメ本を教えてもらうことは少なかったように思います。そもそも同業同士ですから「こっそり勉強している」という事情も手伝ってかもしれませんが、あまり教えてもらった経験がありません。お客様から薦められることが圧倒的に多かったのです。
工務店関係者にも色々な方々がいらっしゃいますが、最近では経営者に多くお会いして感じることは「サクッと模倣するのがクレバー。ブランドごと仕入れて販売するのがスマート」というような風潮です。「時間を買う」などと、どこかの国のコンサルティングファームの方のように「手早く成長、上手に儲ける」といったムードを強く感じます。
これは、全国津々浦々に拡散したVC(ボランタリーチェーン)の影響があります。何しろVCとは「加盟店により組織」「加盟店同士の相互助成」といった理念があります。それが心理的『免罪符』となって上記のような業界ムードになっているような気がします。もはや「模倣する」「ブランドごと買う」だけでなく、同業者から「教わる」「模倣する」といったことは「普通」になっているのです。(実際に本部は実務ノウハウ指導の大半は「優秀加盟店に丸投げ」ということもよくある話です)
VC(ボランタリーチェーン)については、忘れ得ぬひと言 その3−1 をぜひご覧ください。
そういう背景もあって、キャッチーなタイトルの「建築ハウツー本」が最近より目立つようになったのかもしれません。しかし、問題はそこではないのです。「模倣」すること自体が悪いのではありません。「模倣」のプロセスで情報が揃いすぎていて、再現する際に自分の頭で考えるプロセスすらスルーできてしまうことが問題なのです。真似ながら学んでいく、いわゆる『真似ぶ』段階が足りないのです。
他人の施工実例を山ほどホームページに載せて、与えられた図面・仕様書・実行予算書で仕事をする訳ですから『真似ぶ』というよりただ『つくる』だけになってしまいます。言わば「フェイク」を見せて受注して、現場にそれを再現するだけです。そうすると、つくり手の会社の中にはお客様から見えている程の「精通」したものはなく、住まい手の期待値との「ギャップ」が生まれます。
一般にそういったタイプの仕事は薄利です。どんどん受注してどんどん建てていかないと儲かりません。そうして続けていくと会社は徐々に発展の芽を失っていき、ついには命取りになります。
あなたに頼みたいと言われる『理由』
「目の肥えたお客様」は確実にいます。そういうお客様たちは、決していきなり値段をきいてきたりしない人たちです。そしてキャッチーなタイトルの建築系書籍を買って読破されている人たちでもあります。そのような高い知識レベルの読者はYouTubeやSNSの影響もあって増えているのではないでしょうか。私自身はお施主様になる見込みの方々との接点が以前よりは減りましたが、そのように感じます。そういう「目の肥えたお客様」は、他との違いや筋の通った考え方を選別する「眼力」に長けています。
つくり手側が流行のものをわーっと追っかけてばかりいると、気がついたら「他とどこが違うねん?」ということになりがちです。「競合研究や対策などやらない方がいい」と断言される先輩コンサルタントもいらっしゃるぐらいです。やればやるほど似てしまうからだそうです。知らず知らずのうちに「同じ土俵」にどんどん入っていってしまうのです。
先日、久しぶりに一緒に仕事をする昔の同僚から「会社辞めても理念は変わってませんね」と言ってもらいました。私から見て、その人も同様だと思ってましたが、そう言ってもらうと嬉しいものです。ふたりとも以前の会社を辞めた者同士ですが「理念(仕事の基本)」が変わってないからお互いにまた一緒にやれるのだと思います。
「知識よりも道理、ハウツーよりも結果」
「模倣コピーライティングよりも、経営者自らの発する言葉」
「豊富な他人の実例よりも、一軒でもいいから魂を込めた実践例で勝負」
そういったことを、耳にタコができるぐらいに繰り返し繰り返し教えてもらって体にしみ込んでいる者同士です。故に、そう簡単にはブレることはないのでしょう。
「独自の提案」に共感してもらうということは「価値観」の共有が必要です。そのためには自らの「価値観」をはっきりしておかねばなりません。また、なぜそういった「価値観」を持つに至ったのか?ということが言語化できないと他の人にはなかなか分かってもらえません。そういった事を表現として実践したのが著書 家づくりの玉手箱「吉岡さんちの暮らし」です。
↑前述①②③を完全クリアしている住宅コンセプトブックの『金字塔』
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◾️家づくりの玉手箱「吉岡さんちの暮らし」
「どうしてもシンケンで家が建てたかった。」
シンケンのファンから、シンケンのスタッフへ。
つくり手だから知っていたこと、住まい手になって分かったこと。
建ててみて、暮らしてみて、シンケンのほんとうの良さを知った7年間のリアルライフを綴った暮らしのコラム。
それぞれの道で選ばれる「存在」になっていくのなら、そうして「事業」を発展させていくのなら、目に見えるもの、写真に写るものをそのまま真似るのではなく、現実に出来上がったものに宿る「理由」を読み取る。そのために「真似る」だけではなく「真似ぶ」「学ぶ」という姿勢をスタンダードにしたいものです。
社長の会社では「どうしてもおたくに頼みたい」と言っていただける『理由』がありますか?「他では考えられない」と、待っていただけるほどの『理由』を常に追求されていますか?
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