いつどこで過ごすかの『自由』 屋根裏編2
屋根裏で寝始める
念願の屋根裏部屋をゲットして、模様替えをしながら様々な場所で寝てみました。それまでは、図面に描き込んで「普通こうやろな」という場所にベッドが置いてありました。模様替えのついでに「これはないやろな」というポジションもいろいろと試してみました。 そうすると、意外にも「あ。ここもいいなあ」という場所が見つかったりするのです。
屋根裏部屋は特異な三角形状の空間を持つ場所です。実際に屋根裏部屋に暮らした経験のある人は少ないと思いますが、「先入観」を持たずに試してみると、意外にいい場所が見つかることは屋根裏に限ったことではないようです。普通の四角い空間を持った部屋であっても大いにあり得ます。
屋根裏部屋での模様替えの様子は、いつどこで過ごすかの『自由』 屋根裏編1 をご覧ください。
「先入観」を疑ってみる
人間は学習する動物です。ほとんどの場合、家を建てる頃には様々な情報や体験により一定の「常識」みたいなものが出来上がっているはずです。今の家を建てるまでの段階では、私もそのひとりでした。居心地に関する色々な「常識」が書き替わっていったのは、実際に住み始めてからのことでした。
そういったことの実例をひとつ、ご紹介します。
屋根裏部屋で発見した枕の位置というか、寝る方向での居心地の違いについてです。
↑通常はこちらの方向に寝ることが多いものと思われます
↑横からの見た目では「閉所感」が強いようですが…
↑目の前は天井の板ばかりで「通せんぼ感」があります
↑横からの「閉所感」の割には、意外と目の前は開けています
↑並べて比べてみると歴然とした「奥行き感」の差です
↑みんなの憧れの「アルプスの少女ハイジ」も「リバースポジション」です!(笑)
みんなが一度は憧れるハイジが寝ている屋根裏部屋の干し草のベッド。その居心地にここでまた一歩近づけた感があります。
その先に拡がる世界
屋根裏部屋の枕の位置の話は、ちょっとした「先入観」を外して試してみたら、予想外の結果であったというほんの一例です。今まで信じて疑わなかった屋根裏部屋での枕の位置の「常識」が、ここから変わってしまいました。娘たちがいるうちに、もっと早く気づいて教えてあげられれば良かったのですが、これから屋根裏を活用して生活する人のお役には立つでしょう。
一説によると、我々が知覚する現実と実際の実在は全く違う。知覚している世界は生存適応性を高めるための感じ方に過ぎず、実在している全ての現実を正しく描写しているわけではないそうです。最近の研究では、動物の種類によって知覚世界の見え方や感じ方は全然違うそうです。その種が現在の環境下で生き延びていくのに必要な情報を優先的に感じ取れるように進化・最適化されているというのです。(例になるのか分かりませんが、子供の頃さんざん見ていたハイジの屋根裏でのベッドポジションも正確には記憶しておりませんでした)
また、人は「思い出しやすいもの」「イメージしやすいもの」を世の中にざらにあるものだと思うのだそうです。例えば「Rから始まる英単語と、3文字目にRが来る英単語では、どっちが多い?」とアメリカ人に質問すると、ほとんどの人が前者だと答えるそうです。理由は、「R」から始まる英単語のほうが思い出しやすいからだそうです。確かに、3文字目に「R」が来る英単語は?と問われてもすぐに思い出せませんよね。けれども、実際には3文字目に「R」が来る英単語のほうが多いそうです。
この話は「よくできた話は信じやすい」ということにも通じています。
「延期された東京オリンピックが中止になる」という話と、「延期された東京オリンピックが、コロナ感染者の再拡大で中止になる」という話のどっちがあり得ると思うか、1年前の日本人に聞いたら、後者だと応える人が多かったはずです。確率論でいえば「コロナ感染者の再拡大で」という条件がついているほうが実現可能性は低いはずですが、こっちの話のほうがもっともらしく聞こえるので「ありそうだ」と思ってしまうのです。老人がしばしば被害に遭ってしまうオレオレ詐欺被害も、「孫」からの話の内容がとても詳しく具体的であったりして、同じ構造だといえます。
こういった話は、極めて低価格になった「広告」やSNSなどを利用した種々の「プロパガンダ」にも相通じることです。「声」の大きいものや「回数」の多いもの、事の真偽は別として「やたら詳しく具体的」であったりするもの、によって人々の認識や判断が大きな影響を受けてしまっているのは事実です。こういった媒体と頻度の変化は、人の動物としての知覚機能の順応・進化のスピードを大きく越えた変化なのかもしれません。
知らず知らずのうちに多くの巧みな情報シャワーによって「集団洗脳」されているといった事もささやかれていますので、お互い気をつけなければいけないようです。しかしながら、素直に人の動物としての知覚に感じる「居心地」を実現していくことは、入居後の評価が高くなるのは間違いなく、あたりまえの事でもあります。提案時には捉えにくい場合もあるでしょうが、腰を据えて取り組む価値のあるテーマかと思います。
社長の会社では、執拗な業界での「プロパガンダ」や建築の学問的「先入観」にとらわれた提案をしていませんか? あえて自分たちの「先入観」を疑ってみて、出来た住まいを自由な「感性」で捉えなおすといった取り組みをされていますか?
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