耳の痛いことを言われたときに、条件反射をしないというスキル
先日、ある行政主催のシンポジウムをオンラインで聞いていて、思わず吹き出してしまったことがありました。それは行政の担当者と社会起業家がパネラーとして参加するディスカッションでのこと。
社会起業家が「行政側が部門ごとに縦割りになっていて施策の連携がとれていないために、事業活動が順調にいかない」といった主旨のことを言うと、行政側の担当者がすかさず、「縦割りにもメリットがある」と反論。
多分、オンラインセミナーを聞いていた聴講者のうちの何人かが、私同様に吹き出したのではと思います。そして多分、行政側の担当者も「縦割り行政のおかげでひどい目にあった」という言葉を耳にタコができるほど聞いてきたのだと思います。
だからこその条件反射とも言うべき素早いレスポンス。そして、「縦割りにもメリットがある」と言ったあと、即座に付け加えられた「業務が効率的に進むのだから」という理由付け。
縦割りが良いか悪いかの議論をするつもりはありません。片方にとっては便利だけど、もう片方にとっては不便、という現象のひとつなのだと思います。
むしろ気になったのは、縦割りという現象は、現在は顧客(この場合は社会起業家)のニーズに十分こたえきれていないのに、やっている当人側は肯定しているという事実が、多数の人が聴講するセミナーの場で明るみに出たということです。
「縦割りが弊害」なんて、多くの人が気づいているけど、面と向かっては言いません。それが、この場で言葉として表現されたことに、私としては何かすごく新鮮さを感じたのです。そのうえ言われた側が、自己防衛の持論を取り出した。それによってもしかしたら千載一遇のチャンスを逃してしまったのかもしれない、と。
お客様窓口を専門にやっている方に聞くと、「クレームはお客様と仲良くなるチャンス」と言います。誰しも他人の小言など聞きたくないものですが、対立する関係から寄り添う関係へとポジションを変えると、敵が味方になることがあるのです。
もちろん最初はひたすらクレームを言う相手の言葉を丁寧に聞く必要があるわけですが、一通りお小言を言い終えると大体の人はすっきりしてしまうものです。そして、聞いてくれたり、一緒に怒ってくれた相手になぜか親近感を抱くようになったりします。クレームを言っている本人自身も「もしかしたら、言い過ぎたかも」と思い始めます。
皆さんもご経験はありませんか?
さて、この縦割り問題ですが、行政側の担当者が条件反射のように「縦割りにもメリットがある」と言いのける前に、「縦割りでどんな不便なことがありましたか?」と一言問えば、相手の気持ちに少し近づいた可能性があります。もちろんこのシンポジウムのテーマは縦割り問題ではありませんし、時間の限られた中での議論で、そこまで踏み込むことは難しいことは重々承知。
でも少なくとも、寄り添う姿勢を諸般に対して示せたでしょうし、何よりもわざわざシンポジウムに参加してくれた社会起業家に敬意を示すこともできたはずです。
凡人たる私も例外ではなく、耳に痛いことを何度も聞いていると条件反射的に保身の言葉が出てしまう。その代わりに寄り添う言葉が出てくれば、もう少し関係を良好にできるはず。周囲に与える印象も変わります。
怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」には「6秒ルール」があるといいます。すなわち、どんな怒りも6秒立てば収まると。シンポジウムで6秒沈黙するのはなかなか勇気がいりますが、他の場面なら使えるかもしれません。
こんな場面は会社や組織のなかにたくさんあります。関係を良好にすることが自分にとってメリットがあるのであれば、6秒といわず3,4秒我慢して、条件反射を抑えてみる。関係をよくすることが本当に必要であれば、やってみる価値はあります。
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