『庭』にて気づく
「楠」の新芽の色
毎年雨の時期になると新芽がぐんぐん育ちます。
昨年大ががりに剪定した楠も復活してきました。
かつては天然樟脳を採取するため、日本各地にクスノキが植林されてきましたが、合成樟脳ができるようになってからは、山の植林樹が放置されて野生化しているそうです。春の若葉のころに、全体的に赤っぽく見えるクスのことを特にアカグス(赤樟)と呼び、青っぽく見える方をアオグス(青樟)と呼ぶ場合があるようですが、これはかつて天然樟脳を製造していた製脳業界での分類だそうです。アオグスはアカグスに比べて成長が早いが樟脳分は少ないとされていました。当時は樟脳分が多いか少ないかという意味での分類意義があったのです。
鹿児島には日本最大の楠の木(幹周24.2 m)があり、街路樹なども楠なので青いのと赤いのがあるのは何となく知っていました。青い新芽のほうが春らしくて好きだったので、自宅の植樹の際には庭師さんに「青い新芽のを植えてほしい」とお願いしましたが、あいにく植え付けの時期が暮れの頃であったため「春にならんとわからんわ…」と言われてしまいました。花の色など庭師さんでもシーズンにならないと分からないことは多々あるようです。
↑赤い新芽の楠の葉(最初に植えてもらった2本)
↑新芽のときから若葉色一色の楠の葉(後で植えてもらった1本)
「シラカシ」の新芽の色
自宅にはもうひとつ赤い新芽と青い新芽があるシラカシという木があります。
シラカシは材が白色であることからそう呼ばれているそうですが別名、カシ、ホソバカシともよばれ、樹皮の黒さからクロカシの名もあるらしいです。また、東日本で単にカシの木という場合はシラカシを示し、関西ではアラカシ、四国や九州ではアカガシを示すことが多いそうです(何ともややこしい)
庭に2本あるシラカシの一本ずつが赤い新芽と青い新芽です。結果としてシラカシは1/2、3本ある楠は1/3が青い新芽の木でした。同じ樹種であっても毎年毎年赤い芽と青い芽が楽しめるというのもいいものです。庭師さんは「春にならんとわからんわ…」と言いつつも、できるだけ「青い新芽っぽいな」と思う木を持ってきて植えてくれたのだと思います。
↑赤い新芽のシラカシの葉(道路側の木)
↑まぶしい若草色のシラカシの葉(カーポート側の木)
赤い新芽のほうの楠もシラカシも若い葉は赤色ですが、若い葉が成長するにつれ赤色が消え緑色の葉になります。若い葉に含まれている赤色はアントシアニンとよばれる色素だそうです。一方、緑色のクロロフィルとよばれる色素は葉緑体に分布し、植物にとって重要な二酸化炭素の固定(光合成)が行われるのです。
なぜ、若い葉がアントシアニンをたくさんもっていて赤色に見えるのでしょうか?
若い葉は赤く見えますが、緑色のクロロフィルはゼロではないそうです。若い葉は光合成を進行させるための葉緑体を作っている段階で、まだ太陽光の強い光やその中に含まれている紫外線による害作用を防ぐことはできません。ヒトが海水浴に行けば太陽光によって皮膚が日焼けしてヒリヒリしますが、植物の葉も同じように可視光、紫外線によって生ずる活性酸素による害作用を受けるそうです。
若い葉はこれらの光による害作用を充分に防ぐことができないため、アントシアニンによって太陽光を遮り、葉緑体が害作用を受けないようにしていると考えられています。葉が成長し、葉緑体に太陽光の害作用を防ぐ機能が充分に発達すると、アントシアニンによって太陽光を遮る必要がなくなるためにアントシアニンはなくなり、葉が緑に見えるようになるのだそうです。
また、もう1つの理由として捕食者からの防御とも考えられているようです。
春先の野菜は、アスパラとかフキノトウとか「苦味」の強いものが多いですが、これは春になって植物が出す「新芽」に含まれるアルカロイド(毒)のせい。植物は、やっと出した芽を食べられたくありませんから毒を持たせているというのです。そして赤色は警戒色であり「毒があるよ」というサインだそうです。
「コグマザサ」の生命力
全面道路のセットバック部分にコグマザサが生えていますが、昨年大掛かりに剪定してもらってから様々な雑草が競って生えてきていました。庭師さんがコグマザサを切ったのを見計らって雑草がここぞとばかりに勢力拡大を目論んで急に伸びてきたのです。だれも水も肥料もくれないこの過酷な場所が、植物の間では最も競争の激しいように見えます。
自立した雑草たちの多様性もいいのですが、ぱっと見は荒れて見えるのでばっさり散髪しました。しかし、その後のコグマザサのリカバリーのスピードには目をみはるものがありました。「新人君」ばかりが整列する様はいかにも若々しく元気があっていいですね。
↑散髪した日の様子(5/16斜めから)
↑散髪した日の様子(5/16正面から)
↑散髪後1週間後にはもう芽が出ています(5/22)
↑1ヶ月後のコグマザサの様子(6/18斜めから)
↑1ヶ月後のコグマザサの様子(6/18正面から)
散髪した際の様子は 梅雨入り前の『宿題』 をご覧ください。
最近の「住宅の庭」に関する書籍を見ていると、成長の遅いものを選んで樹形を維持しながら管理する設計のものが多く紹介されています。自宅の植物は、わりと成長の早いものが多く💦剪定が大変な面もありますが、素人がバッサバッサ切ってもすぐに復活します。結果として日差しや視線の状態をキープしやすいので、これは良い点とも言えます。
庭木ひとつにも「樹種」の選択肢が多くあり、それ以上に同じ「樹種」の中でも個性が多様で奥が深いものだと感心します。こういうことが分かった上で庭の設計をすると面白いと思いますし、自らの仮説が現実化しているかどうか気になるはずです。少々遠くてもきっとその後を見に行きたくなるに違いありません。
自宅の庭に生えている植物たちとは、19年もいっしょに暮らしていますので彼らについてはようやくではありますが、だいぶ詳しくなりました。
おまけに、自宅にお見えになられた際の参考にここで登場した植物の位置をお示ししておきます。
↑それぞれの植物のポジション(今度来られた際にご確認ください)
社長のところでは新築住宅の工事受注の際に造園・外構の提案をされていますか?また、引渡したお宅の「庭」をたまには見に行かれたりされていますか?
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