その価格は妥当?
いきなりですが問題です。
1.日本で一番背の高い木は100mより高いと思いますか?
では、実際の木の高さは何mだと思いますか? 答えを書いてみましょう。
さて、何mと書かれたでしょうか。答えは後に取っておくとして、次の問題です。
2.日本で一番背の高い木は20mより高いと思いますか?
では、実際の木の高さは何mだと思いますか? 答えを書いてみましょう。
上の二つは同じような問題ですが、前提として出した数字が違います。今回は続けて問題を出していますが、これを別々に、違う人に問題として出すと、ほぼ確実にある傾向が見られます。それが今回お伝えしたい「アンカリング効果」です。
「アンカリング効果」は「係留効果」とも言われ、ある未知の数値を見積もる前に、何らかの特定の数値を示されると、この効果が発動されます。心理学分野ではかなり信頼性の高い結果が得られており、大半の人がその効果から逃れることはできません。
冒頭の問題で言えば、1の問題を出された場合、100mという数値に確実に引っ張られ、100mが基準となり、それに近い数字が答えになりやすく、2の場合は20mに引っ張られてしまい、100mの時と同じく、その近辺の数字が答えとして選ばれます。これはいくつもの実験で同様の結果が出ており、この「特定の数値」から離れることができないことから「アンカー(いかり)」の名前を取って「アンカリング効果」と名付けられています。
アンカリング効果はさまざまな場面で大きな影響を生み出します。お金に関する意思決定の場面では特に強く表れます。例えば寄付をする場合でも、アンカーを設定する場合とそうでない場合に顕著な差がみられることがわかっています。インターネット通販の価格でも、オークションの予想落札価格でも、ほぼ確実にアンカリング効果は当人に対し影響を与えます。
マーケティング手法としても効果が認められています。とあるスーパーマーケットでスープ缶の割引販売を行い、数日間は「お一人様12個まで」の張り紙を、残りの数日は「お一人様何缶でもどうぞ」の張り紙に変えた結果、制限されていた日の平均購入数は7缶で制限なしの日の2倍に達したとのこと。
また、住宅の価格交渉をする際でも、売り手がまず価格を提示し、先手を打つことで同様の効果が働きます。フリマなどでの値切り交渉でも同様で、最初のアンカーは相当な力を持っていると言えます。先手を打つことは多くの勝負で有利となるのです(参考書籍 ファスト&スロー ダニエルカーネマン 早川書房)。
アンカリング効果は誰にでも相当大きな影響を及ぼします。悪用することは言うまでもなく厳禁ですが、こちらが悪用される可能性もあります。悪用の被害を防ぐには、常に好奇心を持って物事の「相場観」を知っておくことと同時に、自分自身の「価値基準」を持つことが必須だと思います。
「知らなかった」で済まされない問題は世の中にごまんとあります。特に経営者の方々は重要な意思決定の連続です。何も疑わず、業者から提示された価格をそのまま鵜呑みにしていませんか? 間違った情報がインプットされる前に、自分自身で調べるクセを付けましょう。そのひと手間でムダな経費は確実にカットできます。
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