会社の成長が遅い理由の代表格、年商数億社長のダメなコミュニケーション術とは?
真冬の寒い日に、食品関連業S社長が相談に来られました。
外の気温とは打って変わって、明るいオーラを体から放出しています。
私は、御聞きしました。「御社の課題は、なんですか?」
S社長は、大き過ぎる声で答えます。
「先日、社員から面と向かって言われちゃいました。社長が何を考えているのか、さっぱり解らないと。」
最初にこれを挙げるということは、それだけショックを受けたということでしょう。そして、続けて、その原因を曝してくれました。
「普段から、社員には言っているはずなのですが。」
組織には、マニュアルが必要です。
マニュアルがあるからこそ、人は協力することができます。
そして、組織が出来てくるのです。
我々は、マニュアルから、以下の効用を得ることができます。
1.見えるようになる
どのような手順でやっているのか、どのような考え方でやっているのか、それが見えるようになります。いままで其々が持っていたノウハウを、初めて知ることになるのです。
2.決める
自社の事業として、「これを我々の標準とする」と決めることが出来ます。
文字になったことで、初めて決まった状態になります。それが、会社が持つ、その瞬間での一番のノウハウとなります。
3.共有する
その標準としたものを、全員が出来るようにします。「決まったことをその通りできるようになる」、すなわち、訓練ができるのです。
4.改善する
誰かがミスをした時、または、効率化を検討する時には、見直しを行います。
より良いやり方を検討し、そして、自社の標準とし、再度、全員で共有をします。
5.蓄積する
その結果、会社として、ノウハウを蓄積することになります。社員は入れ替わりますが、それは会社の財産として残っていきます。そして、より多くの人を採用し、戦力化することができます。
マニュアルにより、このサイクルを会社として持つことができます。
このサイクルこそが、会社の成長するサイクルであり、人を採用し戦力化するサイクルなのです。
マニュアルを導入するという考え方は正しくありません。
正しくは、『マニュアルという仕組み』を導入するとなります。
マニュアルが無いという会社は、これらすべての効用を捨てていることになります。それは、非常に「クレイジー」なことです。
人を雇い、事業を大きくしたいと願いながら、マニュアルには向かわないのです。それは、あり得ない選択です。
冒頭のS社も、この例に漏れませんでした。
私はお聞きしました。「御社に方針書はありますか?」
それに対し、S社長は、「文字にはなっていないが、方針は明確にあります。」と答えました。全く頓珍漢な答えです。
「文字になっていなかったら、無いのと一緒ですよ。」と伝えると、S社長は、「普段から方針については、社員に言い聞かせています。」と、返してきます。
あっさり原因を知ることになりました。社員に「社長が何を考えているのかさっぱり解らない」と言われた原因はこれなのです。
会社においては、すべてを文字にします。
文字により、人を動かすことができます。文字により、組織を機能させることができます。
人は、それぞれが違う「言葉の意味」をもっています。
「幸せ」や「良いサービス」などは、その典型です。其々のキーワードに、その人なりの経験や個性から、独自のイメージを形成しているのです。それが、言葉であれば、猶更、解釈の余地は大きくなります。
そして、人は自分の都合が良いように受け止めるものです。「自分の聞きたいようにきき、自分の好きなように理解する」のです。それは、人間である以上仕方がないことです。どんなに気を付けたとしても、それは完全には防げないのです。
組織において、人に何か伝えるときに、言葉を使うこと自体が悪いのです。
「言葉では、こちらの意図は正しく伝わらない」というのが前提なのです。
そして、文字に成っていないと、社員は「社長の表情の中」に答えを探すようになります。彼らは、質問する時も、答える時も、社長の顔色を見るようになるのです。言葉をゆっくり出しながら、社長の眉の動きを観察しているのです。
コミュニケーションの専門家は、「社員とのコミュニケーションの機会をもっと増やすべきだ」といいます。また、「社長は、コミュニケーションのスキルを身に付けるべきだ」ともいいます。
確かに、その通りです。しかし、その前提としてあるのは、「文章」なのです。
文章が基にあり、理解を深めるためやそれを昇華させるために、言葉のコミュニケーションがあるのです。
敢えて、乱暴な表現をします。
文章が無い上での、言葉のコミュニケーションなど、全くの無駄なのです。
そこには、上記の問題である「単語に対する個々のイメージの違い」や「自分勝手な認識」は、何一つ解決されないのです。
そして、そこに一番厄介な問題が圧し掛かります。
それは、『社長の一貫性の無さ』です。
文章化していないので、社長の中で、「一貫性」が形成されていないのです。
文章をつくる過程で、その内容は、研鑽されることになります。
また、一つひとつの単語の意味や定義を考えることになります。内容の相関性や優先順位や実現性も検討することになります。そして、何よりも、社長のなかで、それが信念と言えるものに成っていくのです。
このプロセスを経ていないために、一貫性など端から存在しないのです。
そして、一貫性の無い社長、すなわち、文章化に向かわない社長は、それを「言葉」で伝えます。その瞬間、優先順位が変わることになります。直近に言われたものが、優先順位が高くなります。そして、また、次のものが来ます。
社員にとっては、それらは「社長の思い付き」に思えてしまうのです。
「思い付きで話す社長」と「思い付きに振り回される自分達」という関係が出来上がるのです。
最終的には、彼らは、こうなります。
「社長の指示は、基本すぐに手を付けない。その多くは、後から催促されることもない。あれどうなったと言われた時だけ、やればよい。」
これでは、社長の考えは、何一つ実現することが無くなります。
会社の成長は、物凄く遅いものになります。
その結果、社長が、その多くを抱えることになります。
これが、S社を初め、多くの年商数億の会社で起きていることなのです。
S社長は、小さな声で言いました。
「いままでも全く手を付けなかった訳では無いのです。経営計画書もつくりました。マニュアルづくりにも取り掛かりました。しかし・・・」
これも、多くの年商数億企業の実態なのです。
正しい経営計画書の作り方が出来ていません。
正しいマニュアルの作りに成っていません。
そして、何よりも、それを運用することが出来ないのです。
経営計画書をつくることがゴールではありません。経営計画書という仕組みを導入することで、組織をつくることが目的なのです。
マニュアルではなく、「マニュアルという仕組み」を導入したいのです。
それにより、改善するサイクル、人を戦力化するサイクル、そして、ノウハウを蓄積する機能を持ちたいのです。
S社長は、やることが解り、茫然としています。「・・・遠そうですね。」
私も、率直に伝えます。「はい、遠いです。」
そして、付け加えます。「でも、やることをやれば、それが手に入ります。そして、確実に会社を変えることが出来ます。」
S社長は、姿勢を正し、明るいオーラに戻します。そして、大きな声で「頑張ります。よろしくお願いします」と言われました。
あれから、8か月が経ちます。
会社は、大きく変わっています。
S社長から、次のような言葉で今の状況の説明がありました。
「社員との会話は、激減しました。その分、彼らとは、濃いコミュニケーションが取れています。社員と働くことの楽しさを、初めて知ることができました。」
目をウルウルさせる二人です。
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