嗅覚性商品リニューアルの戦略実務
「主力商品がいまひとつ人気がでない」という課題はコロナ禍であろうとなかろうと、変わらないテーマのひとつです。売れない商品サービス、売れないお店、売れない企業の言い分に耳を傾けると、不思議なほど共通している「考え方」があります。
売れない商品に悩む社長、幹部の多くが「施策に問題があり」と考えています。もちろん最低限の策は必要不可欠です。例えば、一般的に店舗なら「看板」や「サイン」が必要になります。検索の時代ですのでネット環境を整備していくことも当たり前に必要です。顧客層のライフスタイルに合わせてアナログでのご案内も必要です。動画や紙でのマニュアルも最低限整えた方がいいでしょう。広告宣伝、広報的な視点ももちろんなくてはなりません。
経営者として、これらが当たり前だと考えられることが大前提です。その上で「人気が出る・出ない」の差はどこにあるのか。お金をかけて広告宣伝をする、営業する、PRする。そんな「施策」の差で勝ち負けが決まっている。そう叫ばれる社長が多いです。そう決めつけておられますが、ほんとうでしょうか?
仮にそうだとするならば、施策にお金をかけられる大手企業の商品サービスは、すべてヒットするはずです。そもそもお金をかけて作った素晴らしい商品やサービスです。その全てがヒットしなければ理屈が合いません。しかし、現実世界はそうなっていません。
では、人気とは何でしょうか。人気のある商品、お店、企業は、お客様が「ここの味をどうしても知ってほしい」「この商品を知ってほしい」「この店、すごくいいから教えてあげたい」となる状態にあります。それはラーメンでも車でも、たまたまテレビで観たタレントさんでも同じです。
なぜお客様は、そういう気持ちになるのでしょう。ここで少しだけ考えてみてください。とても大切なポイントです。
「商品が〇〇で品質が良かったから」
「タレントの人柄が〇〇で良かったから」
「お店の人が〇〇で居心地が良かったから」
「デザインが〇〇でかつコスパだったから」
全部ノーです。
人気が出るとは、お客様が頭で考えた結果そうなったわけではないのです。むしろ逆です。理屈ではなく動いてしまった結果なのです。衝動買い、口コミという動き方です。人気が出るものには、理屈、損得、合理性を超えたものがあります。割に合わないような「ドク」や「バカ」、訳のわからない「トンデモ」が込められています。お客様にとって「どうかしている!」ものなのです。
お客様とは、頭で考えて買い物をするわけでなく、嗅覚で匂いをかぎとりながら、買い物をしているのです。「臭気」のバロメーターが高ければ高いほど「人気」が出るのです。
名古屋の老舗和菓子メーカーに「両口屋是清」という会社があります。「りょうぐちや これきよ」と読みます。この会社は、5年ほど前に「和菓子 結(ゆい)」という別ブランドのお店を出店しました。コンセプトは「手のひらサイズのプチ和菓子」です。東京に2店舗、お膝元の名古屋に1店舗、合計3店舗を展開しています。
先日、新宿の駅ナカにあるこの店で、お持たせを買いました。「つぶらか」というどら焼きです。そのどら焼きがユニークなのは、パッケージの上に「帯」のような紙をかけている点です。その帯びは「メッセージ」が書き込めるようになっているのです。「KitKat応援メッセージ」のどら焼き版といったところです。
メッセージを書き込みたい人用に、筆ペンが用意されています。「ありがとう」や「おめでとう」など、自身で自由にメッセージを書き込むことができます。メッセージ不要の人は、その帯を外せば良いだけです。
この「メッセージ帯」をつけているのもユニークですが、さらにこの店はある意味「どうかしている」あることをして売上アップにつなげています。
この店では、応援メッセージに手描きのイラストを一枚一枚書いて用意しています。和菓子需要が細る中、「どうしたらお客様に喜んでもらえるか」「どうすれば、もっとワクワクするお店になってお客様に再来店していただけるか」を店長とスタッフで考え、実践したのです。
スタッフはこう話します。「もちろん店舗の統一感が会社のルールですから、最初の頃は本部から否定されました。でも、お客様がとても喜んでくださったんです。売上もアップしました。このイラスト、癒されませんか? このアイデアがすごく好きなんです! 」。そう熱く語りながら、分厚いイラスト帯の束をいくつも見せてくれました。
イラストには、ハッピーモチーフの「四つ葉のクローバー」、季節に合わせて「紫陽花」や「かえる」や「雨の風景」などが筆で描かれています。そして、色鉛筆で彩色しています。一点一点全てがオリジナル。シーズンによって絵柄を変えて、ストックして用意しておく。素敵なフレーズを考え、書き入れたりしています。
自由に書き込みたいお客様にはペンを手渡します。書き方をアドバイスすることもあるそうです。筆ペンをお借りして、メッセージを書き込んでみました。そうするとスタッフはニコニコしながら「いい字をお書きになりますね〜」とか「なるほど、そういう言葉もいいですね」とメモをとっているわけです。この時の気持ちは「そこまでする? 」「お店の雰囲気が温かいな〜」「たのしいな」「効率化の時代に、どうかしてませんか? 」という気持ちになり、無性に誰かに伝えたくなるのです。
今は新宿店での独自展開で、若いお客様を中心に「リピート」してくれるということです。多店舗展開している本部から見れば、こうした店舗は「No!」で、すぐさま「勝手なことはするな」と指導が入るはずです。ブランドとしての統一感が必要だと考えているからです。
しかし、時代が変わりました。人口減、少子化、コロナによる消費低迷の今、本質は「社会の老化」です。発想力、変化への挑戦、チャレンジングに対する恐怖心を感じやすい社会になっていること。これが消費低迷につながっています。お客様がときめかない時代になっているのです。
お客様の心を動かすのは、作り手の「熱量」です。効率が悪くても、理屈に合わなくても、そこに込められた“どうかしている熱”に心を揺さぶられ、共感し、応援し、その店や商品が好きになる。「大好き」になるのです。
生活者が今求めているものは「作られた安心」や「マニュアル」じゃない。お客様が求めているのは、人間そのものが目の前にい、心揺さぶられる“舞台”です。お客様が触れたいのは、摩訶不思議で理屈には合わない「人間らしさ」です。狂おしいほどの情熱に触れたいのです。
匂いを発すること。お客様の嗅覚に突き刺さる商品リニューアルをしましょう。今までの世界に安住していてはなりません。変化とは壊すこと。自社の考え方とやり方を変えて、お客様を喜ばせることです。無傷であるわけがない、変化を選んだ社長は傷だらけです。
しかし、しかしです。それがお客様には伝わるのです。その覚悟と不格好が無意識に伝わる。そこに慈愛が生まれお客様がつく。そんなどうかしている商品やサービスをお客様は好きになるのです。だから商売ってステキなのです。おもしろいのです。
お客様は「嗅覚」の生きものです。人間はみな不器用です。誰もが実は不恰好です。お客様はその匂いを嗅ぎとる天才です。そんな生き方とお客様自身を重ね合わることができるからこそ、強い「推し」になってくれるのです。新しい時代を迎える今、デジタル化が進み、均一やツルツルっとした手触りのない時代へと人類は進んでいます。
御社が進むのはどの方向でしょうか? ツルツルっとした誰もがやっている世界なのか、それともザワザワとした胸騒ぎの商品リニューアルなのか? 爪痕を残していく、そんなビジネスが、未来をつくっていきます。自ら老化を打破する社長をわたくしどもは応援しています。
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