社長の介入は会社のIT化を妨害する?
脅し文句がタイトルになってしまいますが、社長の一言や執拗なこだわりによって現場のIT化が阻害されてしまったり、せっかく開発したシステムが使えないものになってしまうケースが後を絶ちません。
この背景は、「できあいのものを導入すれば、後は説明書を読めば使える」設備機械とは違い、IT化に必要なソフトウェア開発があたかも「工場棟の設計」に似たプロジェクト活動であることに起因します。
工場棟を作る際には当然のことながらモノの流れと人の行動を最適化することが最重要となります。かなり細かい検討作業が必要となるので、この設計段階では現場の社員に権限を与えて任せるのが一般的です。
もちろん社長はその要所要所で報告を聞き、できあがった図面を確認しつつ自分の意見を言うことになります。それをベースに設計図に手直しが入り、また確認し、というプロセスを数回繰り返し、図面が確定します。システムについてもこれとほぼ同じプロセスを経て設計が確定するのですが、ここに大きなハードルが存在します。
それは、「システムの設計図は建物の設計図と違って素人が読解することが極めて難しい」からです。詳細は割愛しますが、ソフトウェアの設計書は一般的に以下の要素で書かれます。
- 機能一覧とその詳細
- データベースの定義とデータの流れ
- 運用の流れ
- 開発に使用するソフトウェアやその環境
等々・・・
建物の図面の場合、紙の平面図とともに最近では3Dの画像やバーチャルリアリティによる3Dでの閲覧ができますので、素人でも間取りの不備や出入り口の配置の善し悪しなどが比較的簡単に解ります。しかも、大体の場合「その場」で確認が完了します。
ところがソフトウェアの場合、上記の様な大半が文字と表、技術者側の見方に偏った専門的な図で示されるので、技術的知識の無い施主、つまり社長と担当社員が簡単に解読できるものではありません。システムの開発者にもそれは解っており、一つ一つ丁寧に時間(期間)をかけて説明をしてくれるわけですが、ここで良く発生するのが、「担当者は理解し、設計案を良しとしたが、その途中で社長が余計なことを言ったが為に混乱を来した」といった事象です。社長の「余計なひとこと」とは、例えば、
「設計が進んでいることは報告を聞いて解った。それはそうと、Xの機能はYの様になっているよね?前から言っている通り、この機能は当社の将来を考えると極めて重要なのだから、必ず実現できるようにして欲しい。」
といったようなものです。社長としては思い入れや期待を述べているつもりですが、実は社長は「木を見て森を見ず」な状態で発言してしまっているのです。担当者としては何日もかけて説明を受け、やっとの思いで全体を理解し確認作業をこなしてきているわけですが、社長のこの一言で全体(つまり森)を見ることをいったん忘れ、社長の言った機能(つまり木)にどうしても集中してしまいます。それを社長が思う理想的な姿に仕上げるために精力と努力を過剰に集中させすぎてしまいがちになります。
しかも、多かれ少なかれ仕様を変更すると、他の機能にも必ず影響するのがソフトウェアです。社長の一言による変更によって全体に対してどのような影響を受けたか、再度レビューが必要ですが、これがまた前述の通り時間と手間がかかります。全体の工期と予算には制限がありますから、どうしてもシステム全体の確認作業がおろそかになり、結果的に作ってみたら不都合だらけ。社長が拘った機能だけが単独で満足行くものに仕上がったが、他の機能との連携がきちんと検討されていないので現実的には運用できない。といった事故が発生するのです。
では、社長は仕様に対してどのように指示すれば事故を防げるのでしょうか?
答えは一つしかありません。それは「システムを導入する目的と具体的な目標値(あくまでも数字)を明確に指し示して、それを実現できるように担当者に指示する」といういたって普通のことを普通にやるだけなのです。ただ、目的や目標値の明確化を定めるのは現実的に相当大変です。目標値を定めるということは現状を可視化しないといけませんし、それも数字で裏付けねばなりません。更に目標値は数字ですので測定方法が定まっていないといけません。なかなか難物ではありますが、それをきちんとやらなければ失敗の可能性が高まってしまいます。
システム化は巨額の投資を必要とすることになるので、社長の役割は当然大きなものになります。しかし技術的・工数(期間)的ハードルが高いため、部下に任せるしかありません。その任せ方が甘いと、途中で介入せざるを得ない状態となり、ここで述べた失敗を招くことになります。変なタイミングで介入することのないように、綿密な計画をあらかじめ立てて、それを部下に実行させる。これをぜひ心がけて頂ければと思います。
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