社長、「誰にでもできること」やってませんか?!?―仕事の優先順位について改めて考える―
仕事の優先順位を考える上でよく知られた手法に、「重要性」と「緊急性」を縦軸、横軸に取ったマトリクスがあります。
ビジネス系のマトリクスでは最もよく使われる有名なものではないでしょうか。
緊急性も重要性も低いもの、緊急性は高いが重要性は低いもの、緊急性は低いが重要性は高いもの、緊急性も重要性も高いもの、といった4つに分類してマトリクスを作成し、仕事の優先順位を考えます。
おそらく、これまで1度や2度は試みられたことがあるのではないでしょうか。
このマトリクスと同じ考え方で、縦軸に「仕事の難易度」を横軸に「担当可能性」を持ってきたらどうなるでしょうか。
「仕事の難易度」はなんとなくわかると思います。「担当可能性」? 変な言葉ですね。どう表現したらいいのか、なかなか難しいので、このような言葉にしてみました。つまり、誰でもできることなのか、限られた人にしかできないことなのか、といった観点で、担当可能な仕事を絞っていった場合どうなるのかを分類してみたのです。
例えば、ということで実例を一つずつ上げていけば次のようになります。
1、誰にでもできて難易度も低いもの・・・ルーチンワーク的な処理業務
2、誰にでもできて難易度の高いもの・・・判断が必要な処理業務
3、限られた人による難易度の低いもの・・署名押印
4、限られた人による難易度の高いもの・・トップセールス・交渉
上記の中で、1と2については「誰にでもできる」という点において、若干の差があります。処理業務も「ルーチン的なもの」と「判断を伴うもの」では、パートでも対応できるか、正社員でなければ対応できないか、といった差はありますが、とりあえず、一般社員までならできるだろう、ということで「誰にでも」の範疇に入れておきます。
3の署名押印は難しい仕事ではありません。日本人であれば誰でも署名くらいはできますし、ハンコの押せない人はいません。しかし、これは社長の署名でなければならない、或いは部長までしか決裁権がない、といった場合は、そのポジションの人しかやってはいけないことになります。
問題は4ということになります。
それは担当できる人が限られていて、かつ難しい仕事ということです。
これは意外に「ないようである」または「あるようでない」といえるかも知れません。
取りようによって、どちらともいえるのです。どういうことでしょうか。
例えば、経営方針や経営計画の話をしようとすると、
「現場の仕事が忙しくて、そんなこと考えている暇はないよ。」
とおっしゃる経営者がいます。
しかし、事業の方向性を考える時間も作れないくらい余裕が持てないようでは、むしろ会社の行く末が案じられます。
逆に、直接現場の仕事にはタッチしてないまでも、
「資金繰りをはじめ現場への指示など、細かいことから全部自分で処理しているので忙しすぎる。」
とおっしゃる経営者もいます。
これについては、多少重要な案件であっても、ある程度権限を移譲していかなければ、いつになっても余裕というものは生まれません。
経営トップがいまだに現場仕事にどっぷりハマっている、ということは、1の「誰にでもできて難易度も低いもの」と、4の「限られた人による難易度の高いもの」の両方とも同時に、経営者が携わっているということになり、これは極めて非効率と言わざるを得ません。
また、さすがにそのレベルからは離れているといっても、あらゆる判断や決済を経営者が自分のところに集中させていたのでは、上記の2から4までを自らが行なっていることになり、これも非効率と評価せざるを得ません。
つまり、何が申し上げたいかというと、経営者は、1と2から離れるのはもちろんのこと、3の「限られた人による難易度の低いもの」もそこそこにして、4の「限られた人による難易度の高いもの」に、自分の仕事を集中していってもらいたいということです。
そうでなければ、本当の意味での「企業力」というものが上がっていきません。
それでは、4の「限られた人による難易度の高いもの」には例として挙げた「トップセールス・交渉」以外に、どんなことが考えられるでしょうか。
ここの大きな役割の一つに「会社の方向性や方針を決める」ということがあります。
この仕事は、1から3までの中には含まれていません。もちろん、会社の行く末をみんなで考える、というのは大事なことですが、最終的に決めるのはトップの仕事だからです。
その場合、ときとしては、みんなが考えた方向性と違う結論を出すこともあるかも知れません。
それは「トップにしか見えない未来」といったレベルの発想が必要な局面も考えられるからです。
イノベーションに対して、社員のレベルでは保守的な考えしか持てないケースもあるからです。
その他にも、4の「限られた人による難易度の高いもの」には、いろいろな項目が考えられます。事業のタイプによって異なる内容にもなりますので、それぞれ企業トップは真剣に考えていただきたいと思います。
さて、この4のケースにおいて、具体的にできる行動として取り組んでいただきたいことがあります。
それは、私がいつも申し上げている、経営者による「情報発信(アウトプット)」です。
内容について特に問われなければ、現代社会に生きる人であれば「情報発信(アウトプット)」は誰にでもできることです。
しかし、その内容が、自らが行なっているビジネスに深く関係あるものとなると、どんな内容でもいい、というわけにはいきません。自らのビジネスを世に広く知らしめ、理解を促し、多くの支持を得るための仕掛け、といったレベルになると、それなりに吟味された内容が必要になってきます。またそういった「情報発信(アウトプット)」であれば、経営トップというポジションにある人間が発することそのものに大きな意味が出てきます。そういう意味では、典型的な4の「限られた人による難易度の高いもの」に該当するのです。
ただ、このことを深く自覚し理解している経営者は、まだ極めて少数派です。サンプルとして取り上げた「トップセールス・交渉」や「会社の方句性や方針を決める」などは、比較的理解を得やすい内容だと思いますが、ここに、経営トップによる「情報発信(アウトプット)」を持ってくること自体まだ珍しいのかも知れません。
しかし考えてみれば、それだけに「差別化」の要因としては、かなり有効なものとなります。
企業にとって「限られた人による難易度の高いもの」の内容を真剣に追求することは、重要な試みと言えます。
ただ、そういう切り口でアプローチしている経営者まだ少数派に過ぎません。
中でも「情報発信(アウトプット)」をその重要な位置づけとして捉えている人はまれといえましょう。
この極めて有効な差別化戦略について、是非実践してみられることをお勧めいたします。
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