売り手にリスペクトを贈るおひねりシステムの活用法
以前からたびたびクラウドソーシングのお世話になって、スキルを要する小さな仕事を手伝ってもらっています。
クラウドソーシングとはネット上に自前のスキルを登録した人と、そのスキルを一時的に使いたいユーザーを結ぶサービス。一昨年あたりから話題に上るようになった兼業・副業の波に加え、コロナ禍下のリモートワークが追い風になって、その市場はますます活況を呈しているようです。
スキルの提供側には、すきま時間を使って働けるというメリットがあり、需要側にも、その時だけ必要なスキルをかなりリーズナブルな価格で調達できるというわけで、一見ウインウインのマッチングサービスです。
考えてみれば、これまでの無理や無駄はほとんどマッチングの不備から起こってきていました。残余ワクチンの破棄問題も、フードロスの問題も、シニアの再就職問題も、ルールと情報共有の仕組みがあれば解消への道筋が目指せるはず。
今回の話題はそこではなくて、とあるクラウドソーシングが採用している「おひねりシステム」について。小さな仕事を依頼するときには、スキルの提供側がまず大体のところの費用を提示して仕事が進むわけですが、依頼側の期待を超えた素晴らしい出来栄えであったときや、琴線に触れる提案があったときに、依頼者は後から追加で「おひねり」を支払うことができます。
「おひねり」とか「投げ銭」とか言われる追加で支払われるお金、日本では芸術・芸能の世界で習慣的に支払われてきたものです。最近ではオンラインライブなどの動画配信サービスにも標準装備されていて、主催者は有償チケット以外の収入を得ることができるようになっています。
知り合いのシステムエンジニアは自分のアイデアで面白いプログラムの開発を進めるほどに、ネットを介して投げ銭が集まると言っていました。主要なSNSにも投げ銭機能が搭載されて、共感や応援がお金というかたちで行き交っています。
海外生活が長い知り合いは「それ、チップじゃないの?」と仰います。追加の支払いという考え方で言えば同じですが、どうもちょっと印象が違う。
たとえば「チップ」には、あげる人ともらう人の間に上下関係を感じるのに対して、「おひねり」には、あげる人からもらう人へのリスペクトがある。お金という価値を通して、尊敬や感謝が伝わるので、粋な感じがするのです。
どんな商品やサービスでもそうですが、一番最初に値決めをするときは、だいぶ頭を使います。同様の商材の価格を調べて、それと比べて安く出すか、高く出すかは、まさに戦略。2000円より1980円の方が売れ行きがいいとか、売価は原価の3倍とか、ある程度の定番の考え方というものがあります。
でも共通しているのは、売り手が価格を決め、買い手がその通りに支払うという構造。もちろん「値切る」という習慣も厳に存在していて、値切られるのを想定してあらかじめ高い金額を提示するとか、値切りに備えて端が切れる数字を用意しておくとか、いろいろテクニックもあります。そして、大体は、首尾よく値切ることができたほうは嬉しくて、値切られた方は、悔しい。
おひねり文化は買い手の売り手の関係がフラットな上に、売り手の提示価格より高い金額が支払われるという構造です。そして両者ともに嬉しい。
以前にも書きましたが、デジタル化とコロナ禍を経て、お金の使い方が急激に変わっています。クラウドファンディングしかり、ドネーションしかり。商品やサービスの工夫と合わせて、お金を払っていただく仕組みにもなにか一工夫、考えたいと思う今日この頃です。皆様もぜひご一緒に。
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