人を辞めさせる仕組みをつくる。
「先生、次は管理者二人が辞めたいと言ってきました。」
販促物制作業N社長が、席につくなり口を開きます。
先月も社員二人が会社を去っていきました。N社長は、焦っています。
「先生、何か対策は有るでしょうか?」
私は、御聞きします。
「その2名の管理者は、必要でしたか?」
N社長は、少し考え、答えます。
「特に、必要ではありません。彼らが抜けても困ることは起きないはずです。」
会社とは、「一つの事業を行うためのシステム」だと言えます。
また、会社とは、「人を育てるシステム」とも言えます。
会社という環境に入ることで、人は成長することが出来ます。
学校を卒業し、入社すると、訓練を受けます。社会人としての基本的な態度から会社のルールまで説明を受けます。そして、先輩からマニュアルで業務手順の説明を受けます。そのルールも手順も、会社としてのノウハウです。それを短期間に身に付けることができます。
入社後2、3年という自分の受け持ちの業務を覚えたころになると、プラスアルファの業務を与えられることになります。それは、「業務の改善」だったり、「後輩の指導」であったりします。「業務の改善」のためには、企画書をつくり、関係部署や外部業者との打ち合わせが必要になります。計画的に進めることを担うのです。
「後輩の指導」のためには、自分の感情の自制が必要になります。また、後輩の出来ない理由を分解し、説明することが必要になります。自分の成長でなく、人の成長に責任を持つことになるのです。
いよいよ主任になると、自分のチームを持つことになります。チームのマネジメントから受け持ちの業務の改善まで継続的に取り組みます。日々起きるイレギュラーに対し、適切にジャッジし、指示を出す重要なポストです。そのためには、会社の方針がある程度解っている必要があります。
課長、部長という管理者になっても、基本はやることは一緒です。しかし、その管轄する業務や人数は、より大きくなります。当然、全体への影響力も強くなります。その分野を、「自分自身」がゴリゴリ進めなければ、会社としての発展はないのです。外部の情報も意識して取りにいきます。
このように、会社に入った人は、其々の層において、成長する機会を与えられます。そのすべてが経験したことが無いことばかりです。そのため、頑張る必要があります。調べたり、考えたり、そして、行動したりすることが必要なのです。
その結果、成長することができます。
会社とは、人格的にも未熟で技能を持たない人を、人格も立派で、技能にも優れたプロフェッショナルにする機能を持つのです。
会社として、この「人が育つシステム」をつくる必要があります。
このシステムは、裏で次のような働きもします。
『合わない人を振るい落とす』
入社した最初の訓練体系で、当社の最低限の質を満たせない人を振るい落とします。その基準は、「態度が悪い」のか、「基礎能力の不足」となります。訓練制度があるお陰で、その評価も進捗具合も明るみになります。
そして、若手になると、教育が始まります。業務の改善や部下の面倒を見ることを振られます。「考えることができる」、そして、「自分以外の人の管理ができるかどうか」、それが問われることになります。これは、管理者の素養であり、役割と言えます。明らかに素養に欠ける人は、今まで通りの作業を担ってもらいます。
そして、一つのチームやプロジェクトのリーダーをやらせます。管理者としての「マネジメント能力」、そして、「実現力」が必要になります。ここで、管理者候補かどうかの見極めをします。
このように『合わない人を振るい落とす』機能が働くのです。
会社にとって、人を育てるとは、人を適切に選別することを意味します。
人を育てることができるからこそ、人を落とすことも出来るのです。
人を育てることができない会社は、人を選別する機能を持たないことになります。そのため、会社は「合わない人でも居られる状態」になります。
冒頭のN社は、まさにその典型でした。来る人は拒まず採用してきました。そして、訓練による選別はありません。管理者に上げてはいけない人を任命しています。
入社してすぐ受ける訓練プログラムはありません。そして、テキストとなるマニュアルもありません。特に、態度については、しっかり言及している資料が全く無いのです。その結果、教える社員に丸投げになっていました。
N社長は、指導を任せた社員に訊きました。「彼は、どう?」
その社員は答えます。「まあ。」
明確な回答はありません。実は指導を任せられた社員も、「何を教えればよいのか」、解っていないのです。その結果、作業ばかりを教える状態になっていました。態度については、一つも言及することはなかったのです。
そのまま、試用期間が終わります。(試用期間でさえも、全く管理できておらず、いつの間にか終わっています。)
その結果、採用した人すべてが残っていきました。その全てが、「何も教わっていない人」なのです。
これは、決して良い状態ではありません。採用した全員が、問題が無いはずはないのです。ましてや、N社には、まともな「採用の仕組み」もありません。応募者が少ないため、ほぼ選別をせず採ってきたのです。
そして、そんなN社です。当然、管理者を機能させる仕組みなどあるはずがありません。それは同時に、管理者を選別する機能を持たないことを意味します。
実際に、管理者の素養も能力も無い人を、管理者にあげていたのです。
ある管理者は、作業ばかりを真面目に20年続けてきた人です。
ある管理者は、理屈をこねる割に、自分では全く動こうとはしません。
ある管理者は、部下を罵倒します。人格に問題があるのです。その部の業務は一様回っているだけに、N社長も強くは言えずにいました。
その結果、社内は、ひどい状態になっていました。事務所内は、物が氾濫し、雑然としています。だらけた空気が流れています。社員同士はコソコソ話をしています。
すでにN社は、崩壊をしていたのです。この状態が長く続いているために、優秀な人はとっくにいなくなっています。また、お客様からのクレームも多くあります。
N社長が、仕組化に取り掛かり6か月が経過したころ、『予定通り』のことが起き始めました。
2名の社員が、「辞めたい」と言ってきたのです。
N社長にも、もう見えるようになっていました。その二人は、明らかに、「合わない人」なのです。
この事象は、仕組化の過程で必ず起きることです。これは、「会社がまともになってきた証拠」なのです。組織が本来持つ、自浄作用が機能し始めたのです。
その一方で、一部の社員が頭角を出すようになってきました。
一人は新卒2年目の営業担当、もう一人は経理部のパートの女性、そして、デザイン部のベテランスタッフです。彼らと一緒に、仕組みづくりを進めています。
会社の雰囲気も、ずいぶん明るくなってきました。社員同士の明るい雑談も聞こえてきます。
そんな折に、管理者2名が辞表を持ってきました。
N社長は、それを受理したのです。そこに、迷いはありません。全く管理者の役目を担っていないことは、社長にも他の社員にも明らかなのです。
人と人には、相性があります。人と会社にも、あります。
必ず、合う合わない、があるのです。
ダメな会社では、それをごまかしています。何をしてほしいか、何を直してほしいのか、明確にしないのです。その結果、人を活かすことも、成長させることもできません。それは、残酷なことです。
採用時には、はっきり発信することです。
「当社は、こういう人がほしい。」
そして、訓練で、しっかり合意を得ることです。
「当社では、こうしてほしい。」
管理者にも、きちんと依頼することです。
「こういう貢献をしてほしい。」
伝えれば、彼らは、答えてくれます。
これを、社長が直接伝える必要はありません。
仕組みがやってくれるのです。
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