優れた営業パーソンの聴き方
仕事の打ち合わせやコンサルティングの現場で、「この聴き方はすごいな」と思う方に時々出会います。一言で言うと、すごく自然。コーチングやカウンセリングの世界では、傾聴のテクニックがありますが、優れた営業パーソンの聴き方はテクニックを感じさせず、とにかく自然。たぶん、長年培った経験によるものなのでしょうが、熟練の職人のような技を感じます。
そう感じるのは、第一に情報提供や自己開示の局面です。まず最初に自分が話し始めます。相手にとって必要であろうと思われる情報について、第三者的に、ではなく、自分をその中において話します。だから、話し方にその人が現れる。そこに好感が持てます。
話し方に熱がこもっているかどうかはその人次第。熱がこもる話し方も、朴訥に話す話し方もその人の個性なので、表に現れる話しぶりがどうのこうのというよりも、その人らしさが表れているかどうかが、印象を左右します。
よく第一印象が、その後の印象や好感度を決めると言いますが、そのあたりの話しがこれ。
そんな風に言われると、恰好つけたくなるものなのですが、下手に恰好つけると逆効果。付け焼刃は、いずれ、ばれます。そもそもやっている本人が苦しくなります。
人が他人に好感を持つときの一要素に「人間らしさ」を見たときというものがあります。人間らしさをもう少し具体的に言うと、弱みや欠点があることを気にせず見せるということです。下手に恰好をつけてパーフェクトを目指しても、うまくいかない。逆に意図して見せるといやらしくなる。ここのバランスはとても微妙です。
弱みや欠点は職場では他人に見せられないというのが、働く人の武士道みたいなものでした。実はそれが人と人の間に壁をつくる原因になっています。弱みを見せられないのには、それなりの理由があります。しかし、たとえばグーグルが調査して有名になった「心理的安全性」が確保されていれば、弱みを見せることのメリットが表に現れます。互いにカバーしあうというメリットです。
さて、優れた営業パーソンの話に戻ると、ひとしきり自分から情報を提供して、しばらく時間がたつと、相手もそろそろと自分の情報を開示し始めます。営業パーソンの話を聞いた感想や、それに呼応した自分の経験や、ずっと話そうとタイミングを待っていた本題や。
見事だと思うのは、相手が話し始めた瞬間です。その瞬間から、営業パーソンは自分の口を一切開かず、傾聴モードに入ります。じっと集中してこちらの話しに聴き入り、こちらが話し終わるまで意見も質問もさしはさみません。そして、こちらが言葉に詰まると、助け舟を出すように言葉を出す。
これはテクニックというよりも、たぶん、話し相手に対する思いやりから出る行為だろうと感じます。打ち合わせや相談が、双方の満足のうえに終了するようにというような目的のもとに、人としての相手を尊重した会話の仕方です。
余談ですが、色々な人と話をしていると、ときどきこちらと同調するためのテクニックを仕掛けてくる人がいることに気づきます。たとえば、こちらが腕組みをすると、同じように腕組みをする。右手を上げると鏡のように左手を上げる。心理学でいうミラーリングというものであるらしく、ラポールと呼ばれる信頼関係を築くのに有効だとか。
信頼関係が築かれた結果のミラーリングでなく、何らかの意図のもとで信頼関係を築くためのミラーリングであるとしたら、ちょっと気持ちが悪い。
余談ついでにもう一つ。機関銃のように言いたいことをまくしたてる人。ある女性は「私を、人間ではなく壁だと思っている」と憤慨していました。こういった人の場合は、相手の意向は無視して、とにかく言いたいことをしゃべり、伝わった気分になっている。会話の目的や相手に対する配慮がないので、言葉は聞こえるけど、情報は伝わらない。
商品やサービスを売ろうというときや、会話のなかから何らかの合意事項を導き出そうという時は、相手が感情を持った人だということを忘れると、目的が達成できません。自分のしゃべりでいっぱいいっぱいでは、優れた営業パーソンにはなれないということです。
これ、何らかの目的のある人間関係であれば、あてはまる法則だと思います。相手の反応を見ながら、自己開示と傾聴を自然に使い分ける。
人は他人のふりを見て我が身を直します。会社の上の方の人のマネをして下が育ちます。上に立つ人は気をつけないといけません。私も気をつけます。
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