価値観の源泉
経営者の仕事は「決断すること」だといわれます。もちろんそればかりではありませんが、すべては決断から始まりますので、その点では最も重要な仕事の一つであることは疑いようがないでしょう。
ここで改めて「決断」の意味を考えたいと思います。ちなみに「決断」とよく似た言葉で、「判断」という言葉があります。言葉の意味を考えるときに「これは何であるか」と同時に「これは何でないか」を考えるとより理解が深まります。よって、この二つの言葉を比べてみたいと思います。
私の考えを一言で言えば、「決断」はアートで、「判断」はサイエンスです。「決断」は本人の意思(主観)が重要で、本人にしか結論が出せません。決断により未来の方向性が定まります。決断は周囲の共感へとつながります。「判断」は過去の事実(客観)をもとに優劣や正誤、善悪を区別することです。基本的に再現性があり、他者でも同じ結論を出せます。判断は共感ではなく、納得する(させる)イメージです。
つまり「決断」には正解がなく、「判断」には正解がある。少し乱暴ですが、私はこれが「決断」と「判断」の違いだと考えています。正解がないからこそ、「決断」が経営者の最も重要な仕事と言われるのです。
決断をさらに難しくするのは、往々にして「決断」をする際、一方が良いことでもう一方が悪いことという簡単な話にならず、双方とも、それなりに理由がある「正しいこと」から選ぶ場面がほとんどだということです。
ですので、決断には当人の価値観が如実に表れます。価値観とは言い換えれば好き嫌いです。つまり決断するには好き嫌いという感情が不可欠なのです。それを裏付けるように、脳外科手術で「感情的部位」を失った人は、完ぺきな論理型人間になるのではなく、「決断を下せない人」となるとの論文も出されています。
また、経営者のみならず、個人においても例えば「会社を辞めて独立する」「会社に残り社長を目指す」のような決断をする場面は当然あります。しかしその数は経営者との比ではなく、経営者は決断の連続といってもいいぐらい、正解のない問いに答え続けていく必要があるのです。この点、経営者の資質として、「好き嫌いの強さ」を持つことは必須とも言えるでしょう。
経営者の大半は強い想いを胸に事業を起こしています。私の周りでも「好き嫌いが激しい」創業者は枚挙に暇がありません。こういった方は例外なく決断と行動が早く、自分が思ったことは即実践します。カリスマ的な社長も少なくありません。通常なら決断しないようなことを文字通り即断即決する「決断力の強さ」は、間違いなく「好き嫌いの強さ」が相関しています。
結局何が言いたいのか。経営者の最も重要な仕事の一つは決断することであり、それには好き嫌いが切り離せません。実はこの「好き嫌い」こそ、経営の根幹であり、会社の強みを創るものです。そして好き嫌いを価値基準として、対外的に伝わるように言語化したものが「理念」となります。
理念がない経営者の方には、まずは自分の好き嫌いを挙げていただきたいと思います。今でも決断する際には必ず基準となっているはずです。好き嫌いはそう簡単に変わりません。ぜひ時間を取って、あらゆる側面から自分の好き嫌いを見直してみてはいかがでしょうか。自分自身の価値基準が明確になり、さらに決断力が上がります。
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