多くの会社は、人材育成はできません。それは、あるべきものが無いからです。
N社は、社員数15名の年商3億円のシステム会社です。お互い不慣れなオンラインでの面談のため、開始までに少し手間がかかりました。
N社長は、言いました。
「うちは、このコロナ禍でも、全く引き合いは減っていません。人材育成さえ上手くできれば、もっと事業を拡大できるはずです。」
私は、いつもの2つの質問をします。
「経営計画書は回っていますか?」答えはNOです。
「では、仕組みはありますか?」これもNO。
私はお伝えしました。
「今の御社では、人材育成は無理なはずです。」
『教育』と『訓練』という其々の機能を、企業は持つ必要があります。
『教育』とは、「会社の未来づくりに貢献できる人材をつくること」を意味します。大きくは「部署の目標達成」と「仕組みづくり」になります。
- 部署の目標達成のために、方針や計画を立て、部下に行動レベルの指示を出す。実行段階で起きる問題に対し、方針と計画を修正し、再度指示を出す。そして、なんとかその期の目標を達成する。
- 部署の目標達成の過程で起きる問題に対し、対策を打つ。恒久的に成果が出せるように仕組化をする。
上記の未来づくりに貢献できる人材をつくるのが、『教育』です。
それに対し『訓練』は、下記の定義になります。
「過去に獲得した自社のノウハウを、手っ取り早くその相手に移管すること」。
自社のサービスを提供(量産)するうえで必要となる態度と手順を、まずは正しく出来るようにします。
このように『教育』と『訓練』は、全く別物となります。
世の中では、この二つを合わせて『育成』という言葉で表現しています。
しかし、正確には、「育成」に「訓練」を含むことはありません。育成とは「development(開発)」であり、「training(訓練)」とは、違うのです。
現に、大手チェーンの店舗という現場においては、「訓練」という言葉しか存在しません。新人のアルバイトを、「訓練」することはあっても、「育成」することはないのです。
企業の持つ機能としては、それは全く別のものと考え、其々を構築する必要があります。
企業の『教育』の機能とは、下記の状態を獲得した状態と言えます。
「其々の社員のレベルに合った達成目標や仕組化のテーマを与え続けること」
未来に向けた取組みに対し、社員を参画させていくのです。
若手には若手なりの、中堅には中堅なりの目標や課題を与えることをします。其々のレベルを考えると、誰もが頑張らなければならない目標であり、課題となります。それが「適当に高い」からこそ、その社員は、次の状態に「漬かる」ことになります。
- 自分で調べ、考える。会社の方針書を見返す。専門書を自腹で買う。
- 企画書をつくる。また、行動計画を立てる。
- 他の部門と調整を図る。時に外部の業者やコンサルタントと協同する。
- チームをまとめるために、メンバーへの情報量やその伝え方を工夫する。
- 部下や後輩を、実務とメンタルの両面でフォローする。
この状況に置かれることで、その社員は、育っていきます。この企業の未来への取組み、すなわち、組織の成長サイクルに巻き込んであげること、それを『教育』と言います。
この『教育』に必要となるものが、経営計画書を回すことです。
目標達成への取組みも、仕組みの改善も、経営計画書を軸にして進められます。経営計画書とは、そのためにあるものであり、会社の『成長』を司る機構なのです。
会社の成長のサイクルが回っているからこそ、人にも育つ必要性が発生するのです。会社として絶えず新しい何かに挑戦しているからこそ、そこにいる人も成長の機会が得られるのです。
N社長は、この説明を聞いて現状を述べます。
「うちにはそのようなサイクルはありません。私と幹部の二人しか目標達成や仕組みについて考えていません。他の全員が作業ばかりしています。」
そして、少しの間をおいて次の質問を発しました。
「先生、いまの当社には、教育は無理だということですね。」
N社は完全なる数億企業の特徴を持っていました。
- 経営計画書に似たものはつくったが、機能していない。
- 問題が起きた時の会議のみ。定期的な進捗確認の会議は皆無。(必要性がない)
- 会社の目標達成について考えているのも、仕組みづくりをするのも、社長とその幹部の二人だけ。(実際には、二人も仕組みづくりに向かえていない。)
- 他の社員は、日々「案件」をこなしている。(暇なわけではない)
N社長は、自社になぜ人が不足しているのかを理解しました。人が育つための機会を提供できていないのです。社員は日々の案件をこなしているだけで、未来への参画など全くないのです。10年以上のベテラン社員までもが、案件漬けです。
モニター越しのN社長は、恐る恐る私に質問をしました。
「先生、では、訓練体系の構築だけでもお願いできるでしょうか。」
教育がダメなら、訓練だけでもと考えたのでしょう。
私は、御聞きしました。
「仕組みはありますか?」N社長は、黙ってしまいました。
私は、仕組みというものは何かを説明し、再度同じ質問をします。
N社長は、はっきり答えました。「いいえ、ありません。」
- 案件の流れが見える状況になっていません。
- 会社としての業務のやり方が明確に定まった状態ではありません。マニュアルなども整備されていません。
- 毎年や毎月やろうと決めた事は、社長が言い出さないと忘れ去られます。
少なくとも、上記に対する仕組みが必要になります。ここまでの仕組みがあるからこそ、『訓練』をすることができるのです。
「決まったことをその通りにできるようになる」ためには、「決まった状態」すなわち『仕組み』が絶対に必要になるのです。
N社長は、完全にうなだれてしまいました。最後に声を絞って言われました。
「先生、どれぐらいの期間がかかるでしょうか?」
私は、答えます。「最短で一年です。」
いまの自社の延長線上に、この先は無いことをしっかり理解したN社長は、決意をしたのでした。
我々は、人に向かうことは絶対にしません。
人でなく、仕組みに向かいます。
人を育てても、その多くの人は、いずれいなくなります。また、優秀な人は、管理側に上がってもらいます。そして、拡大すれば、また人が必要になります。
永遠に続くのです。
だから、人に向かうことはしません。
絶対に、人を育てようとは考えません。
我々の目指すのは、事業の拡大であり、会社の永続です。
だから、仕組みに向かいます。
人を入れて、その結果を観て、また、仕組みを改善します。
その取組みのほうが、圧倒的に会社は成長します。
そして、そこにいる人も育ちます。
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