任せ方の極意
私はコンサルタントや中小企業診断士としての仕事のほか、アパレル小売店も経営しており、これまで4人の社員をアパレル小売店経営者として独立させてきました。簡単に言えば「のれん分け」的な感じで店舗を譲り、独立した社員は各店舗の経営者として独り立ちしていく流れです。
その時々の環境やタイミングもありますが、私の会社の場合は大体5~7年で独立していきます。入社当初は頼りない社員たちも、独立するころには見違えるように頼もしく成長しています。
成長のスピードはスタッフから店長、店長から経営者になるタイミングでぐっと上がります。特に店長から経営者になる際、会社から守られている状態から自分自身が社員を守る立場へとポジションが180度転換するため、一気に成長、というよりは人が変わったような、まさに変容進化を遂げます。
大雑把に言えば、仕事上での人の成長は「任せる」ことにキモがあると私は思います。新人時代から簡単な仕事を徐々に任せ、経験を積ませることで最終的には店舗の将来を左右するような決断を任せることができるようになるのです。
一方でコンサルタントの仕事をしていると、後継者がいない会社にも数多く遭遇します。様々な理由が考えられますが、一つの大きな要因として、経営者が「社員に任せきれない」ことが挙げられると思います。
そんな経営者とお話をすると、大半の方は仕事が大好きで、「自分がいなくなれば会社は持たない」と直接ではなくとも、話す言葉の端々に仕事に対する自信や誇り、「矜持」が込められています。
それは決して悪いことではなく、むしろ会社を興し、成長させていくには必要な資質です。ところが、会社が成長期を過ぎ、成熟期を迎えるころになると経営者の自信や誇りが足かせになることがあります。「自分が一番できる」という事実や思いが強すぎ、人に任せることができない、あるいは任せても認めないため、社員が育たないのです。
日本では少なくとも約120万社で後継者が決まっていないというデータもあります。もちろん少子化や産業構造の変化など、外部環境が影響を与えているのは間違いないでしょう。しかし、社内に後継者を育てる仕組みもなく、経営者が常に「自分が一番」のスタンスで行くと育つ人も育ちません。
そもそも論として、私に言わせれば少子化など関係なしに、後継者不足は永遠に続く問題です。上述のように創業者が人を育てきれない(というより事業を育てるのに精いっぱい)。さらに本音を言えば人に任せたくない、隅から隅まで自分でやりたいという社長が大半です。
また、企業の寿命という視点もあります。企業の寿命は諸説ありますが、大体は30年前後との見解が多く見受けられます。30年はちょうど1代くらいのスパンです。後継者がいないから続かないというよりは、事業の賞味期限が切れたことが一番の要因ではないでしょうか。バンバン儲かっていたら社内外の人間が放っておかないでしょう。
いずれにしても、もし経営者のあなたが誰かに会社を継がせたいと思っているのなら、事業の継続性を担保するのはもとより、後継者候補に対して「仕事を任せること」が最も重要な仕事です。丸投げではなく、戦略的に任せていく必要があります。さて、御社にはその仕組みがありますか?
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