新規事業の立ち上げを阻む「現業が忙しい」への対処法
「いやー、この新規事業も大事ですけど、現業で手一杯で時間が取れないんですよ…」― 新規事業を立ち上げるときに、社内のキーマンの口から頻繁に出てくる言葉です。
社長がいくら新規事業の重要性を訴えたところで、現場のキーマンは「とはいえ本業も大事だ」と、どうにも新規事業に時間も気持ちも割くことができないというわけです。
社長からするとなんとももどかしい話ですが、社員キーマンの言い分もこれはこれで彼なりの正義があるわけで、無理やり「現業はほっといて新規をやれ!」と言うわけにもいきません。
確かに現業はおろそかにできない。かと言って新規事業の立ち上げを先伸ばすわけにもいかない…。こういった、「追いつめられたとき」こそ、現場の業務効率化に乗り出す絶好のチャンスです。
ここでも、世に言う「2・8の法則」が当てはまる可能性があります。つまり、「全体の成果の8割は業務の2割から生み出されている」というものです。もしそうであれば、残り8割の業務に関しては捨てたり簡素化したりできる余地は大いにあるはずです。
ここで非常に大事なポイントがあります。それは、この「業務の見直し・簡素化」を当人任せにしないということです。
「もっと大事なことがあるんだから、いまの仕事は簡素化してください」と言われても当人はおもしろくありませんし、やる気もでません。そもそも、いまやっていることはすべて「必要だ」と思っているわけですから、業務も見直しも非常に限定的なものになってしまう可能性が高いです。
特に真面目な性格の社員ほど、「手をぬく」ことに抵抗があります。少しでも「やる価値がある」ことはやめられないのです。
それに、人は「自分にしかできない仕事」を持っていたいものです。いま自分がやっていることが他の人間にもできてしまっては都合が悪いのです。自分の存在価値が失われてしまいます。
そこで必要なのが、社長による「切断力」です。経営幹部が日々の現場の仕事に埋もれず、本来やるべき「経営」の仕事をするために、社長がいままでの流れを「切断」するのです。
具体的には、社長主幹の「業務改善プロジェクト」を立ち上げます。会社が次のステージに進むために、いまやっていることを「全社を挙げて」見直し効率化することを社長が正式に宣言し、かつリードします。
そのプロジェクトの具体的な手順ですが、まずは現行の業務の棚卸からはじめます。
経営幹部や社員キーマンが「いま何をどのような方法でやっているか」を棚卸します。いま何の仕事でどれくらい時間を使っているかを、たとえば直近1週間といった単位で洗い出します。そして、それぞれのタスクをどのようなやり方でやっているか、その業務フローを書き出すのです。
このときに社長はきっと「そんな仕事にこれだけの時間を使っているのか…」と、もしかしたら呆れたり、嘆きたくなるような心情になる可能性がありますが、ここはぐっと我慢です。淡々と現状把握につとめましょう。
そして次のステップとしては、内容を把握した各業務について、たとえば次のように分類します。
A:現状のやり方でOK、現担当者が継続
B:現状のやり方でOK、担当者は変更
C:現状のやり方を見直し、担当者は継続
D:現状のやり方を見直し、担当者も変更
E:中止
この決定も基本的には社長が下します。その際、社員からの抵抗もあるでしょう。もちろん彼らの意見はちゃんと聞いた上で、社長が大丈夫だと判断できるならば、はっきりと指示を出してください。社長の切断力があってはじめて彼らは未練を断ち切ることができるのです。
そして、上記CやDといった、現行の業務フローを見直しべきものについては「標準化」を実施します。つまり、「誰でもできるように」仕事のやり方を工夫し、「彼にしかできない仕事」を極力排除するのです。
これも社員主導ではなかなかできることではありません。前述のとおり、彼らは自分の仕事を「誰でもできること」にしたくないのです。社長が陣頭指揮を執り、これを機に「〇〇さんの仕事」ではなく「会社の仕事」として、標準の業務フローを決定していく必要があります。
社長にしてみれば、「俺がそこまで付き合わないといけないの?」と思われるかもしれません。しかしこういうことは最初が肝心です。仕事の属人化を断ち切るためには社長が「鉈(なた)を振るう」必要があるのです。
ベストな業務フローを会社として決定し、それを文書化(マニュアル化)する。そうやってはじめて、各業務が「人のもの」でなくなります。一旦そこまで行けば、あとは各担当者がそれぞれの業務フローを日々改善していくサイクルに入れます。
繰り返しお伝えしていることですが、事業を強くするためには2つの条件が揃う必要があります。それが、「その事業独自の強み(ユニークな事業コンセプト)」と「仕事の仕組み化・標準化」です。どちらが欠けても事業はうまくいきません。
「現業が手一杯で新しいことができない」― このチャンスを逃す手はありません。会社のさらなる飛躍のため、業務の仕組み化・標準化に向けて社長は思い切って大鉈を振るってください。
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