五里霧中の経営
コロナ禍で長く会えない知人から連絡があった。私の著書『幸せは不幸な出来事を装ってやってくる』(マネジメント社)を読んで面白かったので知人二人に自分で買って贈ったと云う。ありがたく、嬉しく思わず微笑んでしまう。本を出してよかったと思う瞬間だ。コロナ禍、思うように動けず鬱々とした日々を過ごしている私に久々の朗報だった。
その知人は中堅専門商社の代表取締役会長をしている。もう75才になる。オーナーではないがオーナーに気に入られ社長を10年した後、会長として目を光らせている。現社長はオーナー家の長男が就いている。社長は35才とまだ若いということで、会長として社長を補佐してやって欲しいというオーナー家の要請だという。
彼の会社は沖縄から東京まで営業所、支店網がある。建設関連の専門商社でコロナ禍で売り上げが15~20%落ちているという。コロナ禍で全面的なダメージを受けている業界に比べればましな方と云える。ただ、建設関連専門商社で20%の売り上げ減は営業利益を大幅に減少させるだけでなく運転資金の不足が懸念される。
一方で彼が云うのに、大幅な経費の削減が自然と為されているので赤字に転落することはないらしい。コロナ禍で業務形態が大きく変化した。変化せざるをえなくなったという。大きなところでは社員の出張が大幅に減少したこと。彼自身他府県への出張は一度も無いという。役員会を初めとするすべての会議、ミーティングはオンラインで行われている。
営業マンの営業活動もできるだけオンラインで済ませているようだ。顧客もこのような状況下なので了解されているという。これらの全社的な動きが大幅な経費を減らすことになっている。20%の売り上げ減少による減益をいろいろな経費が減少したことで相殺されている。ただ経営者としては今の状況がいつまで続くのか不透明ななか、今の業務形態が常態化することの是非の判断ができずにいるようだ。
今日の日経新聞に「コロナ禍 経費7兆円減」との見出しがあった。新型コロナウィルスによる企業の働き方の変化が企業収益を下支えしているとの解説記事が一面に出ている。テレワークなどの普及が企業の出張費や交際費を大幅に絞っているらしい。上場企業では出張費などの固定費が大きく減少するため損益分岐点が低下しているという。
コロナ禍がまともに逆風となり苦境にある企業はますます業績を悪化させ続けている。一方でコロナ禍にもかかわらず売り上げを伸ばしている企業がある。それらの企業はコロナ禍による固定費の大幅削減が進み、過去最高の利益を挙げているところも珍しくはない。企業の業績が両極に極端に別けられた観がある。
企業の経費7兆円の減少は他の企業の売り上げが単純に7兆円消えたと云える。さらに云えば消費が単に7兆円減少したとも云える。コロナ禍以前のGDPが減少傾向であったのにかかわらず、コロナ禍で更に減少傾向に拍車がかかってしまった。企業の固定経費が大幅削減されGDPを押し下げる要因の一つになるとは誰も考えもしないことだった。
コロナ禍により経済規模が収縮し、長期のデフレーションが続く中、経営者にとってはまさに未曾有の危機にある。経営者の舵取りが企業の命運を左右する。最もしてはならないことは慌てふためき己を見失うことだ。経営者がいい意味で開き直り、なるようになるさといった泰然自若を装うことがあってもいいのだと思う。変化の波にのまれるのでなく、変化の波にうまく乗ってみることも必要かもしれない。
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