血海で勝つネーミング
先日登壇しましたセミナーで、消費財メーカーの社長から“ネーミング”に関する質問をいただきました。コロナ禍でネーミングが古いと感じるようになってきたが作り方がわからない。時代に合わせたネーミングの作り方を教えてほしい、という具体的なことです。
商品やサービスの名付けをネーミングといいます。ネーミングは、コピーライターの職人芸、といわれるほど奥深いものです。大手企業であれば、開発部門や商品企画部門で名付けすることが多いです。中小企業や個人事業であれば、社長や開発者で考えることが一般的です。
中小企業の場合でも、社内に「企画」の仕組みがあれば、社員で案を出し合うことができると思います。いずれにしても、ネーミングを考えることは企画立案と実践=売ることのセットであり、さらには、お客様とのコミュニケーション、ファンづくり、自社のブランドの構築まで、全てにつながっています。
一方、「時短」や「効率」、「コスパ」で考えている会社がやることは共通しています。社長と幹部で考えて「なんとなく」で決める。候補のネーミング案は多くて10案ほどで、その中から決める、といったことが多いかと思います。10案の中から決まらないので、結局ネーミングだけを外注するケース、10案の中から無理やり決めてしまうこともあります。
仮に外注したとしても、出来上がってきたネーミングが社長にはいまひとつピンとこない。結局振り出しにもどってしまう、ということもよくあります。ネーミングひとつで、事業が大きく動き出すわけですから、「決まらない」状態にあることはタイムロスにつながり、非常に危うい状況です。
ネーミングの迷走の本因は「お客様からの視点」が抜け落ちている点にあります。自社商品サービスを伝えたいお客様に「わかりやすい」ネーミングであること。これが最も大切な要素となりますが、そもそもの考え方、自社の思い、時代性、お客様の困りごとなどを、工程を踏んで整理し、核となるコンセプトに昇華させるプロセスが必要不可欠なのです。わたくしどもでは、商品の「天地人」をみる、とお伝えしています。
お客様視点の重要性は、今週の「日経ビジネス」でも指摘されています。最新号「もうかる市場は消える〜レッドオーシャンで勝つ」がテーマになっていますが、どの道を行っても日本企業は「赤い海」に邁進、そこで勝つためのヒントが提言されています。
好事例のひとつに、日本コカ・コーラの「檸檬堂」があげられています。コモディティ化している商品の中で大化けしている商品ですが、コンセプトの発見から商品の骨格づくりにおいて、POS(販売時点情報管理)データやネットアンケート、市場調査などに頼らずに、リアルのお客様からの一次情報(オリジナルな情報)を頼りに商品の骨格を決めていったことが伝えられています。
情報に、「一次」と「二次」があるように、いついかなる時も自分たちの足で得た、現場の情報が「先」であり、大切なのです。市場調査やネットで集めたデータは、一次データを支える道具として活用すればいいのです。それを逆転させてはならないのです。
買いたくなる名付けの秘策的ノウハウは、書籍やネットなどでたくさん公開されています。二次情報やノウハウに溺れることなく、商品の骨格をつくる「仕組み」の構築に着手することが本質です。
商品づくりは、商品のあたらしい物語をつくることです。商品のあたらしい物語をつくることは即ち、事業の物語、会社のあたらしい物語をつくることに他なりません。それが独自性を生み、あたらしい市場を生み出し、オンリーワンとなってお客様に選ばれるための優位性になるのです。
ネーミングを決めるというとことは、自社商品がいよいよ動き出すことを意味します。ネーミングを決めるときには、すでに、どんなお客様イメージで、何を伝えたくて、どんな喜びを提供する商品なのか、どうやってお客様の手に届けてゆくのか、どんな方法でお客様のライフとつながっていくのか、筋が全て調っていなければなりません。
すなわち、企画として商品リニューアルの旗を立て、仕組みを構築することが求められています。基盤のない商品はお客様には伝わりません。赤でも、青でもない、新しい海を、海から離れて、広大な空へと飛躍していきましょう。ネーミングとは御社の船を、飛行船に変える「翼」なのです。
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