危ういESG投資
一昨年くらいから、世の中では「ESG金融」という言葉があちこちで聞かれるようになってきました。E:環境、S:社会、G:ガバナンス(企業統治)について目配りした投資、という意味で、具体的には省エネタイプの建築プロジェクトだとか、働き方改革につながるIT化や障碍者雇用を促進するための設備投資などに向けた資金調達の流れを意味しています。
たとえば、断熱効果の高い建材を使ったビルを建てる場合に「グリーンボンド」と呼ばれる社債でその資金を調達する会社があるとして、その社債をアレンジしたり、購入を斡旋したりすることが「ESG金融(投資)」に当たります。社債でなくても「グリーンローン」と呼ばれる融資となる場合もあります。
特に環境面で温暖化対策への取り組みが叫ばれる中、このところESG金融への関心はさまざまな分野で高まる一方という状況が続いていました。ところが。
今年3月10日付の日刊工業新聞に、「分岐点迎えるESG金融」という記事が掲載されています。記事によると、特にCO2排出量の削減について十分なのかどうか、金融機関が「金融の規律を入れることが重要だ」とされています。平たく言うと、実効性を伴わない緩い約束の事案には毅然としてNoを言えなければならないということです。
いわゆるブーム、みたいなノリでESG金融を志向する流れが起きることを懸念していると思われますが、現状日本ではそれを峻別するための制度的なインフラが十分とは言えません。また世の常として、「魚心あれば水心」すなわち資金があるなら使いたい、という事業者は必ず存在するわけで、そこには透明性を伴った規律性が働かないと、名ばかりのESG金融案件ばかりが増えてCO2は思ったほど削減できなかった、ということが起きかねないことが危惧されるわけです。記事も「グリーンと名のついた金融商品が売れており、購入した側もESG投資家と名乗れる」「ESG金融は加速とともに脱炭素への実効性も問われる」と述べています。
ブームに乗って投資したESG案件だったのに、目標未達のような貧弱な成果しか出ないとすると、本来は安定的な運用収益が見込めるはずの社債でも債券価格に影響が出る、というような事態が起きかねません。政府が作ったガイドラインでは、そのような事態が起きないよう、外部機関によるセカンドパーティオピニオンを義務化することで案件の信頼性確保を課しているのですが、これについても明確な数値基準が設けられているわけではないのです。
事業者の側としても、自社の関わった案件でそのようなトラブルを起こすことのないように、企画段階から特にESG要件について慎重な判断が求められることを肝に銘じておいていただく必要があります。
予想されるリスクをしっかりと見極め、社会の負託に応えるようなESG案件の生成と運用を心掛けてください。当社はそんな真面目な事業者を全力で応援してゆきます。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。