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一発逆転を狙った優秀人材の獲得はうまく行かない。その理由とは?

SPECIAL

年商10億事業構築コンサルタント

株式会社ワイズサービス・コンサルティング

代表取締役 

指導暦18年、これまでに200社以上の実務コンサルティング実績を持つ経営コンサルタント。「10億円事業構築」に強みを持ち、直近5年では、導入後数年で年商数億が10億越えをした企業は20社以上と驚くべき成果を出している。

販売支援業S社長が、2度目の個別相談に来られました。

記録を見ると、あれから2年が経っています。その時には、私は「事業モデルの再構築と内部の仕組化」を進言していました。
お聴きしました。「その後は、いかがですか?」

S社長は、目線を下に向けたまま、答えます。
「いえ、全然進んでいません。それどころか後退しているようです。先日、幹部で迎えた人に辞めてもらいました。」

どうやら、『一発逆転を狙った優秀人材の獲得』に走ってしまったようです。
この施策でうまく行った試しは、有りません。


幹部を含む管理者を機能させるための、前提を確認しておきましょう。

仕組みがあること、これが絶対となります。
管理者という名の通り、管理をするのがその主な役目となります。
管理をするためには、管理する対象が必要になります。その対象を総称して『仕組み』と言います。

  • 見えること:案件がどこにあるのか、どのような状態にあるのかが、管理者から見える必要があります。個人が案件を抱えており、「あれどうなっている?」と訊かなければ把握できない状態では、管理ができません。
  • 基準があること:手順やその品質が、良いのか悪いのか、が判断できる必要があります。その基準が、社長や一部の社員に有ってはいけません。会社としての基準があるからこそ、管理も修正もでき、指示を出すことができるのです。

そして

  • 方針があることそれらをどのように運営していくのか、それらの仕組みをどの方向で改善していくのか。管理者自身が、方針を知ることができること、そして、見返すことができる状態をつくる必要があります。

この条件を見ると、「管理者を動かすため」だけで無いことが解ります。
そうです、「社員を機能させるもの」でもあるのです。社員に動いてもらうため、また、複数の人数で協同するためには、これらの状態にある必要があるのです。

管理の対象は、あくまでも『仕組み』なのです。「仕組みが機能しているかどうか」を管理するのが管理者なのです。人が正しく動かなければ、仕組みを直します。

ここから言えることは、『社員をまともに仕組みで動かせない会社は、管理者も動かせない』ということです。
(管理者を動かす条件は、他にもあります。過去のコラム、または、私の著書「青本」を参照ください。)


2年前の販売支援業S社は、上記の状態とはかけ離れた状態にありました。

  • 営業担当が、個々に数社の顧客を抱えています。そして、案件の打ち合わせからデザイナーとの調整、印刷物の発注まで一貫して行います。その結果、社長と一部の優秀な社員が案件漬けの毎日を送っていました。
  • そのため、新規採用してもすぐには戦力化できません。そして、覚えた頃に辞めていくことの繰り返しです。
  • 管理者は機能していません。プレイングマネジャーという名の、実際は、バリバリの営業担当です。

S社は、「この状態の年商3億円」を5年以上も続けていたのです。S社長は、完全に疲れ切っていました。

「まずは、事業モデルを作り変えること。そして、仕組化に取り掛かること。」を進言しました。お決まりのようですが、この通りなのです。S社のいまを打開するには、これ以外は無いのです。

S社長は、「解りました。コンサルティングも検討してみます。」と帰っていきました。あれから知らせはなく、2年が経過していました。

2年ぶりに会ったS社長は、更に疲れた様子でした。完全に目から光が失われています。

ゆっくりとした口調で、この2年間の取組みを話されました。その内容は、ざっと以下のものです。

  • 飛び込みで来た人材紹介会社に依頼し、幹部候補となる人の紹介を受ける。その人を営業部長として、招き入れた。
  • 最初は、いろいろ提案してくれたが、その一つひとつがしっくりしない。その提案を数回却下すると、その提案は無くなった。
  • 「集客の方法を考えてほしい」、「営業管理の仕組みを提案してほしい」と依頼するが、のらりくらりで一行に進まない。

半年もすれば、その営業部長は、S社長の悩みの種となっていました。S社長は、「安くない給与を払っているのだから・・・」と腹も立ちます。

その招き入れた営業部長は、そのうち次のようなことを言い出したのです。
「この会社には、何もない。」、「もっとこういうサービスをやったらどうか。」。
S社長は、厳しく返しました。「そのために君に来てもらっているのではないか。」、「事業モデルでなく、まずは自分のことをしっかやってくれ!」。

私に話をしているうちに、S社長の言葉に熱が入ります。その時の感情まで思い出されてきます。

その後も改善することはなく、S社長は、『契約解除』を申し出ました。その話し合いでも、すったもんだがあり、ようやく決着がついたのが2か月前です。

視線を上げ、S社長は言いました。
「この2年間、ずっと先生の言葉が頭にありました。」

S社には、根本的に、『事業モデル』と『仕組み』が無かったのです。だから、組織が出来ないのです。だから、管理者も機能しないのです。向かうべきことは、はっきりしていたのです。それは、避けては通れないものなのです。

当時のS社長は、疲れ切っていました。長い停滞期間もあり、焦りもありました。そこで飛びついたのが、『優秀人材の獲得』です。
一発逆転を狙ってしまったのです。

私は、確認のためにお聴きしました。
「その方は、どのような経歴だったのですか?」
S社長は、答えました。「同業の大手企業出身の方です。」

選んではいけない人を、選んでしまったようです。
大手企業というのは、「仕組み」が出来切った企業だと言えます。また、一人の人間が関われるのは事業の極一部となります。

そのため、大手企業のなかで、実際に仕組みづくりを行った人は多くはないのです。それ以上に、ビジネスの原則やその全体像について解っている人は、少ないのです。ましてや、事業の立ち上げや変革の中心にいた人などいないのです。

そして、取引する相手も「それなり」になります。システム会社もマーケティング会社も、しっかりしており、全てが上げ膳据え膳で進んでいきます。そして、自分の部下は皆自頭がよく、指示を出せば「普通に」こなしてくれます。

同様の感覚であれば、中小企業(正確には、小規模)では、何も進まなくなります。自分で文章をつくる、逐一進捗をチェックする。これでやっと事を進めることができます。そもそも大企業と中小企業では、「出世」の条件が異なるのです。

S社長は、その営業部長から出てきた提案に「ズレ」を感じていました。

  • 情報を共有するために、会議を増やしたい。
  • 社長と社員の相互理解のために、定期ランチ会を開催したらどうか。
  • 業務の課題を解決するために、全社横断的なプロジェクトを結成したい。
  • 前の会社で行って効果のあったリーダー研修を導入してはどうか。

「情報共有」、「コミュニケーション」、「プロジェクト」。これらの思考は、大手企業出身の管理者に見られる傾向です。これらは、全く無用であり、本質ではないのです。少なくとも、仕組みの無い会社にとっては、全く意味をなさないものなのです。

そして、「お客様から要望があった商品を取り扱ってはどうか。」と、事業にも提言があったのです。その商品はS社の事業モデルからすると明らかに「単価の低いもの」となります。これを取り扱えば、忽ち「忙しい割に儲からない」状態に陥ることは目に見えています。S社長は、しっかりNOを出しました。

世の中には、「大手出身」の方を招き入れて滅茶苦茶になった会社は多くあります。正確に表現すれば「大手出身の方の提案を受け入れたために」、となります。

「大手出身者」が悪いわけでは、決してないのです。能力の高い人は沢山います。仕組みづくりを解った人も、事業モデルに見識を持つ人もいます。逆に、内部に強い人もいます。社内の調整能力に長けた人もいます。
それを、使えないこちらが悪いのです。

その真贋を見分けられないのです。
なぜ見分けられないかは明白です。こちらにその力が無いからです。
無いから、その人やその人の言っていることが、本物かどうか、そして、自社に必要かどうかが、見極められないのです。

また、残念ながら、仕組みのない会社には、『本物』は獲得できないのです。
本物は、そのレベルの会社には、寄ってこないのです。彼らは、自分が奉公する相手を選んでいます。その社長の使う言葉、社内の様子を見れば、測れてしまうのです。もしそれでも来てくれる人がいるとしたら、時間もお金も持ちえた人(高齢)であり、後進を育てたいという強い思いを持った人になります。

これらのことを、S社長に伝えることはしませんでした。十二分に解っているのです。S社長は、原則を追うことを決意しました。
「まずは、事業モデルの作り直しですね。当社の問題の多くは、職人型のビジネスモデルが原因です。やるべきことに万進します。よろしくお願いします。」

経営には、原則があります。
そして、儲かるビジネス、大きくなるビジネスには、条件があります。

それを、一つひとつ獲得していくことです。
それが、一番早いのです。そして、それが一番強いのです。

毎日やるべきことをコツコツやるだけです。
その積み重ねの結果、「革新」とも言える飛躍を得ることができます。

経営にも、人生にも、一発逆転は有りません。そして、それ以上に、我々はそれを期待する生き方をしたくないのです。

自分に期待し、自分で道を切り開くのです。いまは、そういうステージです。

 

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