後ろを振り返る暇などない―情報のぜい肉をそぎ落とす「断捨離的大掃除」―
今年ももう3月、あっという間に2ヶ月が経ちました。さて、2ヶ月ちょっと前のことになりますが、年末、私が経営する会計事務所では、約20名のメンバーが一斉に大掃除に取り掛かりました。といっても、それなりの所帯の大掃除が一日で終わるはずもなく、だいぶ前から準備は進めていました。
ただ、片付けるのが極端に苦手な私は、当日になっても右往左往するばかりでしたが、準備の大半は副所長の女性税理士をはじめ、事務所の女性陣が、今年はどう整理するか目星はつけていたようなのです。
今年、片づける中の大物としてターゲットにされたのは、会議室兼食堂に使っているホールにある本棚でした。
これは床から天井まである収納力抜群の大型の奴で、主に私が読み終えたあとのビジネス書の類(たぐい)が並べられていたのです。20年余り経つ間の蔵書は結構増えており、大型の本棚もびっしりと埋まっていました。
さて、彼女たちの主張は、大半の本は捨ててしまい、どうしても残しておきたいものだけ私の所長室の本棚に移して、この本棚自体を撤去してしまおう、という大胆なものでした。
私は
「と、とんでもない。これは今まで苦労して集めた書籍なんだぞ。みんなに読んでもらおうと思って、ここに並べてたんじゃないか!」
と抗弁します。
それに対して、彼女たちは
「だって、誰もこんな本、読まないじゃないですか。もう背表紙も焼けちゃっているし。だいたい古い紙には虫が湧いて、私そばに行っただけで、むずむずするんですよね。」
『こ、こんな本て・・・・なんちゅう言い草だっ!』
「それに、なんかごちゃごちゃした本が多くて見た目も悪いし、ない方がすっきりしていいじゃないですか。」
と、にべもない返事なのです。
私はそれまで、本がずらりと並んでいる風景がごちゃごちゃと見苦しい、などと思ったことは一度もなかったので、彼女たちの意見は衝撃的でした。
同じ景色を見てもこんなにも感じ方が違うものかと・・・
まあ、散々議論をしたあげく、結局私が押し切られて本棚は撤去ということになったのです。ちょうどそのとき、
「撤去するんだったら、この本棚、私もらっていいですか?」
という別の女子社員が現れて、件の本棚は私の目の前から影も形もなくなったのです。
私は、この話が持ち上がってから、慌ててその本棚の書籍を整理にかかりました。そうしないと、すべての本が捨てられてしまいそうになったからです。
ただ、そうやって書籍の整理をしながら、考えたのは確かに内容によってはいらないものも多いな、ということです。
特にビジネス本は賞味期限が短く、ある時期ブームになったようなビジネス手法や考え方なども、少し時間が経過してみればもうとっくに古臭いものになっていく運命にあるからです。
今回は、大型本棚一個を空(から)にするという話ですから、かなり思い切って大量に捨てなければなりません。「うーん、どうしよう・・・」と迷いそうになるものはほとんど捨てました。「これは捨てないぞ!」というものだけ残したのです。
そうすると、驚くほど残るものは少ないことに気がつきました。
日々のビジネスをこなしながら、情報の賞味期限を考えたとき、ほぼ後ろを振り返る暇など私たちにはないことがわかります。
そうして、次々と生まれては襲いかかるように迫ってくる新しい情報にこそ重点的に目を向けていかざるを得ない、という日常があるということに改めて気づかされたのです。
そういう意味では我が社の残酷なる女子社員どもに、悔しいけれど感謝であります。
そもそも女性の方がこういうときに割り切りが早いし、割り切り方も思い切っていますね。まあ、感謝とともにいい勉強にもなりました、ということでお片付け論争はこちらの完全敗北であります。
まあ、その結果、ホールの本棚は取り除かれ、確かに景色としてはスッキリなりましたし、ついでに所長室の資料や書籍も大量に廃棄されて風通しが随分よくなりました。
本を取っておくことで、まるで情報の蓄積が成されているかのように錯覚しがちですが、それは間違いで、古文書を研究する立場ででもなければ、保管しておいてもまず見返すことはありません。
こういうことはオフィス整理のプロやファイリングのプロに言わせれば当たり前すぎるほど当たり前のことなのかも知れません。しかし、長年、何となく資料や書籍を溜め続けてきてもどうということもなかった私などは、今回みたいに両ほほをひっぱ叩かれるような思いをしないと、なかなか自分では気が付かないのであります。
まあこうして、毎年、中途半端に終わっていた、私のデスク周りの整理も今回は激しく前に進みましたので、女性スタッフには大いに感謝すべきなのでしょう。
私の推進する「情報発信(アウトプット)」は、すべからく前向きの取り組みなので、今回の整理整頓を起爆剤に来年はさらに未来に向かって進んでいきたいと思っています。
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