ショールーム無用論
今から50年以上前、問屋無用論が提唱されました。1960年代からの流通革命で、メーカーから小売店に直接製品を納入するようになり、メーカーと小売りの中間に存在する問屋は無用になるという概念です。ところが、問屋がなくなることで小売店が不利になったり、問屋でも新たな役割を担うことで未だに存在し続けています。というより業績を伸ばし続けている企業もあります。
もちろん、問屋を通さない取引は数多く存在しますが、流通経路は複雑で数多くあり、しかも小口の取引が多いため、メーカーでは流通の管理が難しく問屋に頼らざるを得ないのです。これは、小売の寡占化が進んでいないという理由によります。他にも問屋が、ストック機能、金融機能、配送機能、末端現場の情報収集機能など、多くの機能を抱えていることが要因です。こういった理由で、50年以上前に提唱された問屋無用論は、それ自体が無用となってしまったのです。
今、コロナ禍でショールームの在り方が問われています。ショールームを休館したために売り上げが減少した、密を避けるために入館を完全予約制にしたなどと報告されています。また、ショールームに行かずにオンラインで製品を見られるようにし、リアルとオンラインのハイブリッド形式で運営している企業もあります。
ショールームと言えば、耐久消費財に代表される、車、家具、水回り、インテリアなどが展示されているスペースをイメージします。生産財でいえば、機械、機械部品、塗料、配管配線材などなど。これらを自宅やオフィスからオンラインで見られたとして、消費者やバイヤーは購買に向かうでしょうか。密を避けるためリアルなショールームを廃止し、オンラインのみということが起きるでしょうか。問屋無用論ならぬショールーム無用論です。実は、オンライン化が進んで、リアルなショールームに人が来ないのではないかと心配する経営者の方がいたのです。
2011年以降、大手メーカーを中心に体感型のショールームが次々とオープン・リニューアルしています。従来型のパネル展示で一方通行のショールームではなく、ミュージアムとも呼べるような、体験を通して製品の良さを知ってもらうショールームです。他にも工場見学を企画している企業もあります。製造現場を見てもらうことで、安心・安全な製品づくりを理解してもらったり、それによってリピーター・ファンになってもらう試みです。コロナ以前では、ビール工場やウイスキー工場の工場見学は予約がなかなか取れないといった現象が続いていました。
これらはやはり、見る、聞く、触れる、味わう、楽しむ、といった人間が本来持っている欲求にアプローチしていることで成功を収めています。コロナで世の中が変わって、働き方やライフスタイルが変化するのは間違いないと思います。しかし、問屋無用論が提唱された50年前と同じように、ショールーム無用論は起きるでしょうか。
世の中にはいろいろな考えを持ち、いろいろな予測をする人がいます。学者、経済アナリスト、その道の専門家。どの業種や業界でもそうですが、専門家が予測することは占いと同じで当たるも八卦当たらぬも八卦で、当人は責任を取りません。
しかし当社は、はっきり断言します。ショールーム無用論は無用です。理論的な説明は意味がありませんのでしませんが、先ほど申し上げたように、触れる、味わう、楽しむといったことは人間の基本的な欲求だからです。モノを見ずに買うという行動は、その製品が十分認知されている場合であり、認知されていない場合はなおさら、認知されている場合でも販売店のブランド力、販売員の接客能力が重要であることはまちがいありません。「少し高くても時計は銀座和光で買いたい」というのはいい例でしょう。この時に必要なことは、時計の品質以外に、ブランド力、販売員の接客能力です。
ショールームの集客方法は、コロナ以前と同じというわけにはいかなくなるでしょう。しかし、バーチャルショールームに完全に置き換わることはありません。メーカーによる製品の優劣がはっきりしない現在では、差別化するにはリアルなショールームの存在とアドバイザーの質が重要になります。
オンラインを進めることは間違いではありませんが、リアルなショールームとアドバイザーの育成をなおざりにすることは間違っています。結局、最後は製品ではなく「人」だからです。
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