IT化経営羅針盤 デジタル言論統制は企業のリスクとなりうるか?
ここ数ヶ月(2020年末~2021年始)のアメリカ大統領選挙の顛末は、私の様な素人が政治的論評するものではありませんが、1月に入って容易には座視できないことがいくつか発生しました。トランプ大統領(2021年1月15日時点)のSNSアカウントが閉鎖されたことはよくニュースで取り上げられている事実ですが、それは大統領個人に向けたSNSプラットフォーマーの対処であり、良くも悪くも「色々言いすぎた1個人に対する対応」だと考えています。企業経営に直結する事件ではありませんが、問題なのはここからです。
それは、いわゆるネット検閲を一切やらないことをポリシーとしたSNS「Parler」が事実上機能停止したことです。トランプ大統領のSNSアカウントを大手SNSが凍結する中、Parlerは言論統制はしないポリシーなので誰でも使うことができるほぼ唯一のSNSになりました。ところがParlerに過激な人達が残存し、そこで更に暴力的な事件についてやりとりをしている、という理由で、アップルやGoogleがParlerにアクセスするためのスマートフォンアプリを消去してしまいました。これは、他の非暴力的な一般人についても等しく同じ対応となってしまうため、「ネットワークの遮断」つまり「メディアの抹殺」に相当します。
アプリは無くなりましたが、WEBブラウザーでのアクセスは可能でしばらくは使えていましたが、今度はアマゾンの子会社でクラウドサーバーを提供しているAWSがParlerとの契約を打ち切ります。つまり、Parlerはその瞬間サーバーも失ったのです。蓄積されていた膨大なデータはどうなったか、私には知る由もありませんが、これらの一連のアップル、グーグル、アマゾンのとった対応により、1つのメディアが世の中から強制追放されたということになります。
SNSがアカウントを閉鎖することは今までもありましたし、それは企業にとってもリスクとはほぼ無関係だと思っていました。ところが日本でもユーザーが非常に多いAWSが、サーバー機能のサービス提供そのものを停止してしまったことは注目に値すると思います。ParlerはAWSから単にサーバーを借りていただけ。AWSはサーバーの上で何が動いているのか、そもそも監視する義務も責任も無いはずです。もちろんサーバーがサイバー犯罪に使われないようにする点での監視はしていると思いますし、それをやってはならない規約にもなっていますが、少なくともSNS、もう少し簡単に言えばブログの様なサービスを提供していたParlerに記述されている投稿の一つ一つを検閲することはAWSに権限があるとは思えません。明らかに行き過ぎた対応です。今回のAWSの対応は、もっと易しく言えば、、、
私たちはサーバーを提供し、維持しています。
今日、サーバーの中を覗いてみたら、悪意に満ちた言葉が並んでいることに気がつきました。
このような言葉が当社が提供するサーバーの中に記述されることは我慢なりません。
なので、サーバーを停止します。
という論調です。
この事象をもう少しグローバルマクロの視点で拡大解釈してみましょう。もしこれが企業間取引関係のサービスでおきたらどのようなことになりうるでしょうか?善良な会社間での取引に使われていたのに、ごく一部の使い方がおかしい企業が存在していたことにより、プラットフォーマーが全サービスを停止する、ということが起こりかねない、ということです。特に政治関係で不安定になっている国(アメリカや香港を含む)とグローバルなプラットフォーム上でビジネスを進めている会社には、大きなリスクが降りかかってくる可能性が顕在化した、と考えるべきでしょう。
政治的なコメントは差し控えますが、グローバルプラットフォームを利活用する利便性と、今回の様なリスクをきちんと評価しつつ、最悪なことがおきても代替え手段を常に準備しておくことがこれからの会社経営に必要なDX要素となってきたと思います。「違う国のことだから」では済まされない時代になってきたと言えるでしょう。
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