【感性を磨く】そもそもマーケティングとは?
「エスキモーに冷蔵庫を売る」と言う話をご存じですか?マーケティングの勉強をされたかたなら、どこかで聞いたことがあると思います。冷蔵庫の「外気温の影響を受けない」と言う機能を利用して、「食物が凍らない装置です」と言えば売れるそうですが、果たしてエスキモーは冷蔵庫を買うお金を持っていたのでしょうか。
こんにちは、茶人・小早川宗護です。私は茶道裏千家の師範として30名の直弟子を指導しつつ、最もハイレベルな茶会、茶事をビジネスとして展開しております。
エスキモーのマーケティング寓話は、物事(商品)の価値を多角的に見直せば今まで売れなかった客層にも売る事が出来る、と言う意味を孕んでいます。確かにこの寓話は非常に完成度の高い物ですし、私も勉強三昧だったころは「ほうほう、なるほど」と納得したものでした。しかし最近になって感じることがあります。それは、
「エスキモーに冷蔵庫は売れるが、氷は売れないよね?」
と言う単純な揚げ足。でもこの揚げ足は、非常に重要でもあります。と言うのも、氷をどのような角度で見直せばエスキモーに売ることが出来るのでしょうか。まあBCGあたりのマーケッターに言わせれば、「エスキモーをエジプトの砂漠に連れて行けば良い」とか言い出すことでしょうが、そんな米国らしい無理の権化な理論は放置しておきましょう。
エスキモーにとっては氷など周囲の至る所にあるわけですから、そもそも必要としていません。冷蔵庫は必要な機能があるから売れたのかも知れませんが、氷は必要無いのです。つまりは、近江商人の寓話ではありませんが、鍋の蓋など必要としていない人に売りつけようとしても、そもそも無理があるのです。
ペットボトルの水を買う日本人、と言うツッコミは有りえるでしょう。しかし日本人は色々な味わいの水を求めており、水の味わいに世界で最も繊細な感覚を持ち合せているからこそ成立するのです。つまりエスキモーの氷と日本人の水とはまったく話が別物なのです。
「そのエスキモーには果たして冷蔵庫を買うだけの資産があるの?」
と言う揚げ足もあります。しかしこれもまた重要なポイントで、仮にそのエスキモーが冷蔵庫を欲したとしても、もし冷蔵庫を買うに足るだけの十分な資産が無い場合は、やはり冷蔵庫が売れないわけです。つまり「売ろうとする層の所得」を理解しておくことは絶対必要条件と言えます。
要はマーケティングとは「売れる仕組みを作る」ことであるのと同時に、「求めてくれる層に商品を展開する」ことであり、「買える層にとって適正な価格で商品を展開する」ことなのです。当たり前と言えば当たり前ですが、この当たり前の法則を実践出来ていない企業の、如何に多い事か。
さて、少し話がずれます。社長業をして色々な経営者交流をしていれば、いくらでもWEBマーケッターに出会う事ができます。私もWEBマーケッターだけで数十人は知り合いがおりますが、そこに掛かってくるWEBマーケティングのテレアポ営業。
「幾らでも知り合いがいるので、いりません」
と何度お断りしても、しつこく掛かってくる電話にイライラします。テレアポ担当者はそもそも営業力があれば何とかなる、と考えているのでしょう、いくら「いらない」と言ってもダラダラと話を続け電話を切らせてくれません。つまり「必要としていない人に売ろうとしても、それは押し売り以外の何でも無い」と言う事実にテレアポ担当者はまったく気付いていないのです。
むしろ本当に必要としているところにこそ売りに行くべきであり、その層を探すのが最も効率の良いマーケティングだと断言できます。そしてもちろん、売ろうとしている商品が「良い商品である」と言う前提を社員達が納得している、と言うことを忘れてはいけません。
納得のいかない商品など、誰も心の底から売ろうとは思いません。心の底から売ろうと思えなくては、お客様と納得のいく取引など出来る筈がありません。それに無神経なのが営業マンだ、と言う理論もあるでしょうが、そうなった時点で既に「人としてどうか」と言う疑問が生まれてきます。
ようは「本当に良いと思える商品」を「本当に欲している層」に落とし込む事が出来れば、それは確実に売れます。「中途半端な商品」を「必要としていない層」に売りつけるのは単なる押し売りであり、それを必要だったかのように思わせ強引に買わせるのは不道徳であり、クレームが発生する確率が異様に高まります。
現代の物づくりは、物づくり先行ではなく何でもマーケティング先行になっています。「どう売るのか」ばかりが主軸になってしまい、「本当に良い物を作る」と言う発想が決定的に欠けているのです。だから消費者の目はやせ細ってしまい、二流三流のレストランを「名店だ」などと囃し立てるのです。
マーケティングとはそもそも、物づくりからはじまるものです。コンセプトを考え、誰に買って貰うのかを考え、本当に買えるのかどうかを考え、本当に求めて貰えるような形に作りあげ、そして欲しがっている層に的確に投下する。この至極当たり前のプロセスこそ、唯一の王道マーケティングと呼ぶべき手法ではないでしょうか。
「気付けば押し売りになっちゃうマーケティング」は二流三流の証です。
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