企業のDX化の到達点:データ取引
「鈴木さん、ここ数ヶ月すっかりDX化という言葉は新聞紙上でメジャーな存在になってきていますが、そもそもDX化とIT化は何が違うのかわかりにくくていけませんね。」というお話を、ある社長さんとWEB飲み会をしていた際に頂きました。だれもこの二つの言葉を明確に定義できていないため、わかりにくいですし、そもそも両方ともバズワードだ、と言い切ってしまえばそれまでです。私の解釈で説明すると、
IT化とは、社内外の業務をソフトウェアで合理化したり、今までできなかったことをできるようにすること
DX化とは、ビジネスそのものもをフルデジタルに置き換えることで、改革レベルのことができるようにすること
という解釈になります。「DX化>IT化」の図式にも見えますが、ビジネスの改革を目的とするDX化はスタートアップ企業や大企業の業態変革に踏み込んでいると考えるべきで、通常の中小企業はそこまで踏み込む必要がそもそも無い場合が多いので、IT化で充分なわけです。そもそも目的が大きく異なると言っても良いでしょう。
さて、そのDX化の目的ですが、これがヒトによって解釈が大きく異なり、更にカオス状態です。AIやIoTの活用がDX化と言っている人もいれば、サブスクリプションモデルの構築が目的だと言っている人もいる。それらを否定するわけではありませんが、DX化を目指すどの企業にも共通な基本事項は、「データの収集と蓄積」です。AIを更に賢くするためにはデータの蓄積が必要ですし、IoTをもっと使い倒すことを求めるのであれば、センサーからのデータをきちんと蓄積し分析しなければ発展はあり得ません。サブスクリプションモデルについても、サービス提供先であるお客様の利用状況に応じて細かく動的にサービスを変化させていく必要がありますので、これもデータ収集と分析が最優先課題となります。
そして、これらの膨大なデータを社内利用だけに留めておくと、自ずから限界が見えてきてしまう、ということに着目した考え方が「データ取引」となるわけです。例を持ち出して説明してみましょう。
ある農産物直売所は日別・時間帯別の野菜売上についてPOSのデータを持っています。それを自社だけで活用している場合、そこには「傾向」しか見えません。「8月の中旬は比較的値が高い希少野菜の売上が一番多い」といった漠然と理由のわからない傾向がわかるのみです。そのPOSデータに携帯電話会社の持つ人の動態傾向を重ねると驚くべきことが解りました。
「8月のお盆休み最終日には首都圏へ戻る人の流れがピークを迎え、その直売所に立ち寄るお客様における首都圏在住の30~40代の割合が多くなる。おそらくこれらのお客様が持ち帰り用として希少野菜を購入しているのだろう」といった事実や仮説が見えてくるのです。これが「自社と他社の持っているデータを掛け合わせて分析利用する」ことのメリットです。ここまでご説明すればその直売所が次に何をするべきか明確ですね。「お盆休みの最終日には若干高くても希少な野菜を種類多く並べ、平均単価アップを狙う」という施策を選択することになりました。
この例はあくまでも実証実験レベルで行ったことですが、複数の会社のデータをそれぞれマーケットで売買できるようになると、今までの常識を覆す様なビジネスモデルが生み出される可能性が高まります。前述の農産物直売所のPOSデータも、地域の他の業種企業にとっては役に立つデータにもなり得るので、今まで放置していたデータが経済的価値を持つ可能性が高まります。これをDX化の目的としない理由は全く見当たりません。
現在国レベルでも研究レベルでもデータ売買市場の実現に向けた動きが高まっています。国境による制限を受けることなく売買できないといけませんし、販売したデータの権利をきちんと守る仕組み作りも必要なので、国際協力と取り決めが必要です。日本もそのリーダー役として引っ張っていく意思を見せていますが、膨大なお金が動く仕組み作りなので、かなり熾烈な国際的綱引きになるでしょう。
DX化の目的はこれだけではありませんが、その一つを身近な例で解説してみました。是非皆さんもIT化による成長だけでなく、DX化による新たなビジネスチャレンジについてもお考え頂ければと思います。
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