なぜ社長後継者の育成が遅れるのか?
「これまで事業運営はすべて私が仕切ってきましたので、後継者がまったく育っていないんです…」── 先日当社に個別相談にお越しになった、とある会社の社長のお言葉です。
創業以来社長の持ち前のエネルギーで会社を引っ張ってこられ、いまでは年商100億円をも視野に入るところまで来たものの、気づいたら後継者候補がまったく育っておらず、それが一番の心配事だとのこと。
70代とは思えない若々しさで、まだまだ頑張れる!ということですが、このまま自分が頑張ってしまってはさすがにまずいだろうと…。
この社長に限らず、「事業は頑張って伸ばしてきたが、組織固めは後回しにしてしまった」とおっしゃる経営者の方は当社のクライアント先でも非常に多いです。
特に創業社長の場合、はじめから能力も事業にかける思いも社員よりはるかに高いレベルにあるため、「事業が軌道に乗るまではとにかく自分が!」との思いですべてやってこられた結果、気がついたら社員は社長の指示なしでは動けないといった状態になっていることも…。
理想を言えば、事業がまだ小さいうちから社長は組織作りにしっかり着手し、自分が動くのではなく組織の力で事業を推進すべきところですが、「そんなことを言ったってできる人材がいなかったんだから」とおっしゃりたいところでしょう。
社員が当事者意識を持っていない
いつも自分が確認しないと危なくてしょうがない
なぜこんなこともできないのか…
このように嘆き続けて何十年。一向に自分が信頼して任せられる右腕が育つ気配はない…。
このような悩みを持ち続けている社長が陥っている罠というものがあります。それは、「社員の能力は高くなければならない」という勘違いです。
そういうと「社員の能力は低い方がいいって言うのか!」とお叱りを受けそうですが、もちろんそんなことはありません。しかしながら、逆説的ですが「社員の能力に頼る」という発想が実は「社員に任せることができない」という状況を生んでいるといっても過言ではないのです。
この理由はシンプルです。組織力で事業を廻したければ、まず一番に頼むべきは「社員の能力」ではなく「業務の仕組み」だからです。「まず仕組み」── この発想を持たなくば、いつまでたっても「優秀な社員」の登場を待ち続けることになります。
ここでさらに発想の転換が必要なのですが、「いい社員がいい仕組みをつくる」と考えがちなところを、「いい仕組みがいい社員を育てる」と考えるということです。
まるで「卵が先か、鶏が先か」の議論のように聞こえるかもしれませんが、卵が産まれる環境づくりをすることが先決です。つまり、社員が優秀でなくとも、いや優秀ではないからこそ、とにかく仕組みをつくることが重要となります。
社員に「やるべきこと」を逐一指示するのではなく、なにをすべきかを彼らに考えさせる
仕事のミスがあっても社員を叱っておわりにせず、そのミスがでない仕組みをつくる
できる社員がいいやり方をしていたら、それを他の社員にも横展開できるやり方を考える
仕事のやり方が各自バラバラだとしたら、その標準化を指示しマニュアルにまとめさせる…
常にこういった「人の前に仕組みありき」のアプローチを常にとっていくことで、社員も仕組みづくりの能力が徐々に積みあがってきます。「社長や一部の優秀な社員がやってしまう」という事態を避け、とにかく「仕組みで再現」ということにこだわるのです。
ここで、「社員の能力より仕組み重視という考え方は、社員の個性をつぶすことになるのでは」といわれる方もいらっしゃいます。
結論をいえば、それは逆だと私は考えています。
なぜかというと、仕事のやり方が整っていないために、個々の社員が持ち前の個性を発揮するどころか、ずっと「作業」をやってしまっているということがとにかく多いからです。
ただの作業に個性など必要ありません。一番いいやり方をみんなで考えて統一すればいい話ですし、そうすることで社員は自社ならではのアイデアや企画や提案を考える余裕を持つことができます。
いうなれば、個性を持つべきは『事業コンセプト』とそれを実現する『オペレーションの仕組み』ということであり、本当の意味で顧客のためになる事業をしっかり仕組みで廻していれば、その事業環境そのものが人を育てる仕組みだということです。
何事にも順番があります。まずは環境を整えることです。さもなくば、いつまでたっても優秀な社員とそうでない社員の分断は起こり続けますし、社長はいつまでたっても「一番優秀な社員」として働き続けることになります。
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