F社長は、どのように自分の会社の奴隷に陥ったのか?パッケージ化に取り組む基本的な考え方。
朝起きてメールを開くと、F社長からメールが来ています。
「先生おはようございます。先日の案件が取れました。」
その後には、契約までの経緯や顧客の反応などが、事細かく書かれています。
F社の前期の年商は、システムの受託開発事業2億円とパッケージシステム事業1億円、合わせて3億円。創業15年で完全に停滞をしていました。
そして、メールの最後に一文があります。
「これで3件の契約がとれました。集客の仕組みづくりに、動いてもいいでしょうか?」
強い商品をつくることができました。次に移ることができます。
クリエイティヴを下げる、だからそのビジネスを展開できる。
これこそが、原則です。
すべてのクリエイティヴが悪いわけではありません。企業には、何かしらのクリエイティヴが必要になります。それは、ビジネスや商品を生み出すところに必要になります。
私は、「生産現場」にクリエイティヴが必要なことが、悪いと言っているのです。
営業担当がお客様の課題をヒアリングして、企画を立て、提案をします。これは、完全にクリエイティヴです。
一人の担当者が、沢山の注文を一手に受け、仕事を割り振り、進捗をチェックします。外注もです。クリエイティヴすぎて、その社員の替わりを誰もできません。
現場で、高すぎるクリエイティヴが必要であれば、ビジネスを早く、大きく展開できなくなります。また、属人性が高いために、会社の「人が辞めるリスク」は高まります。
『枠の無いクリエイティヴ』が悪いと言えます。
どうしてもある程度のクリエイティヴが必要になる業種があります。例えば、ゼネコンの現場。そのため、ゼネコンは、その担当者やチームには、一つの工事だけを受け持たせます。その『枠』の中で、すべての力を発揮してもらいます。そして、その工事は、工期も長く、単価も大きいのです。
もし枠を外し、複数の工事を同時にやらせれば、たちまち力は分散することになります。
クリエイティヴが残っていれば、「並みの社員」では、こなせなくなります。
そのクリエイティヴが残る根本原因は、「事業モデル」にあります。それは、案件管理表やマニュアルなどの、仕組みでどうこうできるものでは無いのです。
事業モデルに、次のような特徴があると、クリエイティヴが発生します。
1.顧客の種類が沢山、商品の種類も沢山。
顧客は、BtoBと言いながら、個人事業に近い法人もあれば、中堅企業まであります。また、その欲求も、色々あります。
それを、全部受けているために、商品が沢山になっています。
そのため、すべての案件が、『商品開発』になっています。毎回、提案書をつくり、毎回、何かしらの研究開発が必要になります。
その結果、社長と一部の優秀な社員しかできない状態になります。他の社員は、指示されたことをこなす「アシスタント」です。
また、採用した社員の戦力化に時間がかかります。そのため、人件費が重荷になります。また、本人も面白くありません。その結果、退職率が高い傾向になります。
言い換えれば、「強い商品が無い」となります。自信も確信も持てないために、その多くを残してきてしまったのです。
2.ニーズの弱い顧客を相手にしている。
見込客を集める力がありません。顧客は、社長の知り合いや紹介がほとんどです。
そのため、「社長指名」で引合いがあります。社員を替わりに行かせれば「社長こないの?」と嫌味を言われてしまいます。
そして、その相手のニーズは曖昧です。または、ニーズを持っていないこともあります。そんな相手の曖昧な心の中に、ニーズを生むことが必要になります。また、そんな相手に売るためには、人間関係を強化する必要があります。
その結果、ランチェスター戦略の間違った適用を行い、定期訪問を増やすことをします。
毎月の見込客が少ないために、社長より「打率が大きく落ちる社員」を行かせることはできません。また、「一人の顧客」から何度も売上げを得ようとします。
益々、『相手合わせのビジネス』に成っていきます。更に複雑化し、更に社員には事細かい指示が必要になるのです。それを『指示待ちの社員が多い』と問題定義するようなことがあれば、終わりのない社員研修地獄が始まります。
根本は、「強い商品がない」ことにあります。また、「集客力もない」のです。
世の中には、実は強い商品を持っていても、集客の仕組みが無いために、この状況に陥っている会社は多くあります。逆に、強い商品が無くとも、集客力で儲けている会社も沢山あります。
この状態を脱するためには、『強い商品』、それと『集客力』が必要になります。
強い商品とは、その商品を買う人がいるという状況です。その人が、「喜んで買うのか」、「渋々でも買うのか」、「他と比べて買うのか」は、その商品(市場)の特性によることになります。
いずれにせよ、「相手に選ばれる」必要はあるのです。
その商品を「顧客が買いやすくしたもの」が『パッケージ化』です。
顧客が買いやすいとは、イコール、社員でも売れることを意味します。
その商品を買う人が一人でもいれば、同じニーズを持つ人は、他にも沢山存在するはずです。その人のために、基本的な仕様(機能)や価格を決め、顧客に見える形で商品や提案書にまとめます。
型番の設備、一戸建ての建売または規格住宅、多くのチェーンストア(吉野家、コメダ珈琲、ゴールドジム)、多くの電化製品、旅行のパックツアー、英会話の〇か月コース。
その一方で、他の要望は、断ります。「こんな機能が欲しい」という要望に対しては、次回の更新時に加えるかどうかを検討することになります。
そして、それを売りまくるための仕組みをつくります。
売る仕組みが出来上がると、社員の増員、拠点の新設、広告費の倍増というように、展開に移ることができます。
冒頭のF社は、元システムエンジニアであったF社長が、15年前に創業した会社です。当時は、受託開発事業一本でした。
顧客のやりたいことをヒアリングし、企画し提案をします。顧客とともに、その作り込みを行います。時にアイディアも出します。そして、システムを開発し、更新を行います。
その高い技術力と対応力で、顧客の信頼を勝ち得てきました。その結果、10年経つ時には、年商2億円、社員数15名の会社になっています。
このころに、F社長は、決算書を見て愕然としました。全然、儲かっていないのです。年商も社員も増えたが、利益として残っているのは数百万円です。
仕事が増えるとともに、社員を増やしてきました。しかし、社員の数と反比例するように、生産性が落ちていったのです。社長と社員3名ほどで回していた時には、生産性は1500万円ほどありました。しかし、いまでは、800万円ほどです。
社内は、多忙を極めています。でも、儲かっていません。
いつの間にか、手間と単価のバランスが崩れていたのです。顧客側の要求も細かくなっています。競合も出始め、値引きの要求もあります。社員の技術も追いついていないことを感じます。毎回、多くの手直しが発生していました。
また、会社の規模に応じ、固定費も大きくなっています。福利厚生の整備、携帯電話や社用車の手配、有給休暇の取得。そして、毎年数名の入れ替わりがあり、採用費、訓練費、そして、退職金が伴います。
F社長は、当時を振り返り言われました。
「社員を食わせるために案件をとっている状態です。自分自身が会社の奴隷になっていました。」
そして、パッケージ化に向かうことを決意したのです。
創造力のあるF社長は、パッケージソフトのアイディアをどんどん出すことができます。それを一つひとつパッケージにしていきました。
しかし、5年が経つころに、気づくことになります。
パッケージソフトがいくつもあるが、どれもが中途半端な売上げなのです。システムの受託開発事業もそのまま残っていることから、相変わらず社内は複雑化した状態なのです。
面談の際に、私は、手元のパッケージソフト一覧を見て、いくつか質問をさせていただきました。
「これは、どれぐらいの市場規模がありますか?」
「いちユーザー当たりの単価は、いくらですか?」
「この分野で、シェアを守ることはできますか?すぐに真似をされませんか?」
F社長は、黙ることになります。
そして、言いました。
「非常に浅いところで、パッケージソフトを真似ていただけなのですね。」
それらは、本当の【パッケージ化】とは、ほど遠い状態だったのです。儲かるビジネスとしての条件を満たしていないのです。
F社長は、それから本当のパッケージ化に取り組みました。その結果が冒頭です。
取組みを始めて、半年が経っています。今月、一つのパッケージソフトの契約3本が、決まりました。一つが、300万円の規模です。その後も、保守契約があります。
この3件のお客様で、システムの機能性を高めること。また、パッケージの内容を固めることが狙いです。いよいよ完成に近づくのです。集客の仕組みづくりに移れます。
私は、メールを返しました。
「はい、もちろんです。移りましょう。」
集客にも抑えるべき原則とその組立の手順があります。それは、F社長に説明済みであり、検討書もすでにできています。実行力のあるF社長なら、早々に実現することでしょう。
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