経営者が理解しておくべき「単価アップ」と「値上げ」の違い
「コロナの前にバックエンドの見直しをやっておいて本当によかったです…」―― 教育ビジネスを展開されているS社長は安堵の表情でこう言われました。
同社はコロナ禍で遠方から通う生徒数は減少したものの、コンサルティングの中で販売商品の中身を根本的に見直し、高単価化を実現していたおかげで売上・利益ともに今年は前年比大幅アップを実現しています。
「もともとは値下げをしようとしてましたからねえ…」とS社長は苦笑されました。
コロナで人・モノ・カネの動きが停滞し、多くの会社で以前よりも売上水準が低下しています。
「売上2割減まで戻ってきました…」
「うちは売上1割減で済んでいます…」
このような発言が経営者から聞こえてきます。もともとよほど利益率が高くないと、売上が1割、2割と落ち込んで「これで済んだ」なんて言えない状況のはずですが、「コロナの影響は一時的」との考えが「(売上は)いずれ戻る」との楽観を生んでいます。
現在の状況のような市場縮小による売上減少に対して、取れる対処は基本的に以下の4つとなるでしょう。
① 原価低減
② 固定費削減
③ 数量拡大(販売増)
④ 単価アップ
そして、いまの状況では③や④のような積極策は取れないと考えて、①か②に走る企業が目に付きます。
なかには価格はそのままであからさまにメニューの中身を貧相にしてしまった飲食店チェーンや、「売上4割減でも利益が出るように原材料を見直す」といった恐ろしいことを公言する居酒屋チェーン店も出てきています。
そのような顧客を無視した原価低減策に走る企業は論外として、多くの企業では基本的には②の固定費削減を実施しながら、助成金や特別融資でしのいでいるといったところでしょう。
固定費を削りながらじっと耐えて市場の回復を待つ―― このような選択で本当に大丈夫かどうか…このアプローチでの大きな問題は、これが基本的に市場回復という自社のコントロール外の要因に頼っているという点です。
一方で「攻撃は最大の防御!」とばかりに、この機を利用して積極策に出る経営者もいらっしゃいます。現に、「どうせ暇だし今のうちに事業の強化に取り組みたい」と当社にご相談に来られる経営者もコロナ後増えています。
さすがは経営者です。「コロナに負けるな」という言葉をただの標語とせず、実際の行動で勝ちを取りにいこうと動かれています。ただじっとしていて負けることなど考えられない!といった人種の方々です。
ここで、攻めの積極策となると上記③の数量拡大か④の単価アップとなりますが、いまのようにモノが動かない時代においてはやみくもに③を狙ってセールスやマーケティングの手を打ってもうまくいきません。
ここは時代の変化をにらみながら、④の単価アップを狙うことが正しい戦略となります。
これを「単価アップ=値上げ」と考えるともちろん行き詰まります。いまどき商品やサービスの中身は変えずに値上げしても、よほど事業が強くない限り顧客にそっぽ向かれてしまうことでしょう。
狙うべきは、商品やサービスの中身を見直すことによって一人(一社)あたりの顧客単価を上げることです。
これはいいかえると、これまでの顧客との関わりを根本的に見直すこととなります。よくある通常の商品やサービスを提供するのではなく、もっと深く顧客の困っていることや望んでいることを察知して自社サービスとして提供する。これは本来は事業活動の一環として常に取り組むべきことではありますが、繁忙期にはつい目の前のことに集中しがちです。いま、まさに事業変革の大チャンス到来といえるでしょう。
このとき非常に重要となるのが、「既存事業の延長線上で新しいサービスを考えない」ということです。同業界でよくあるサービスを自社で新たに取り入れたところで顧客単価の上昇は見込めません。
いま「非日常」が目の前にあります。以前と比べてまったく「非常識」な事態です。そのような状況の中で御社の事業だけが「常識」どおりのものだとしたら、そんなものはおもしろくもなんともありません。
私が通う東京駅近辺の散髪屋は顧客一人が1回来店したときの平均単価がなんと8千円を超えているとのことです。カットは3500円ですから、約6割が「髪を切らないサービス」となっています。「散髪屋=髪を切るところ」という常識を捨てた結果です。
当社のクライアント企業においても、冒頭の教育ビジネスS社をはじめ、「通常はやらないこと」をサービスのメインに据えて段違いの顧客単価を実現しているところが数多く出現しています。
コロナによる自粛で人々の貯蓄残高は上がっているそうです。しかしながら人の不安や不満は解消されていません。顧客が喜んでお金を払いたくなるような、これまでにない特別なサービスが待ち焦がれています。
よくある商品やサービスを他社より安くして量を捌く…それが通用した時代は終わりました。現にこれまで安売りしていたところほどいま苦しんでいます。世にないものを生み出してこそ、事業の存在意義があるというものです。
顧客が「特別感」を感じるサービスを世に出し、御社の存在感を世の中に示していきましょう。
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