優秀な人材は中にとどめるべきか、外に出すべきか。
ちょうど去年の今頃、「社員を個人事業主にするとどうなるか」というタイトルでコラムを書きました。体重計などの健康管理グッズを販売するタニタが、正社員を個人事業主にしてみた。それでどんな効果があったかという話。書籍が発行されて話題になっていた時でした。
このコラム、なぜか今もってよく読まれていて、「社員か個人事業主か」という選択が、経営者にとっても、働く側にとっても、大きな興味の対象であることを感じていました。
ここにきて、ヤクルトが通称「ヤクルトおばさん」を個人事業主から正社員にするというニュースが聞こえてきて、また新しい流れになってきたな、と。
ヤクルト製品を大きなバッグにいれて、そこここの職場に売り歩いているヤクルトのお姉さまたちが、個人事業主であることは、知る人ぞ知るお話しです。家事・育児その他の用事で時間の制約が多い女性たちが自由に働けるようにと、委託販売形式をとっているわけです。
ところが、働き方が多様化し、ヤクルトのお姉さまたちが登場した頃にはあまり普及していなかったパート社員としての働き方なども増えてきた。それで、「良い人材に働き続けていただくためには、個人事業主より安定した正社員にすることにした」ということのようです。
この話には「ただし」があって、それによって増える経費の負担は各販売店が担うとのこと。各販売店の経営者にしてみると、思案のしどころです。そのメリットとデメリットを自社の考え方や展望に照らして検討する必要があります。
企業と働き手との関係にバリエーションが増えてきたことは望ましいことです。たとえば一昨年あたりから現れてきた「兼業・副業解禁」の流れもその一つ。厚労省がモデル就業規則を改訂したこともあって、大手のIT企業などを中心に始まりました。
その目的は、多くの場合、社員に「他流試合をさせて能力向上をはかる」とか「経営者としての経験をさせて視座を上げてもらう」とかいった主旨です。つまり社内人材に対する教育研修の一環として兼業・副業を認めるケースが多い。優秀な人材は外に出して、さらに能力を高めてもらおうという算段です。
SDGsなどの活動に興味を持ち、社会をよくしようという志の高い人たちは、その想いが高まるほどに企業内で働くことに疑問を抱き始めます。
自分の想いと会社の想いの重なり合いが大きいほど幸せなキャリアを送れる。これは組織内キャリアを論じるときによく出てくる視点です。ところが、組織の中にいる限りは、その重なり合いが全くぴったり合うことはない。だから、どこかでスピンアウトしてしまう可能性はあるわけです。
社員の側に視点を移すと、雇用され続けるか、独立して働くかは、トレードオフの関係にあります。オーソドックスな考えでは、雇用され続けることは、ある意味、セーフティネットの中にいること。コロナ禍のように大きく経済が揺さぶられても、しばらくは会社が防波堤になって直接のダメージから逃れることができます。その代わり、自分の意思で自分の行動のすべてをコントロールすることはできない。
では、個人事業主になるとどうなるか。セーフティネットがなくなる代わりに自由が得られます。自分の行動はすべて自分で決められ、稼ぐも稼がないも自分次第、となります。
このトレードオフを解消する方法は、両方の良いとこどりを思案することです。すなわち、セーフティネットも自由もある、という状態をつくります。中にいても、ある程度の自由が許容され、外にいてもある程度のセーフティネットがあるようにするわけです。
そして、社会を構成する責任ある大人として、双方ある程度のことは許容しながら、対立関係ではなく協力関係を築くところがポイントです。
AIがどれだけ進歩しようと、人が経営の中軸を担うことは間違いありません。そして幸せに働く人が増えれば、会社の生産性も創造性も上がっていきます。新しい働き方、新しい利益の出し方を、ぜひ一緒に考えていきましょう。
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