なぜ、A課長は社長からの指示をやっていなかったのか?原因は、優秀な社長ほどできないアレ?
H社長は、営業部のA課長を呼び出し、確認をしました。
「〇〇を売っていくための、キャンペーンってどうなったの?」
その声に、苛立ちがこもっています。
A課長、答えます。「すみません、進んでいません。」
H社長、訊きます。「どうして?」
A課長は、黙ってしまいました。
これが、年商数億社長と社員の典型的な会話であり、日常です。
この思考パターンである限り、次のステージには進めないのです。
会社の中の、すべてが『設計―依頼-実行』によって、回されています。
社長の事業の『設計』は、経営計画書にまとめられます。そして、それを使って、管理者や社員に『依頼』をします。その後の『実行』の確認は、その経営計画書によって管理されます。
チラシを作成する時も同じです。担当者は、その構想を企画書にまとめます。その企画書を同僚や上長に見せ、意見をもらい完成させます。これが『設計』です。
そして、業者を呼び、企画書で説明し『依頼』をします。その後は、業者と数回キャッチボールをするという『実行』により、成果の出るチラシを作り上げます。
設計段階での成果物を総称して『企画書』と呼ぶことにします。その企画書には、趣旨(目的)、方針、予算、スケジュールと役割分担などが盛り込まれます。
方針発表会、ホームページの製作、事務所の移転、システムの入れ替え、すべてが『企画書』です。それらを具現化するための取り掛かりが、『企画書』なのです。
会社で何かを始める時には、必ず『企画書』から始まるということです。
その企画書は、誰かが案を作ります。誰か一人です。その一人が深く考え叩き台となる企画書を作ります。そして、それをもとに、数名でディスカッションをします。その結果、良い『設計』ができます。
企画書、すなわち、文字になっているからこそ、その関係者で共通認識をつくれるのです。そして、その共通認識があるからこそ、そこに皆の意見を積み上げられるのです。
会社において、企画書が無いなどあり得ないのです。企画書を立ち上げる段階が無ければ、それについて誰一人と深く考えていないことになります。そして、関係者は、バラバラな考えやイメージを持ったままになります。当然、状況を一転させるアイディアも出ることは無いのです。
社長一人で、すべてを行うのであれば、企画書は、全く必要がありません。自分で考え、自分が動くだけです。設計―依頼―実行の依頼のプロセスを無くせます。チラシをつくる時には、業者を呼び、口頭で伝えれば、必死にメモを取ってくれます。イベントづくりは、ある特定の人の頭のなかと口頭だけで進んでいきます。
しかし、年商10億円という規模、社員を活躍させるという状態を目指すのであれば、絶対に『企画書』が必要になります。
それが無いという結果が、年商数億円規模での停滞なのです。また、いつまでも社長が現場を離れられない原因となります。そして、社員から「活躍する」や「育つ」という機会を奪っているのです。
年商数億円の企業には、「企画書をつくるという文化」が全くありません。設計-依頼―実行の原則が無いのです。
冒頭のH社長は、いままでこの状態でやってきました。
創業から10年以上が経っています。年商は6億、社員は30名を超えています。この規模でありながら、「企画書」が全くない会社だったのです。
A課長に依頼した「キャンペーン」は、全く進んでいませんでした。
H社長の「どうしてやっていないの?」という厳しい問いに対し、A課長は「すみません」としか返しません。
私は、その時のA課長の状況を、次の一言で解説しました。
「自分が何をすればいいのか、解っていないのです。」
H社長は、この言葉を聞いて、驚いた顔をされています。まさに、驚愕しています。
H社長は、食い下がります。「でも、彼は、この仕事を受けたのですよ。」
私は、こう答えるしかありません。「それが、社員というものです。」
これこそが、世の多くの社長の感覚です。
社員というものが、理解できていないのです。
しっかり胸に刻んでいただくために、敢えて、もう一度書きます。
社員が動かない一番の理由は、「自分が何をすればいいのか、解っていないから」です。
逆を言えば、「自分が何をすればよいか」が解りさえすれば、社員は動けるのです。
年商数億社長、特に、優秀な社長ほど、この社員の特性が理解できません。優秀な社長には、「解らないということが、解らない」のです。
私は、本当にご理解いただくために、コンサルティングの場で、この説明に時間をかけるようにしています。
人に動いてもらうためには、次のような方針が必要になります。
・まずは、既存顧客を重点とする。メールにて、資料送付とオンライン面談を案内する。
・新規顧客については、WEB広告を〇万円かける。ホームページのトップにキャンペーンを大きく載せる。1枚の案内ページを新設する。
そして、それにスケジュールがあれば、明日から自分が何をすればよいかが解ります。
これを、まとめたものが、企画書です。まずは企画書をA課長に作らせ、そして、それを持って打ち合わせをするべきだったのです。
私は、H社長にお伝えしました。
「企画書を作らせる、これができるかできないかが、H社の行く末を決めます。御社が次のステージに進むためには、社長が、企画書を作らせるということを身に付ける必要があります。」
H社長は、非常に優秀な方です。頭の回転は速く、そして、良いと思ったことをすぐに行動に移す力があります。私は、H社長に、「ビックになるにおい」を感じています。
そのような優秀な社長は、自分が出来てしまうだけに、『設計』と『依頼』が苦手な傾向があります。人を動かすためには、「人を動かすためのプロセスの構築」を覚える必要があるのです。この規模までは、それら無しでも、やってこられたのです。いよいよそれを変える時が来たのです。
そして、実は『実行』も、苦手です。超がつくほど苦手な傾向があります。
優秀な社長は、社員に対し、「解らなければ、訊いてくるはず」と思い込んでいるのです。
だから、自分から、その後の進捗を細かく確認することがありません。冒頭の会話の通りです。「あれ、どうなった?」と訊いた時には、ずいぶん時間が経っていることになります。
H社長から、追加の質問があります。
「企画書をつくらせても、どうせレベルの低いものが、出てくるだけですが。」
私も答えます。「そのレベルが低いという相手に依頼しているのです。なおさら、企画書を作らせる必要があるのです。」
彼らの成長する機会を奪ってきたのも、社長なのです。
企画書を作らせてください。
企画書を作らせることを覚えてください。社長自身の思考パターンを変える必要があります。
社長が、それを行えば、会社全体がそれに倣っていきます。ホームページの企画書、システム改善の企画書、慰安旅行の企画書、会社のいたるところで企画書が作られることになります。
社内の企画書の数が、考えている社員の数と言えます。
そして、その数だけ、社員同士が話し合っていることを意味します。
その企画書の質だけ、人が育っていることになります。
御社は、企画書という文化はありますか。
今月、何枚の企画書が出されましたか。
その枚数が、御社の強さであり、成長のスピードになります。
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