アフターコロナ、社長はなぜ同業者に意見を求めてはいけないのか―「保守」コテコテの同業者に聞いてもしょうがない―
私はコンサルティング契約に入る前に、というか、しっかりとしたコンサルティング契約を結ぶために、事前のセミナーを開催します。
そのセミナーに参加された方に、充分な予備知識を持って私のコンサルティングを受けていただきたいからです。私の知り合いであるほかのコンサルタントの方も概ね同じようなやり方で、顧客を獲得されているのではないでしょうか。
さてその顧客を獲得するためのセミナーについては、私のコンサルティングを正しく理解していただくために、様々なコンテンツを用意してお話をすることになります。ところで、そのコンテンツの中に、最近新しく加えた項目があります。
それは、「私のコンサルティングに参加の意思があるのであれば、その決断に際して同業者の意見は聞かないでください。」というものです。
というよりは、「社長が何か新しいことに挑戦する気があるのであれば、同業者には一切相談などしないことです。或いは、同業者の意見は一切聞かないことです。」と申し上げているのです。いったい何故でしょうか。
それは、同業者の意見というのは、ほぼ保守的なスタンスに立つことが間違いないからです。
革新的な試みに対して「そりゃあいい。ぜひチャレンジしてみたら・・」という、後押しをしてくれることなど、ほとんどあり得ません。大抵の場合、「そんなのは聞いたことがない。」「やめといたほうが無難なんじゃないの。」「うまくいかなかったらどうするんだよ。」等々、否定的な意見ばかりです。まあ、昔からの親しい仲ですから、心配してくれての意見なのでしょう。
とはいえ、せっかく新しいことを考えても、意見を求めたりしたら、こんな風に出ばなをくじかれることは間違いありません。同業者であっても、活発に未来への構想といった内容の意見を交わせるような仲であればいいのですが、そんな人はめったにいないのではないでしょうか。どちらかといえば、保守的で無難な方向しか示してくれないものなのです。
私は以前から、世間で保守性を象徴する最も代表的なものを上げるとすれば、それは「地域」と「業界」の2つである、と言ってきました。
「同業者」というのは、多くの場合その両方に所属しているのではないでしょうか。そんな「同業者」に、革新的な試みについて聞くとしたら、保守的な意見しか返ってこないのはむしろ当たり前なのかも知れません。
以前、こんなことがありました。私の会計事務所のクライアントで、ほかの業界から「花屋」に移ってきた人がいました。全くの畑違いの参入だったので、私はその理由を聞いてみました。すると
―「花屋」の業界というのは、主に葬式と墓参りの花しか取り扱っていない。だから、菊や牡丹といった和花が多い。特に、この地域はその傾向が強い。しかし、これから花というのは、自宅のリビングや玄関などに飾ったり、ちょっとしたプレゼントとしてその場の演出効果を狙ったりと、生活の中で楽しむ時代になっていくと思う。そのためには、花屋の方が今の品揃えではなく、もっと現代のライフスタイルに合った洋花を置いて売るべきだと思っている。そんなことを考えてこの業界(花屋)に参入した。―
という答えが返ってきました。
私はそれまで「花屋」の業界について、どうなんだろう?などと考えたこともなかったのですが、彼のその話を聞いて「なるほど、そうなのか!」と納得がいきました。そこで「新しい試みというのは大変だと思いますが、そういう新しい切り口は大事だと思いますので、その路線で頑張ってみてください。」と、おおいに賛成して顧問を引き受けることになったのです。
さてその後、彼の動向は気になっていたので、ときどき担当に様子を聞いたりしていたのですが、業績の方があまりパッとしません。そこで、訪問してみると彼は浮かない顔をしていました。私は彼にどんな調子なのか聞いてみると、彼の答えはこうでした。
―当初、初めに考えたようなコンセプトで開業したのだが、どうもうまくいかない。そこで、同業者の先輩に意見を求めてみると「花屋のメインの売上は、葬儀とお墓に決まっているじゃないか。そこを外して商売が成り立つわけがない。」と諭された。そう言われてみると、そうかなあ、と思い、仕方がないので、ほかの花屋と同じような品ぞろえにした。―
というのです。
私は「あなたのやろうとしていたチャレンジに、そう簡単に答えが出るわけないじゃないですか。今までと全く違うコンセプトで始めたのですから、浸透するには少し時間がかかるのは当たり前です。そもそも、そんなアドバイスをする花屋が儲かっているのですか?儲かっていないでしょう?!あなたは自分のコンセプトをもっと信じなければだめですよ。それから、外に向かってもっともっと情報発信しなければ、この地域では新しい試みなのですから、そのままではなかなか伝わりませんよ。」と、元気づけて、私の基本戦略である「情報発信(アウトプット)」についても、もっときちんと行なうようアドバイスしました。
そうやって励ましたときは、彼は「そうですね。わかりました。頑張ってみます。」と納得するのですが、その後も、少し時間をおいて訪問すると、その間に迷いが生じていて、中途半端なコンセプトに戻っているのです。そのたびに訳を尋ねると、「同業者に『そんなやり方は聞いたことがない。うまくいくわけがない。やめた方がいい。』と言われて、グラグラっときたから・・・」と言うのです。
しまいには、私は「もう同業者に意見を聞くのはやめてくれ。なんなら一切会わなくてもいい。」とまで言いました。
これは他の業種についても同じことが言えます。例えば、私は会計事務所の経営についてはほとんど同業者に相談しません。頑なにそうしているわけではなく、かなりユニークな事務所経営を考えているために、他人に相談してもあまり参考にならないからです。今思い出してみれば、税理士を始めた頃、先輩税理士にアドバイスを受けたことは、ほとんどが逆だったな、と気がつきます。「税務以外は余計なことはしない方がいい。」「相続の相談は面倒だから、申告の部分だけ引き受ければいい。」「職員にはできるだけ大事な情報は伝えない方がいい。」といったありがたいアドバイスは、今となってはすべて逆に受け取った方がよかったと確信します。
コンサルタント業は、そもそもみんなが個性派ぞろいでしょうから、他人を参考にすることなどそんなにないのかも知れません。しかし、一般の事業においては、地域の同業者、業界の先輩といった人たちが、聞きもしないのにいろいろ言ってくることが多いのです。ましてや、こちらから尋ねれば、喜んでアドバイスしてくれることでしょう。
それが昔は本当にありがたい経験談や教訓だったのかも知れませんが、時代の動くスピードがここまで早くなった現在、残念ながら年配の先輩の意見というのは、どちらかと言えばもはやズレていることが多くなっています。
もちろん、年齢や世代に関係なく、常に革新的で前向きな経営者もいることでしょう。そんな人に出会ったならば、その考え方ややり方をおおいに参考にし、学ぶべきです。しかし残念ながら、どの業界でもそんな人はごく少数派です。
基本的には自分で考え、自分で実行すべきなのです。
あえて意見を聞くとすれば、全く業界の違う人であるとか、世代のうんと離れた人であるとか、或いは異性であるとかの方が、よっぽど参考になることが多いと思います。
「同業者の話は聞くな!」という今回の私の提言は、一見乱暴に聞こえるかも知れません。しかし、先述の花屋さんのように、下手に話すことで従来の保守世界に引き戻されるようであればあえて会う必要もない、いや会わない方がまだましである、と思います。
常に革新を続ける必要のある現代経営において、保守コテコテの「地域」と「業界」という存在とは、それなりの距離感をもってつき合うべきだ、というのが私の考えです。
それはそのことそのものが目的ではなく、本来の重要課題である自己革新の妨げになりやすいからにほかなりません。新しいコンセプトを通すのは、必ず苦しい戦いになります。しかし、経営者は時代に沿った革新性をもって仕事に当たっていただきたいと思います。
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