間違えるな!『マンション床施工』
初めてマンションリノベーションの設計を自分でしたのは買取再販物件でした。
築30年以上の古いマンションだったので、現場に通っていくとホールには次々に他の部屋の工事あいさつの貼り紙が増えていて、様々な作業服を着た業者さんたちが出入りしていました。自らの工事を依頼する業者さんのあてもなく、何をどう始めればいいのか…?本当に分かってなかったので、音が聞こえるてくるとその部屋に缶コーヒーを持って行くのでした。
何をどう始めればいいのか…?分かってなかった経緯は、
人生最大の「むちゃぶり」から得たもの でご覧ください。
↑缶コーヒーを持って訪ねていった部屋(気の良い大工さんでした)
この写真は、その頃見せてもらった同じマンション棟内の部屋のひとつ。大工さんがひとりで床の下地をつくっているところでした。
見せてもらった時は「ふーん、こうやってつくるんや」という感じで、「床板は何を使うんですか?」という問いに「マンション用のクッションのついたやつ。遮音フロア。」というやりとりだったと思います。
新築マンションのギャラリー(モデルルーム)に通ってパンフレットをもらったりして勉強していましたので「ふむふむ」という感じでした。最近のマンションの床の仕様、施工方法は、床板の裏もしくはコンクリートスラブに立てる支持脚に音や振動を伝えにくい柔らかい素材を使用することで遮音性能を確保しているという説明がもらってきた資料にも書いてありました。その時は、材料さえ性能の表示があるものを使えば大丈夫なものと思って話していたのです。自分もその大工さんも。
この大工さんの工法は、まさに戸建木造住宅のコンクリート基礎の上に1階床を組む際のやり方です。コンクリート部分からアンカーボルトが立ち上がっていて穴あけした角材を並べているところで、これに直接厚い構造用合板を敷き込んでクッション材付きの床板を張る予定とのことでした。
工事を予定していた部屋ではどうしても素足に気持ちのいい無垢の杉材で床を仕上げたかったので、自分の場合は床下の支持脚に緩衝材の入ったもので施工する考えでした。
工事を予定していた物件の真下の部屋のオーナーはご年配でその部屋には住んでおられず、子供さん家族が住むかもしれないので「人に貸すのもイヤだし…」というなんとも余裕のある方でした。いつもお留守なので工事のご挨拶が出来てませんでしたが、管理人さんが連絡役になってくださり部屋に来られた際に会いに伺うことができました。
その際工事のご挨拶をするのと共に下の部屋の中にも入れていただき、工事前の床の生活音を上の部屋(工事物件)で物を落としたり走ってドンドンしてみたりしてもらって、そのオーナーご夫婦といっしょに体感させてもらうこともできました。
どこで何をしているのかわかる感じの音で「まあまあ聞こえるなー」という印象でした。
でも「ビフォーがこのレベルならハードルは低いな」というふうにも思いました。
その後、実際に解体が始まり床を剥がしてみると、元の施工は床板の中ほどに床面に対して垂直方向に切り込みが入れてあって裏側には柔らかい材料が貼り合わせてあるものでした。しかし、これがどのような性能の代物なのかは竣工図面の仕様書などをみても特定できませんでした。
↑解体途中の既存の床組みの様子です
↑よく見ると床板の断面に切り込みが入っています
新築当時からお住まいの方々にお話を聞いてみると、このマンションが竣工した当時は居間は畳敷きが主流だったようで、実際にはそれほど他の部屋の音は気にならなかったそうです。
その後畳の居間(茶の間)の床をフローリングにして広く繋がったリビングダイニングに改装する部屋が増えてきて、管理組合へも音の問題についての声が増えてきたそうです。
このマンションの管理規約を確認してみると遮音等級など床からの音についての基準が謳われていませんでした。利便のいい立地なのでいわゆる分譲貸し賃貸物件になっている部屋も多くなっていました。そうして居住していないオーナーが増えてくると、床の遮音についての議論は盛り上がらなくなってしまうようです。
その後その部屋は完成し、棟内の皆さんに真っ先にお披露目をしました。
真下の部屋のオーナーご夫婦にも来ていただいて、新しい部屋を見ていただくのと合わせてもう一度下の部屋での音の様子をいっしょに確認してみました。
あくまで感覚的な評価ではありますが、ビフォーよりは静かになったとのご夫婦一致したご感想でホッとしてその日はお別れしたのを憶えています。
↑実際に使用した「支持脚に緩衝材の入ったもの」です
それからしばらく後に、自分の認識が全然浅いことに気付かされることになります。
具体的には、
●マンションの床騒音は『軽量床衝撃音』(スプーンなどを落とした音など)と『重量床衝撃音』(ドスンという足音など)がある
●一般的に管理規約などで規定されているのは『軽量床衝撃音』のみである
●床衝撃音の遮音等級は『推定L等級』が規約などに謳われているが2008年に『ΔL等級』に変更されている
●『推定L等級』はメーカーに有利な試験成績が出やすい傾向があり、実際の施工条件に近い試験方法に変更され『ΔL等級』にJIS規格が変更された
●『推定L等級』などの表示のある材料を使っても駆体状況や施工方法で実際の性能には違いが大きく出てしまう
以上、すべて知りませんでした。
けれども、幸運にもプロにも詳しく教えてくださる ”師匠” に出会えてしっかり教わることができました。「メーカーカタログに書いてあったから」「みんながそうやってるから」という理由で根拠不明なことをやりかけていた ”可哀想な脳みそ” を救ってもらったのです。危ないところでした。
マスタープラン一級建築士事務所
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