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仕事の仕組み化・標準化が進まない理由

SPECIAL

キラーサービス(特別対応の標準化)コンサルタント

株式会社キラーサービス研究所

代表取締役 

経営革新コンサルタント。イレギュラー対応を標準化することで、ライバル不在で儲かる、「特別ビジネス」をつくりあげる専門家。倒産状態に陥った企業の経営再建から、成長企業の新規事業立ち上げまで、様々なステージにある数多くの企業を支援。イレギュラー対応を仕組みで廻して独自の市場をつくりだす画期的手法に、多くの経営者から絶大な評価を集める注目のコンサルタント。

「中川さん、やっとうちも組織っぽくなってきました」―― 当社のコンサルティングの終盤に差し掛かったF社の社長がこう言われました。

「いままで優秀な社員をありがたがっていましたが、そこが落とし穴でした」― F社長は嬉しそうに言葉を続けます。「着目すべきは、むしろダメな社員の方でしたね…」


 

多くの社長が優秀な社員を求め、その存在を有難がります。しかし、エース級の社員の存在が会社の成長を妨げているというケースはよくあることです。

その理由はシンプルで、優秀な社員は「自分のやり方でどんどん業務をこなしてしまう」からです。

その何が悪いの?と思われるかもしれません。その「いいやり方」を他の社員も真似すればいいじゃないかと。

しかし、ここが落とし穴で、そんな優秀な社員が実践しているやり方というのは、往々にして他の優秀でない社員には移植できないということになります。

なぜそうなってしまうかというと、そういった優秀な社員というのは、多くの場合2つの特徴があるからです。そのまず一つ目は、「勘がいい」ということです。

これは「機転が利く」とか、「臨機応変に対応できる」と言ったことも含まれます。要はいろんなことを自分で判断できる、ということです。

その証拠に、優秀な社員に「なぜそう判断したか」と聞いてみたところで、「だってそうでしょう」とか、「いやその方がいいと思いまして…」といった、なんとも説明になっていない返事が返ってくる場合が多いのです。彼らは「勘」でやれてしまうのです。

たとえば営業マンがいい例です。優秀な営業マンは顧客の要望に応じて臨機応変に伝える内容や伝え方をアジャストしますが、これも感覚的にやっているという部分が非常に大きいです。

もちろん、その「勘」や「感覚」も、よくよく分析してみればちゃんとロジックがあることでしょう。しかし、彼ら当人でさえ自分の考えをそこまで言語化できていない、ということがほとんどであって、そんな彼らのとっさの判断を他人が真似するのは非常に困難ということです。

そして、優秀な社員が持つ特徴の2つ目が、「努力できる」ということです。

なんだそれは?と思われたかもしれませんが、この「努力できる」とか「がんばれる」といったことができる人は実は一握りで、これは立派な才能なのです。

逆に言うと、ほとんどの社員は自発的には「努力できない」、「がんばれない」と思っていた方がよくて、社員全員の自発的な頑張りを期待してしまうとがっかりさせられることとなります。

ですから、独特の勘がはたらき、かつ自発的に努力できる一部の優秀な社員を「スタンダード」と思い込み、他の社員にもその基準をクリアできるよう求めたところで、そんなことは実現しませんし、その優秀な社員たちにしてもなぜ他の人間は同じようにできないかわからないので、社員間の格差は一向に是正されないままだということです。

このようなことは、なんとなくでも理解されているでしょうし、優秀な社員は管理職にしているのだから、社員みんなが力を発揮する仕組みづくりをやってくれるだろうと期待されているかもしれません。

勘がよく、努力もできる優秀な社員が、自分だけがやれるのではなく、社員全員が協力して結果を出せるための業務フローの仕組み化・標準化を進めてくれたら、そんないいことはありません。

しかし、いかに優秀な社員が御社にいようとも、そういった仕組みづくりはほぼ実現されない、というのがこれまで私がいろんな会社を見させていただいた上での結論です。

その理由は大きく3つに分かれます。

まず一つ目としては、そういった本来仕組み化・標準化に取り組むべき管理者(=マネージャー)は、相変わらずプレーヤーとしての役割も担っており、自分の仕事が忙しくてそれどころではない、というケースが非常に多いです。

よくある例としては、優秀なトップ営業マンを管理職に昇格させ、これからは他の営業マンの育成もしてもらおうと期待したけれど、当人は相変わらず自分の営業成績を出すことに精を出している、というケースです。

これは結局経営側の責任で、「管理者の役割は仕組みづくり」ということを経営陣が納得しておらず、マネージャーとプレーヤーの両方をさせようとするために起こることです。

そして、管理職が仕組み化に取り組まない2つ目の理由が、彼ら管理職もどうやって仕組み化すればわかっていない、というものです。

彼らは自らの勘と努力によって行動を通して実績を出してきた人間です。決して「仕組みづくり」で成果を上げてきたわけではありません。そんな彼らに業務の仕組み化・標準化に取り組ませようとしても、これは無理な話です。いったい仕組み化とは何をすることか、おそらくちんぷんかんぷんなはずです。

さらに、3つめの理由としては、そんなプレーヤーとして優秀だった彼らは、本音のところでは仕組み化になんか取り組みたくない、と思っているということです。

そんなことはないだろうとお思いになるかもしれませんが、管理者だろうと一般社員だろうと、いま目の前のことをせっせとやっている方が楽なのです。

手を止めて、今までのやり方のどこが悪いのかを考え、新しいやり方を考えて、それをみんなができるようにマニュアルをつくって、それに基づいて社員を教育して…… そんなことは面倒くさくてやってられません。仕組みをつくったところで管理職である自分はおそらくずっと忙しいし、いまだって何とかやれてるんだから…ぐらいなものでしょう。

もちろん、最初に少し手間をかけてベストな業務フローをつくり仕組みとして定着させれば、その後ずっと楽になることは言うまでもないのですが、社員は目の前の楽さを選んでしまうということです。

結論、業務フローの仕組み化・標準化というものは、経営トップが自社の戦略的な打ち手の優先的課題として打ち出し、しかもそれを自ら率先して実行していく姿勢を見せなければ、絶対に実現しないということです。

前回のコラムで「重要案件のプロジェクト化」について書きましたが、業務フローの仕組み化・標準化についても、しっかりとプロジェクト化して社長が関わる必要があります。

もちろん、すべての業務の仕組みを一気に見直す必要はありません。自社のUSP(独自のウリ・強み)を強化するための業務や、クレームなど「顧客不満足」につながっている業務などについて、優先的にそのやり方を見直し、理想のフローを仕組み化・標準化するのです。

そのサイクルを繰り返し、管理職に本来の仕事を習得させていくしかありません。管理職にはプレーヤーとは別のトレーニングが必要なのです。

「仕事とは仕組みで廻すものである」ということが社員の中で腹落ちすれば、あとは彼らが自発的にその発想で仕事に取り組んでくれるようになります。なにも決めずに行動に移ることが気持ち悪くなってくるはずです。要は最初が肝心ということです。

御社は管理職が率先して業務フローを仕組み化・標準化する流れができていますか? 全社員がプレーヤーとしてバラバラな動きに終始していませんか?

 

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