新しいカルチャーの作り方
時代が大きく変転するなかで、お客様から見える“自社イメージ”を上手にリニューアル時が来ています。それは「衰退産業からのイノベーション」と表現することもできますし、「新しい時代のブランディング」と言い換えることもできます。
ブランドとは暮らしの中でわたくしたち生活者が無意識に感じるイメージの積み重ね、印象の総体です。マスメディアの大きくて強いメッセージ、InstagramやTwitterなどのソーシャルメディアによる身近なメッセージ、そして、商品サービスそのものが語りかけるダイレクトな印象が融合して、ひとつのブランドイメージが生まれます。
わたしたち生活者は、こうしたさまざまなメッセージに対して無防備です。イメージを無意識に受け取っています。一方、メッセージの発信者は意図して仕掛けています。大手企業の場合はブランド戦略をシステムとしてとらえ、標準化し、ブランドイメージを浸透させてゆきます。一方、中小企業の場合、8割の経営者が「ブランディング」についての知識は持っていますが、自分ごと化していません。
中小企業経営者の多くが「根拠のない自信」があります。お客様が自動的に「自社のファンになってくれている」と思い込んでいます。さらに「良いイメージを持ってくれているに違いない」と都合よく考えています。厳しく考えれば、この姿勢はお客様に対する甘えにほかなりません。
今、幼稚園や学校が再開し、お弁当作りがはじまっています。お弁当作りに欠かせないのが「〇〇のタレ」といった味付けの調味タレです。このタレには、使い終わりに中身が「たれる容器」と「たれない容器」があることに気がつきます。前者の場合は、外の容器がベトっとなって不快です。
ユーザーからのクレームや、ユーザーレビューを無視してこのような容器を使い続ける会社があります。理由は容器にお金をかけることができないため、既製の容器に入れて商品化しているからです。
大手企業もまたこうした事例に事欠きません。たとえば大手メーカーK社の醤油は、中の醤油が劣化しない「密封エコボトル」に入っています。わたくしも愛用していますが、ざんねんなのが、外装フィルムです。新しいお醤油の容器を開封しようと、切り込みにそって外装フィルムを剥がします。
しかし、この時、ミシン目の通りにキレイに剥がせないのです。必ず失敗するのです。何回買ってもK社のエコボトルは、口の部分がキレイに剥がせないのです。当たり前のことが当たり前にできない不快。このキレイに剥がせないことが手の感覚として残ります。結果「K社ってお客さんのことちゃんと考えていないのかな」という疑念が生まれ、印象が悪くなります。細部こそが命であり、細部にこそがブランドの魂が宿ります。
生活者の暮らしで感じる「手」の感覚が、快不快の信号を脳に送り、その商品サービスの印象を決めてゆきます。一般的には視覚情報に偏ったブランド戦略を盲信しています。が、実は、人間はもっとさまざまな要因からブランドイメージをつくりあげています。視覚や聴覚だけでなく、手の感覚からブランドイメージを積み上げています。裏をかえせば、商品サービスを使った時に感じる生活者の不満や不快こそが、ビジネスチャンスの宝庫であり、深掘りするべきポイントです。
生活様式と思考様式が変化した今、生活者の中にはたくさんの「不快」「不満」が生じています。タレる容器や、サッと開封できない容器ひとつとっても、巣ごもりの時代ゆえに「使っていてイライラする」人が奥様だけに止まらないことが予想されます。夫も子供たちにも、そのブランドが嫌われる可能性があります。
ブランディングと新しい文化を作ることは一体です。文化とはカルチャーであり、言い換えれば「暮らし方」や「ライフスタイル」です。コロナ禍、わたくしたちの毎日は問題であふれています。その問題に対して情報過多で、どの情報をとったら良いのかを誰しもが悩んでいます。そしてメディアにあふれる専門家、著名人は「問題」だけを取り出して、混乱の原発となっています。
商売人は「問題と解」のセットで、コロナ時代の新しいライフスタイル一式をカタチにしてみせることが求められています。例えば「抗ウイルス時代のタレない容器」かもしれないですし、「接触しなくてもはがせる外装フィルム」や「使うだけでエコ活」のフィルムレス容器かもしれません。
暮らし方をどのようにデザインするか。新しいライフスタイルを出してみて改善し、ふたたび実践する。いまある商品サービスを柔軟にリニューアルし、実践をくりかえしてゆく。この柔らかくて強靭なプロセスこそが、大手企業では絶対に踏み込めない実践です。わたくしたち中小企業の武器です。そして新しい時代は巨艦のいる場を避けて、住み分けながら互いのビジネス環境を盛り立ててゆくことが賢明です。
問題と解のセットを仕掛ける、その準備は整っておられますでしょうか? 今まで構築してきた自社の智慧そして工夫。これらをどうやって新しい時代に研ぎ澄ませてゆきましょうか。社長の意識が、自社の明暗を分けます。新たな一歩、いっしょに踏み出しましょう。
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