アフターコロナは「想像力」と「創造力」を合わせた「総合力」の世界―空白をいかに埋めるかは組織力にかかっている―
世の中は技術(テクノロジー)の進歩によって発展してきました。
特に経済的な側面において、技術(テクノロジー)の力は大きかったといえます。
日本はかつて技術立国として、世界の称賛を浴び、製造業等を通じて世界のリアル市場を席巻してきたのです。ところが、情報化が進んだ現在、その技術的な側面はかなりのレベルで標準化され、世界中に普及したために、耐久消費財的なものであれば、世界のどこにおいても製造が可能になったのです。そうなると、技術(テクノロジー)というものが、その長所を発揮する場面が別のところに移っていきました。端的に言えば、ハードではなくソフト、モノではなく情報といった分野に代っていたのです。
そういった時代背景において日本は、世界に比べて大きく後れをとりはじめました。情報処理やデータ分析、数字の決済といったソフト面での効率が極めて悪く、スピード感がないために、世界の市場で他の先進諸国と対等に戦えなくなってきています。
国内を見れば、中小企業、中でも地方の中小企業のIT化、情報処理の後進性は顕著で、統計的に見ても生産性の低さがたびたび指摘されています。
こういった課題の指摘は昔から成されていたのですが、経営者の意識の後れなどもあって、なかなか改善するまでに至りませんでした。
しかしながら、今回の新型コロナウイルス禍において、人と人との物理的な接触が大きく制限されることとなり、それに代わる方法を模索せざるを得ない状況に至りました。
やむを得ず、取り組むことになったという事情が背景にあったとはいえ、これで、日本のビジネス環境が大きく変わる可能性があります。
やはり、データ処理、情報収集、情報発信において企業内のOA化、効率化は必須であるとの意識が、これまでとは異なるレベルで認識される可能性が出てきました。経営者はここで一気に改革を進める必要があります。デジタルを高度に活用した技術と仕組みを導入することによって、これまでなかなか進まなかった社内の効率化を図り、間接業務の省力化を実現するのです。
さて、そういった前提が存在するとして、それからが問題です。
省力化がしっかりと実現できることで、そこに大きな空白が生まれます。
これまで、一日或いは数日かかっていた仕事が、わずか数時間でできるようになれば、かなりの時間的空白が生まれるはずなのです。
ここでしっかりと考えなければならないのは、何故省力化を目指したのか、ということです。省力化そのものが目的化してしまってはなんにもなりません。
処理業務や作業的な業務を省力化することで、「新しい何か」を実現する必要があるのです。そこまで達成しなければ、生産性が上がった、とは言えないのです。
そこでまず求められるのは「想像力」ということになります。
自らの専門性やキャリアを、省力化で浮いた時間や労力に代えて、どう活かしていくのか、どんな新しいことができそうなのか・・・これまでそんな視点で考えたことがないとすれば、頭をフル回転させて想像力を膨らませる必要があります。
また、それと同等かそれ以上に大切なのは「創造力」ということになります。
想像力でイメージした内容を、具体的な形にしなければなりません。その際には創造する力、即ち創造力が必要となるのです。
この「想像」にしても「創造」にしても、これまでのビジネスの中では、あまり遭遇したことのない試みだと思います。こういうときには、何がいったい大事なのでしょうか。
トップのリーダーシップはもちろんのことですが、それにもまして重要なのは、企業の組織全体で考える力だと私は思います。
つまり「総合力」ということになります。
企業内において、社員或いは部下という立場で、積極的に新しいことにどんどんチャレンジするという行為は通常起こりません。従業員という立場は、既に与えられている仕事があり、そのルーチンで結構忙殺されているからです。その忙しい上に、何か新しいことにチャレンジするというのは、さらに自分を忙しくするだけですから、普通は本能的に避けようとします。
しかし、今回のような緊急事態に直面したときは、自分の立場だけを前面に出して、そんなことも言っていられません。危機意識が共有されているこういうときこそ、みんなの知恵が出るのではないでしょうか。今回のタイトルである「アフターコロナは想像力と創造力を合わせた総合力の世界―空白をいかに埋めるかは組織力にかかっている―」の中で「総合力」や「組織力」といった言葉が登場するのはそういった理由によるのです。
ただし、これまで営々と行なってきたビジネスにプラスして、新たな価値を創造するというのは、前述のようにやったことのない試みだけにそう簡単な話ではありません。新しい価値を発見するための何かコツのようなものはあるのでしょうか。例えば「経営コンサルタント」のような立場の人に聞けば教えてくれるのでしょうか。残念ながら、そういった探し方をしても、うまくいくことはありません。第3者はあくまでも第3者であり、外部の人間でしかないからです。自分たちの改革のタネは自分たちで探すしかないのです。
こういうときに参考にしたいのは、セブンイレブングループの総帥であった鈴木敏文氏の言葉です。
それは「新たな需要は顧客が教えてくれる。」というものです。
さらに鈴木氏の言葉を借りれば、新たな需要は「顧客の意識」即ち「時代」というものの中にしか存在しない、といった意味のことを常々言われていました。
これを私は「マーケティング」と呼んでいますが。
自社にとっての新たな需要、ニーズ、そこから生まれる新たな商品やサービスといったもののヒントは、必ず顧客の中に隠れているものなのです。
ただ、顧客はいつもそれを雄弁に語ってくれるわけではありません。
サイレントな顧客の声を聴く必要があります。そのためには、常に顧客に接している現場の考えや意見を聴く必要があるのです。現場に最も近い担当者が日々感じている顧客の声や要望といったものの中にそのヒントはあるはずです。
こういった理由があって、新たな商品やサービスを創造するためには、先述のように組織的な対応に落とし込む必要があるのです。
普段はなかなか出てこない現場からの声も、今回のように切迫した緊急事態の中であれば、おそらく様々な形で顕在化する可能性があります。
そういった「声」を的確に拾えるか否かは、組織における普段の風通しのよさが大事なポイントになります。
経営者は、こういう機会に、組織内の合理化、効率化を進めると同時に、想像力や創造力を働かせることで、社員と一丸となって自社にできる新たな価値創造に邁進してもらいたいと思います。
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