リーマンショック後に劇的に成長した企業が混乱のさなかに実行したこと。それが、圧倒的な成長のカギだった
リーマンショックの時、もっとも影響を受けた業界のひとつは金融業界です。その金融業界にあって、その混乱のさなかにいた企業のひとつがM社です。
M社は既に、成功企業として認知されつつありました。しかし、リーマンショックの渦中にあって、会社の財務は惨憺たる状態に陥ったそうです。
ところが、H社長は言いました。「やがて、収まる。次に備える」その時、H社長が行ったのは、理念の更なる追求でした。
お会いした時は、「理念なんて、ちょっと宗教くさくて、嫌なんですよ」と言っていたのですが「理念」を全面に押し出すことで、集まる社員の質が変わったことを実感していました。
更に理念に沿った経営の実践をしようとしていたのです。
M社は少し変わっていました。営業ノルマのない営業会社でした。この業界は、もっとも熾烈な営業で知られた業界。その中にあって、異端の中の異端だったのです。
業界注目の成長率を誇っていたのですが、その成長を支えていたのは、他社に先駆けたビジネスモデルです。
しかしH社長は、そのビジネスモデルが会社をいつまでも支えるとは考えていませんでした。
見えるものは、いつか競合が真似をしてくる。そう考えていました。なので、絶対に競合が真似できないもので、勝ち残ろうと考えていたのです。
H社長は、最終的な差別化は、社員がより理念を体現できる状態にすることだと考えていました。
でも、ある事件が起きるまで、H社長は、そこそこ社員による理念の体現は、うまくいっていると思っていたのです。
ある事件が起きました。若手社員から上がった直訴でした。
理念には「顧客第一と書いてあるのに、顧客第一で考えたプランを上司に報告すると、嫌な顔をされる」というもの。これに対して、凄腕で知られた福岡支店の支店長が呼応します。
福岡の支店長は社長に「顧客第一と言いながら、利益率が悪い商品を売ると、嫌な顔をするなら、利益率を開示せずに、商品選びをさせるべきだ」「会社のルールを変えるべきだ。顧客第一なのか、利益第一なのかはっきりと明示するべきだ」と迫ったのです。
他の支店長は、ダンマリを決め込んでいて、この問題の解決は最終的に社長に委ねられることになります。
実はこの問題は、私が知る限りでも3年以上くすぶっていた問題でした。何度も何度も話が上がるのですが、「でも、ほら、わかるよね。大人だろう。」という忖度を迫り、なんとなくうやむやにされてきたのでした。
暗黙のルールなので、人によって判断が違い、そして、経験値の低い人達は、それに振り回されるのでした。判断基準が人によって違うので、あれこれと考える時間が発生していました。
若い人は、折角契約しても、クヨクヨと悩み、次同じような契約がきてもちっとも喜びません。そうなると、お客さまも、不幸せになっていきます。
このように暗黙のルールは常に生産性を下げる方向に働きます。
社長が決定したのは、2つ。
1.当社の理念通りに進めること。但し、お客様にとってのメリットが
同じであるならば、可能な限り利益率の高いものを考えること。
2.支店長、課長は、この基準によって、部下の指導に当たること。
社長も元々営業マンでしたから、少しでも利益の高い商品をうるのが当たり前でやってきたといいます。なので、それ以外の考え方があるなどとは想像もしてなかったそうです。
そして、持ち上がったこの問題は、数学的に考えると、利益の低下を生み出す決段でした。当時の状況を考えると、簡単な決段ではなかったといいます。理念の推進が正しいけど、当面の利益は普通に計算すると下がるのですから。
ところが、あの混乱のさなかに逆のことが起こりました。何が起こったかというと、契約件数が増えていったのです。
会社の考え方に共感した社員達が、より自信をもって商品を売るように変わっていきました。
そして、利益率が低い商品を買ったお客様が、再購入してくれる比率が高まっていったのでした。一顧客当たりの購買金額が激増したのです。
M社がリーマンショック後に、大ブレークした原動力は、こうして実現したのです。理念の更なる徹底に舵をきったことで、社員の行動量が増えたことでした。
リーマンショック年も、前年売上げを若干超えるという奇跡的なことがおこりました。私の知る限り、この業界で、当時、前年以上の売上げを上げた会社はM社だけです。
あれから10年たっても、理念の体現は続いています。顧客との信頼関係は強固になる一方です。なので好循環の波は今でも続いています。少し話は変わりますが、競合他社からは、この会社の社員はちょっとおかしいと思われているのです。離職率は同業他社の1/5以下。ほとんど辞めない会社です。
営業の会社なのに、社内はいつも和やか。でも、売上げは絶好調。
圧倒的に成果を上げるためのコツは何か?
理念徹底することで、お客様が喜ぶなら、理念を徹底することなんです。理念の徹底とは、理念の唱和ではありません。理念の暗唱でもありません。理念の徹底とは、理念の行動化です。
M社で起こったように、マネジメントの現場で理念の言葉が使われることが行動化です。
「あの、これで提案しようと思っているのですが?」
「なんでこれがベストだと思うの?」
「お客様にとって、第一だと思うからです。」
「この場合は、AもBもあるよね。それと比較してもそれが第一」
「はい、AとBとそれから、Fも比較したのですが、これがお客様に
とって第一です。これが比較した結果になります・・・」
「なるほどね。確かにこれが、一番だね。いいじゃない。
これで提案してきてよ。」
こんな会話が、上司と部下で交わされています。
前述のように、H社長はあるときから、理念の浸透が如何に重要であるのか?に気づき、それを徹底することが、よい人を集めることで、更にその確信を深めていました。しかし、最初からうまくいったわけではありませんでした。
M社でマネジメントの現場で、理念、行動基準、考え方の言葉が使われるようになったのは、マネジメントの仕組みを変えたから実現したのです。社長が講話をし、毎日唱和しhてもうまくいかなかったのですが、マネジメント技術を使うことで実現されました。
理念の徹底は、唱和によって起こるのではありません。マネジメントの現場で理念や行動基準を活かすことのみ、組織に浸透することができるのです。
さて、あなたの会社の場合は如何でしょうか?
次の波に備えて、他社との絶対的な差別化として、理念、価値観、行動基準を
組織に浸透させているでしょうか?
それとも、今まで通りで、なんとなくやりすごしているでしょうか?
そのままの状態で、次の波で、劇的な変化を作り出すことはできるでしょうか?
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