「真面目さ」が経営にとってマイナスである理由
「わかりました。もう口コミサイトの書き込みは一旦気にしないことにします」―― 少し前に当社に個別相談にお越しになった社長の言葉です。
この社長の営む事業は、飲食やホテル業と同様に顧客の声がダイレクトに口コミサイトに載ってしまうため、その口コミ内での顧客の要望やマイナス面の指摘に対してきちんと対処しようという意識でやってこられたのですが、当社からの情報発信をお読みになり、いまやろうとしていることは「どうも違う」とお感じになって当社の門を叩かれました。
この「顧客の要望に応える」や「悪いところを直す」といったことを、多くの経営者が「よかれ」と思って取り組みがちです。あるいは、同業者でちゃんとやっているところを見習い、自分たちも彼らに追いつこうと、いろいろな改善に取り組む、ということをついやってしまいます。
特に日本人は真面目ですので、自分たちの至らないところはちゃんと直していこうと、せっせせっせと「欠点の修正」に手を出す傾向にあります。
そしてその結果、自社が手に入れるものは何かというと、それは「無難さ」です。言いかえると「何の変哲もない商品・サービス」が出来上がるということになります。
この「無難さ」が商売をやる上で命取りとなります。なぜなら、顧客の期待通りの「無難な商品・サービス」は、数多くの同業者と同質化してしまい埋もれてしまうからです。そうなると、営業やマーケティングにお金と労力をかけ、かつ価格も他社よりも下げてやっと選ばれるという状況に陥ってしまいます。「貧乏暇なし」というやつです。
そんな「無難さ」はこれからの日本ではますます危険になります。というのも、日本は基本的には人口減少に伴い市場が縮小する傾向、つまり供給過多となっていきますから、「仕事がまわってくる」ということがなくなるからです。しっかり自分たちで仕事が取れるようにしておかないと、もう「おこぼれ」には期待できない時代になります。
そんな「無難さ」が有り難がられるのは、その仕事が「作業」である場合です。たとえば、毎月の試算表をつくったり、決算や年末調整をやってもらう場合は、ちゃんと資格をもった税理士に頼みます。そこに「奇抜さ」は誰も求めません。会計ルールに則ってちゃんと仕事をしてくれればいい、ということになります。そして、そういった「作業」については、報酬も当然ながら相場どおりとなります。
しっかり儲けようと思ったら、この「作業」から脱する必要があります。税理士の場合であれば、たとえば「事業の飛躍にもつながる絶妙な節税のやり方」とか、「しっかりお金が残る財務体制の構築法」とか、「銀行から有利な条件で融資を受けられる交渉のやり方」などといった、作業の範疇を超えた「経営指導」の領域を担わないと、生き残ってはいけないでしょう。
どんな事業もこれと同じです。多くの同業者でもできることをやっていたのでは、報酬は相場に引っ張られますし、その報酬は基本的には競争の中で下がっていくことになります。また、ごそっと丸ごとAIに取って代わられる…なんていうリスクも大いにあります。
儲かる事業をつくる鍵は、「真面目さ」を捨てるところにあります。優等生では褒められこそすれ、儲かることはありません。顧客の要望に応えるのではなく、彼らの期待を良い意味で裏切っていく必要があります。
そしてここが重要な点ですが、そんなエッジの効いた事業コンセプトで勝負するならば、いま現在の顧客が言っている自社のマイナス面などはまったくどうでもいいことになる、あるいはプラス面になる可能性だってある、ということです。
たとえばホテル業を営んでいるとして、現状では駅から遠いだの、携帯の電波が悪いだのと口コミで書かれているとします。それならば、その「立地の悪さ」をウリにしたコンセプトを考えるというのもアリです。「”つながり疲れ“を癒す宿」として、チェックイン時に携帯を取り上げてもいいぐらいです。
ホテルとはこういうものだ、レストランとはこういうものだ、学習塾とはこういうものだ、製造業とはこうあるべきだ……そんな「あるべき」は誰かが勝手に捏造した考えであって、本来そんなものはありません。そんな固定的な考えは意図的に捨てていく必要があります。
優等生的に世間の評価基準で「オール5」を取っても意味がありません。偉大なものは得てして評価は遅れてついてくるものです。なぜなら比べるものがないからです。
御社は、きっちり真面目に、顧客の言われた通りに仕事をしっかりこなすことを目指していませんか。それでは下請け業者としての報いにとどまります。主導権は向こうに握られてしまいます。
顧客の期待を大いに裏切る「不真面目なビジネス」で、顧客に驚きと新しい価値観を提供していきましょう。
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