商品リニューアルによるブランド育成術
その日、社長との打合せは “サイズのリニューアル”がテーマでした。打合せが終わると、地元で人気のカフェへ。常連客の社長は季節のデサートである「いちごパフェ」を注文されました。しばらくして運ばれてきた目の前のパフェを見て「 ! 」 、社長が絶句されました。
確かに、運ばれてきたのは上品ないちごパフェです。が、何となくメニューの写真とは違うような・・・。社長が「小さい。小さすぎる」とそう呟かれました。器のデザートグラスは何一つ変わってはいない。が、パフェ自体のボリュームが半減している、と言うのです。トッピングの苺、苺スライスの厚み、生クリームのボリューム、充填されている自家製苺ソースの層、アイスクリーム、カットされた苺など、すべての層が薄く小さく(少なく)なっている、と。
いちごパフェの価格は税込1,320円です。社長曰く「この価格は、銀座の資生堂パーラーと比較すれば安い。それにしても、あまりにも“貧弱”です」と、がっかりした様子でした。帰り際には、顔見知りのスタッフをつかまえて「昔に比べると、ずいぶんと高い(高価)商品になっちゃったね。ボリューム感がなくて驚いたよ」と爽やかに伝えられました。すると「ハイ。他のお店も、高くなっていますので」と笑顔で返され、社長は二度驚くことになりました。
移動中、社長はカフェでの出来事を思い出すかのように「あのスタッフ “うちのいちごパフェは〇〇にこだわっているので”とか、どうしてそういう言葉が出てこなかったんだろうね。オーナーのことよく知っているんだけど、ざんねん・・・」そうと言いかけると、「タザンノイシ、モッテタマヲオサムベシ」と一笑され、すぐにカバンからメモを取り出して何かを書いておられました。
弊社の商品リニューアルには、商品設計のひとつに「お得満足感」という原則があります。商品のプライシングには「お得感」を感じていただくことは当たり前のことです。商品サービスが飽和している今の時代は、「お得感」プラス「満足感」の両方を揃えて商品設計することが肝要です。
例えば、商品リニューアルのわかりやすい例で、商品の「マキシマム化」と「ピコ化」という手法があります。この場合も「お得満足感」を基盤にマキシマム(拡大)化、ピコ(縮小)化をします。
マキシマム化には、森永製菓の「ラムネ」や吉野家「超特盛」があります。一方、ピコ化した商品リニューアルには、コクヨのキャンパスノートやさくらクレパスなどの「ミニチュア文具」があります。その他、120mlの水筒「ポケトル」も大ヒット。バッグにスッと入るミニサイズの雑誌やハーフサイズの口紅も、既存商品からの大ヒット商品です。
マキシマム化することでボリューム感だけでなく、“写真映え”があり“サプライズ”という楽しさが付加されています。ピコ化では「ちっちゃくてカワイイ」があり、「ポケットやカバンに入る」という便利さ、「カロリーや糖質オフ」が叶う“健康に嬉しい”という新たな価値が生まれています。マキシマム化、ピコ化した商品リニューアルが支持されているのは、お客様が「新たな価値」を再発見できるからです。
冒頭のカフェでは「他社が価格をあげてきているから」とスタッフは解釈していました。この受け答えは経営者の意図とは違うかもしれません。しかし、ポロッと出た一言が案外その会社の「本音」、そう人は直感するものです。このポロッと出たスタッフの一言こそが、じつは経営者がいつも使っている言葉なのではないか、と深読みすることもできます。
例えば、気象変動による原材料の高騰は朝の情報番組でも伝えていることです。消費者は企業の事情がプライスに反映されることは、皮膚感覚として理解しています。価格アップによって利益のとれる商品設計するも、それが企業都合であるならば「やめたほうがいい」のです。商品を傷つけるだけでなく、お客様の心に育まれているブランドイメージが大きく傷つくことになってしまうからです。
中小企業の戦い方として「高級化」「プレミアム化」は今や常識となっています。何の疑いもなく、「付加価値をつけて値上げする」と宣言される経営者がいらっしゃいます。しかし、残念なことに、付加するものをお客様が「価値」と感じるかどうかの第三者視点は、案外忘れられているものです。
冒頭のカフェは、数年前から高級路線をとって成功した店です。街の喫茶室から企業へと進化させて、雇用を生み出して、従業員ファーストをうたっていることもWebサイトから伝わってきます。その結果として「いちごパフェ」です。この商品に喜びがあるのかどうか。価格を超えた喜びがあるのかどうか。自社都合のプライシングによる、商品サービスの貧弱化は静かな破壊力があります。
商品があふれかえる今、破格商品から高価格、超高価格商品までさまざまです。キャッシュレス時代ゆえに価格競争を超えて「価値競争」の時代となりました。お客様にとって、最も贅沢で、最も豊かな価値とはなんでしょうか。自社の商品設計を顧客視点で点検する時です。圧倒的な「価値」を設計するために、今一度商品戦略の本質を自社に問うことが求められています。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。