新年に針を探す。
あらためまして、新年明けましておめでとうございます。2020年東京オリンピックイヤーの幕開け、心の高まりをお感じになっておられるのではないでしょうか。先日、わたくしどもでは、お客様と新年の打合せをいたし、終了後に社長行きつけの老舗蕎麦店で乾杯いたしました。都心にあり、ビジネスマンやシニアで賑わう店です。そう広くない店内で、ひときわ目立っていたのが30代くらいのパパと小さなお子さんの姿です。
4人がけのテーブル席で、その父子は並んで座っていました。若い父親はスマートフォン画面を見、男の子は、慣れない手つきで長い箸を持ち、つるつるとお蕎麦を食べていました。店には他にも、似たような父子がもう一組いらっしゃいました。こちらは、おしゃべりが上手な女児をお連れでした。
わたくしの視線の先を見、「変わりましたね、蕎麦屋も・・・」と社長が静かにつぶやかれました。黙っていると、「あっ、間違えました。変わったのはお客様の方、でした! 」と言い直されました。確かに老舗蕎麦店は、佇まいも、メニューも、内装も、何ひとつ変わってはいないのです。
父子の姿を見て、自身の約15年前の子育てを思い出しました。働きながらの子育てでした。2000年頃、子連れで母親が楽しめる飲食店は少なかったものです。この蕎麦屋も然り。時が止まったままで、メニューも食器も、お手洗いも、子供連れには向いていません。そういう店に、パパ達が子供を連れて食事をしています。
共働き世帯が増えて、夫婦で育児や家事を分担するのが当たり前の時代になりました。ゆえに、男性が子供を連れて保育園にも行きますし、買い物にも、食事にも行きます。今まで、女性客向けに提供してきた商品、サービス、場所に、パパたちが子供を連れてくる時代になっているのです。自社目線で考えれば、お客様層が劇的に変化しています。
ドラッグストアも然り。花王のクイックルワイパーやハンドワイパーに「黒」が登場しました。従来のかわいいパステルカラーから、「ブラック」のモノトーンカラーに商品リニューアルし、既存ラインナップに加わっているのです。これは誰をターゲットとした商品?
商品サービスを購入する約6割が「女性」であるという確固たるエビデンスがあります。科学的なウラをとらなくても、午後5時のスーパーに行けば、お客様の主役が「女性客」であることがわかります。女性客が買うからこそ、わたくしどもは「女性視点」で商品を仕掛けてゆくことがとても大事だと学んできたはずです。
女性がどういう気持ちで商品を買うのか、サービスを使うのか。女性の購買心理と購買行動の一致をどう仕組んでゆくか。いかに「女性の気分をあげる」商品サービスにリニューアルできるか。「気分をあげる」の意味がわからなければ、「女性の気持ちが高揚する」と言葉を変換してください。わたくしたちは、必死に「女性の気分あげ」を訴求してきました。
飲食店であれば、野菜たっぷりのメニュー、居心地のいいインテリア雑貨、子育てママが喜ぶ子供用の椅子や、トイレの設計が大事です。掃除ツールであれば、ピンクや淡いブルーなどのパステルカラー、おしゃれでかわいい、キラキラのアイテムがたくさん並ぶように仕掛けました。キラキラやパステルカラーは女性の心がときめく、魔法だからです。なのに、なぜ今、お掃除アイテムが「パステルカラー」から「モノトーンカラー」へ商品リニューアルなのでしょうか? 斬新だから? 目新しいから? ほかになかったから? いかがでしょうか。なぜ、ヒットしているのか?
お掃除アイテムをモノトーンにリニューアルしたのは、「男のやる気をアップ」するからです。メンズライクなアイテムに商品リニューアルすることで、男性=ご主人の家事力がアップするからです。もちろん、妻が買っておくシーンもあるでしょうし、夫が直接買う場合もあるでしょう。
大事なことは、妻に言われてしていた「家事のお手伝い」を、「家事シェア」という新しい世界観にリニューアルし、家事の価値を高めたことです。共働き世帯の増加を背景に、夫婦で協力体制をつくる「家事シェア」という、新しい市場を創造したことが尊いのです。それによって花王はヒット商品と新しい市場をつくり始めています。
あるアイデアをきっかけに、商品やサービスのコンセプト、ネーミングやパッケージデザインを変え、主力商品を売り伸ばしてゆく。わたくしどもが提供する「商品リニューアルコンサルティング」の可視化できる部分です。お掃除ツールであれば、パステルカラーからモノトーンへのリニューアルです。こうした目に見える部分は2割、8割が目に見えない部分のリニューアルです。この目には見えない部分のリニューアルこそが、高収益化のポイントであり、商売を輝かせる金の卵です。「家事シェア」という世界観づくりもその一つです。
かの天才科学者、アルバート・アインシュタインはあるとき、「博士と、私たちのようなその他大勢との違いは何ですか」という質問を受け、こう答えたそうです。「たとえば、干し草の山から針を探さなくてはならないとします。あなた方はたぶん、針が1本見つかるまで探すでしょう。私は、針が全部、見つかるまで探し続けると思います」と。
少子化、人口減、政治や経済の不測事態・・・予測されてきたこと、突発な出来事と有為転変、商品サービスが売れない「言い訳」や「愚痴」に走りたくなる気持ちもわかります。が、どうでしょうか。今まで女性客が買ってきた商品、女性客が利用してきたサービスでも、新しい世界観の再定義によって、新しいお客様がやってくるのです。新しい世界観で生きる男女は、役割を交換し始めています。女性? 男性? シニア? 子供? そのカテゴライズ、古くありませんか?
1本の針で終わるのか? それとも針を全部、探すのか? 一本でひるんではいけません。まだ、針は秘められています。真の意味で、商品サービスで勝負する時代。まだまだ自社の主力商品やサービスの伸びしろは無限大です。商品力を高めることを諦めない。粘りましょう。わたくしたち自身の気分をあげた先に必ず、ヒットが待っています!
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