ビジネスは顧客に嫌われることから始まる
「すべてはお客様のために」-よく言われる表現ですが、これを文字通りやってしまって苦しい商売をしている会社も多いです。
お客様によい商品やサービスを提供し、当社のことをよく思っていただこう…そんな思いで、興味を持ってくれた見込み客や注文をくれたお客様の要望に全力で対応してしまう。
それの何が悪いんだ!と思われるかもしれませんが、この「お客様に好かれよう」という気持ちが商売の足を引っ張っているケースが非常に多いのです。
商売においては、「誰に好かれるか」も大事ですが、もっと大事なことは「誰に嫌われるか」をはっきりさせることです。
つまり、「お客様にしてはいけない人」をしっかり明確にし、そして実際にその人たちがお客様にならないように仕向けていくことが非常に大事ということです。
そういうと「確かに狙うべきターゲット顧客は絞るべきだとは思うが、そうでない顧客になにも嫌われる必要はないだろう」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
たとえば、キャンプ場ビジネスを経営していると想定しましょう。キャンプ初心者でも大丈夫なように、きれいな設備を整え、最新のレンタル機器も取り揃えて、テントの張り方や火のおこし方などを教えられるようにスタッフも充実させたとしましょう。
しかし、キャンプに精通した上級者ばかりがお客様としてやってきたとしたらどうなるでしょう。せっかくそろえたレンタル機材も、充実したサポートスタッフもすべて無駄になってしまいます。上級者はすべて自分でできてしまうからです。
そうなると、レンタル収入は入らず、スタッフの人件費は生かされず、食材も持ち込まれたりして、ビジネスは赤字となってしまうことでしょう。
つまり、この場合は料金設定を上げたり、マーケティングメッセージを見直したりして、キャンプ上級者が来たくなくなるように仕向けていかないといけないということです。
これは飲食業だろうが製造業だろうが同じことです。高級ステーキハウスを経営しているのに「いきなりステーキ」の価格やサービスを真似してしまったら、お客様はワインなど頼まず、コーラを注文されてしまいます。製造業でも自社が得意ではない加工の仕事ばかり取ってしまっては、儲からない仕事で忙しくなるだけでしょう。
そして、そのような来るべきでない顧客を呼んでしまっては、ビジネスがブレてしまい、本当に来てほしいお客様への提供価値も下がってしまうのです。
「戦略とは捨てること」とはよく言われますが、みんなにいい顔しようと八方美人のビジネスにしてしまっては、力が分散されて事業にエッジが立たず、結果的には誰にも刺さらないビジネスとなってしまうということです。
なぜそうなってしまうかというと、やはり「なにを自社の強みとし、だれを顧客とするか」という戦略の大元が定まっていないからと言えます。そこを曖昧にしたまま、来たお客様すべてに対してもぐらたたきのように対応していたのでは、いつまでたっても忙しいだけで儲からない状態が続くだけです。
ではなぜその戦略の大元を決められないのか。そこはいくつかの要因が挙げられます。
まずはやはり経営者の戦略性の欠如です。何を捨てるか、どこを尖らせるか、そういった戦略的思考で事業方針を決めることに慣れていない。
あるいは、経営者の「真面目さ」が邪魔をしているということもあるでしょう。「お客様第一主義」という考え方をすべての顧客に適用したくなってしまう。
そしてその「真面目さ」の背後には、「嫌われたくない」「みんなにいい顔していたい」という自己重要感が潜んでいるのではないでしょうか。
これまでの取引先や同業他社に何か言われたくない。そのあたりは穏便に、そして無難にやっていきたい。そんな自己重要感からくる感情に支配されて、メリハリをつけることをためらってしまうわけです。
戦略経営の実践に自己重要感は不要です。自分ではなく自社を取り巻く市場を見ていかなければなりません。経営者は嫌われてなんぼ、嫌われる勇気など不要なのです。
ある顧客層に思いっきり嫌われるから、その対極にある顧客層に思いっきり好かれる。至極当然の話です。そこに自己重要感など必要ありません。
大切にすべき顧客をとことん大切にする。そのために自社独自の強みを磨いていく。そうすることでしか本当の意味での顧客の貢献はできませんし、社員を守っていくこともできません。
自社の存在意義を確固たるものにするために、とことん嫌われていきましょう。
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