「会社は人で成り立っている」という社長に限って人を生かせていない理由
「結局社員を幸せにしないと会社はよくならないんだよ!」「会社は人で成り立っているんだから!」-クライアント先のM社長と一献傾けていたときに、隣の席から聞こえてきた熱いセリフです。
それを聞いたM社長が一言「私も昔はああいうことを言っていましたね。」と苦笑いをされました…。
会社は人で成り立っている-それはもちろん間違っていいないのですが、こういったことを声高に叫ぶ経営者が間違えってやってしまうことがあります。
それは「人にアプローチする」ということです。
人にアプローチするというのはどういうことかというと、たとえば、社員一人一人のやる気を引き出そうと、ヒアリングをしてやりたい仕事を聞いたり、コーチングを導入したり、モチベーション研修を導入したり、といったことです。
「それの何が悪いんだ!」と言われるかもしれませんが、このように「人」にフォーカスをすればするほど、社内は混乱、部署間や社員間の衝突が増えるという皮肉な結果を招くことになります。
これはよくよく考えてみれば簡単にわかることです。経営者が人、つまり社員一人ひとりにフォーカスをすれば、社員も自分にばかり意識を向けることになります。言ってみれば、みんなが「自分のことばかり考える」ことを誘発するわけです。
つまり、経営者がわざわざ社員の視点を下げているということになります。これでは社内の問題は増えるばかりです。経営者や管理職が社員間や部署間の調整に終始することになります。
社員をイキイキさせるつもりが、一人ひとりをヨシヨシして甘やかし、結果的に社員の視点を下げてしまって彼らの能力を活かしきることができない…。人にアプローチする経営者がはまる悪循環です。
このように、経営者も社員もみんなが「社内」の方を向いている会社がうまくいくはずがありません。上から下まで終始社内の問題解決でバタバタしている会社、こういった会社が実に多いのですが、そのような状態でお客様の期待をいい意味で裏切るような発想が出てくるはずもないのです。
かつて元ミスミ社長の三枝氏は「成長事業の中でしか人は育たない。」と言い切りました。つまり、事業が停滞してくると社員の意識が内向きになり、社内政治や自分の保身にはしる人間が増えてくるというわけです。
社長は社員の視点を上げなければいけません。そのためには社長自身が社内ではなく外を見ることです。社長がどこを見ているかで社員の視点も変わるのです。
会社はなんのためにあるのでしょうか。社員を養うため? それは手段です。社員をイキイキさせるため? それは結果です。何かを成し遂げるために社員を雇うのであり、それを成し遂げる挑戦の中で社員もイキイキしてくるのです。
会社は「世の中をよくするためにある」と当社では考えています。そうでなければ会社は存続できないはずです。「うちの会社は○○でお客様のお役にたちます。」― これがその会社の存在意義であり、この○○の中身と、それを達成するための方法(戦略)を考えるのが経営者の役目です。
この「自社の存在意義」に社員が感化されないのであれば、どんな施策を取り入れたところで社員がイキイキするはずなどありません。社員旅行をしても、飲み会をしても、コーチングをしても、研修講師を呼んできたとしても、所詮いっときのガス抜きにしかならないのです。
社員を本当に活かしたいのであれば、会社の目的達成のために社員をしっかり使ってやることです。そのための社員の働き方、つまり仕事の仕組みを作ってやることです。社員をバラバラに働かせるのではなく、しっかり「人材」として機能するように導いてやるのも経営者の仕事です。
こういうと、「人材」じゃなくて「人財」だと言いたがる経営者もよくいます。特に自己啓発にはまっている人がそういう当て字を使いたがりますが、人材は人材、ちゃんと材料として生かしきることです。
これは料理と同じです。材料の良さだけで競うなら、それは料理とはいいません。料理とは材料の良さを調理によって最大限に引き出して、それぞれの材料単体では出せなかった味を出すことです。
会社経営も同様に、しっかり「出来上がりの姿」をイメージし、その実現のために材料としての「人材」をどう調和させ、どのような働きをさせたらいいか、その仕組みをしっかり考えてやることです。そういった全体感をもった働きかけなしに、ここの材料だけをみたところでそれは生かされることはありません。
「まず全体があって、個の世界が振り分けられる。」
社員を個別に大事にしてもいい会社にはなりません。社員を感化させる自社ならではの旗印を掲げ、その実現に向けて全員で「外」を向いていきましょう。
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