「同業」を意識する社長が伸び悩む理由
「似合う髪型をAIに決めてもらいました!」-美容院で髪を切ってきた友人が嬉しそうに話していました。なんでも、そこの美容院ではAIのアプリで自分に一番似合う髪型のシミュレーションを見ることができるんだとか。
とにかく競争の激しい美容室・ヘアサロン業界において、なんとかよそと差別化しようという試みです。
こういった「新しいもの」を導入する試みは、最初のうちは話題づくりとお店の認知度向上に寄与する面はあると思いますが、基本的には他社もすぐに真似できるため、しばらくすれば「最近よくあるやつ」といったくくり方をされてしまうことになるでしょう。
しょせん、「髪を切る」「髪型を変える」といった通常美容室が提供していることの枠組みで差別化を考えていても、せいぜい「ちょっと新しい」とか「ちょっと変わってる」と思われる程度です。
「髪を切る場所」としてやっている以上、「同じ穴の狢(ムジナ)」と思われるだけ。皮肉なことに、「同業の中で差別化しよう」と思えば思うほど、その「同業」の定義に縛られていくことになります。
現代思想の考え方に『類似は差異に先立つ。』というものがあります。つまり「差があるということは似ている」ということになります。全然似ていなければ、そもそも比べることができないわけです。
ここに本質的な差別化を実現するヒントがあります。本当の意味で差別化を実現するためには、「同業」と思われてはいけないということです。ここは何屋なのかわからないといわれるぐらい「同業」の枠から出ていかないと、他社と比べられてしまうことになります。
美容室業界であれば、「髪を切る」ということを前提としない、あるいはそれをサービスの中心にしないということになります。
そう考えれば、「髪を切るというサービスをどのように提供しようか」と考えている同業他社とは大きく差をつけることができるはずです。
例えば、「モテる女に変身できるサロン」。髪型のみならず、ファッション、メイク、香水、表情、しぐさ、口癖、ここぞというときの決め台詞…などなど、モテる女に変身するために身なりと立ち振る舞いをトータルで指導するサロンです。
上記の基本サービスに加え、ダイエットやファスティングの指導、恋愛カウンセリング、モテる女になるためのキャリア相談など、悩める女性に対していろんなサービスをオプションとして提示することもできます。
他のアイデアとしては、たとえば「一日子育てから解放されるサロン」とか。子育てで忙しい主婦の方が、託児所とシッターが完備されたサロンで一日過ごし、髪を切ってもらったり、映画を観たり、マッサージを受けたり、悩みを聞いてもらったりできるというサービスです。
このように、「髪を切る」ということから離れて考えると、もはや美容室とはよばれないサロンのアイデアをいくらでも考えることができます。
ここでのポイントは「抽象度を上げる」ということです。
つまり、「髪を切りたい」というニーズの抽象度を上げると、「きれいになりたい」という上位のニーズが出てきますし、さらにその上位を考えると「異性によく思われたい」という本能レベルの欲求がベースになっていることがわかります。そうなれば、「髪を切る」ではなく、「異性にモテる」というニーズをダイレクトに満たすというアイデアにつながります。
もしくは「髪を切りたい」というニーズの上位に「気分転換したい」というニーズがあるとすれば、その上位には「日常の苦労から逃げたい」という、これまた本能レベルのニーズが垣間見えます。であれば、徹底的に日常の苦労を忘れられるサロンにするというアイデアにもつながってくるというわけです。
このように書くと、その業界で「同業」の枠組みを超えるアイデアを出し、その切り口で新しい事業コンセプトを打ち出していくことはそれほど難しくないように思えます。
しかし、多くの経営者が差別化したいと思いながらも、同業と同じようなよくある事業内容で勝負してしまうというのが実態です。
なぜそうなるかというと、多くの方が心の底では「みんなと同じことをやって安心したい」と思っているからです。
いままでやってきたことをガラッと変えると、これまでの顧客や同業者(特に先輩経営者)から何を言われるかわからない。そしてなにより、自分自身がそんな人と違ったことをやること違和感がある…。そういった、「自分を守りたい」「いままでどおり安定していたい」という欲求が、「枠外」に出ることにブレーキをかけるのです。
しかし、そうやっていままでどおり、周りと同じことをやって一時的には心の安寧を得られたとしても、この資本主義の下では「埋もれたら終わり」ですから、結局は自分が苦しくなるということになります。
そうならないためには、繰り返しになりますが「抽象度を上げる」しかありません。視点を上げて、「自分」ではなく「世の中」に目を向けることです。「いまだ満たされていない顧客ニーズはなにか」、「他社が気づいていない顧客の困りごとは何か」と、自分のことは横に置いて、視点を「外」に向けていけば、発想はおのずから「枠外」へと飛び出ることになります。
現代の「小さな物語の時代」においては、「同業」という概念もどんどん薄まっていきます。市場総ニッチ化した現代において、従来の枠組みに自らを縛り付ける必要はまったくありません。そんな呪縛は捨て去り、他社に「同業」と思われない独自のビジネスを打ち出していきましょう。
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