貴社の社員は「ドリル」と「穴」の違いを知っていますか。
みなさんは「ドリルと穴」の話をご存知ですか? マーケティング用語のひとつ「ベネフィット(便益)」とは何かを説明するときに、よく出てきます。
典型は「ドリルを買いたいというお客さんが本当に欲しいベネフィットは何ですか?」という質問です。マーケティングの教科書に沿った答えは「穴」。お客さんはドリルが欲しいわけではなく、目の前の壁や板にあける「穴」が欲しいわけで、「穴」があくのであれば、その手段は「ドリル」でなくても構わない、と。
得てして売り手は自分の持ち札にだけ気をとられ、ドリルであればそのドリルがいかに素晴らしいスペックであるか、どのような職人が磨き上げたものであるかといった、「もの」に付随する情報を伝えたがります。もちろんお客さんがドリルマニアであった場合は、相性はばっちりです。
しかしながら多くの場合、ドリルを買いたい人は、家の壁や衝立にただ穴を空けたいだけなのです。この人たちにドリルのスペックを熱く語っても聞く耳はありません。むしろ、興味のない情報を延々と語られる煩わしさが残ります。
こういったすれ違いは、売り手側が商材に関して圧倒的な量の知識を持っていて、買い手側がそうでもない場合に、起こりがちです。買い手側は買うもののスペックがどうであろうと、買う前からやりたいことが決まっているのに、売り手側がそれを理解せずに一方的に商品を押し付けたら、買い手が描いた当初の目的は歪曲されて、目の前の商品が実現できる範囲に押し込められてしまいます。
直径5ミリの穴が欲しいのに、手に入るドリルが最大直径4ミリの穴しかあけられなかったら、残りの1ミリはヤスリやら何やらの別の道具を取り出して削り足さないといけません。そうであればいっそのこと最初からドリルなど買わず、ヤスリで穴を空ければよかったといった大きな後悔が、客側に残ります。
では、お客さんがドリルを買いに来たのか、穴を買いに来たのかは、どうやったらわかるのでしょうか? 答えは案外簡単で、「その商品を使って何をしたいのか」をお客さんに聞くことです。圧倒的な情報量を持つ売り手側は、商品について語りたくて仕方ないわけですが、その気持ちをぐっと抑えて相手の欲求を聞くわけです。
その結果、ドリルを買おうと思って店に来た客が、ヤスリを買って帰ることもあるわけですが、それが本来の目的にかなっていれば、お客さんの満足感は後者の方が高くなるはずです。
そんなこと簡単にできるだろう、と多くの方が思います。ところが目の前にいるお客さんに関心を持つだけの容量が気持ちの中にないと、これ意外にできません。お客さんが要求する「ドリルちょうだい」の言葉に何も言わずに従ったほうが楽ですし、的外れな提案をして却ってお客さんを混乱させるリスクもありません。
それでも、ドリルを買いに来たお客さんの真の目的を尋ねるだけの余裕が欲しいと強調するのは、そこが新しい関係性づくりのポイントになるからです。売り手側にとってみても、いつものルーティンワークを少しクリエイティブにするきっかけになるからです。
さて、貴社の社員は、ドリルを買いに来たお客さんが、本当は何を欲しがっているか聞きだす気持ちの容量をお持ちでしょうか。相手の背後にある本当に欲しいものを察知して、それを満たす余地は与えられているでしょうか。
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