静脈流通というビジネスとは
このところ、サーキュラーエコノミーという概念について業界関係者と意見交換する機会が増えています。関連するシンポジウムや会議などが続いているせいかもしれません。その中で、現場にいる方のご指摘として私が「なるほど」と思ったのが、「廃棄物になったとたん、流通は規制される」というご指摘でした。これは何を意味するのでしょうか?
将来、いわゆるエコデザインが深化して、製品寿命を終えた家電製品の部品がそのまま再利用される機会が増えたと仮定します。そうした場合、家庭から引き取られた廃家電は現状だと廃棄物となり、その収集と運搬には行政の許認可が必要となります。この段階では「流通」という概念は存在しておりません。
解体作業の現場で回収される再利用部品については、その時点で再度有価であることを現認する手続きが必要となるはずで、その後再び市場へと戻される理屈になるのですが、この部分における流通の仕組みは、まだほとんど整備されていないのが現状です。
また、廃棄されたものの中にもそのまま有価で市場に出回る個体が増えてくることが予想されますが、古物商に関する法律が規定する通り、警察の許可を得た事業者でないとこれらを取り扱うことができません。この分野には地域や品目によって確立された流通ネットワークが存在していますが、流通データが即時性を持って経済観察に活用される動脈系の近代的流通とは異なり、まだデータ活用が進んでいないのが現状です。
ここに一つのビジネスチャンスがあり、サーキュラーエコノミーへの取り組みが進んでゆく中で、どのように流通を再設計するかという切り口があるはずです。たとえば産廃の収集・運搬に関しては、いわゆる電子マニフェストが業務の合理化に大きな役割を果たしていますので、このインフラを拡大的に活用することで生まれるビジネスは小さくないでしょう。すでに業界では先行的な研究も始まっているようです。
このようにして「静脈流通」みたいな概念が広まってくると、たとえば廃棄物そのものの価値を如何に上げるか?という取り組みもビジネスになってくる可能性があります。モノを大事に使う、傷をつけない、劣化させないなどの工夫がそれにあたります。この部分は伝統的に日本文化が得意としてきたところだと思います。
たとえばドアノブにカバーをつける、などの習慣がいまだに生きていることをあちこちで目撃しますが、これなどもそういった文化の表れだと思います。丁寧に掃除をする、きちんと片付ける、清潔を保つ・・どこかで聞いたようなお話ですが、これは生産現場における「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字を取ったもの)」の考え方と同じなのです。
“静脈流通”なるビジネス分野が成立し、それが上手く機能するためには、どうやらものづくり日本が得意としてきた手法が活用できそうだ、今日のコラムはそんなインサイトを結論としてお届けしたいと思います。
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