ヒットは技術そして〇〇
お手伝いしている食品メーカーでいよいよ商品企画書があがってきました。ネーミング、特長、イメージ写真をワンシートにおさめ消費者へのヒアリングがはじまります。企画書をパッと見た時、生活者として「欲しい」「買ってみたい」「食べてみたい」という気持ちになる商品サービスがあるかどうか。企画書の紙ベースの段階で感じることができるかどうか。シンプルな生肌感覚と、売れる方向性への判断が商品リニューアルにおいて生命線となります。
例えばネーミングとパッケージのリニューアルです。このリニューアルで商品が飛ぶように売れるようになります。そしてネーミングとパッケージだけで商品は売れません。売れない商品を売れるようにするのは技術です。そして技術ではありません。商品を売ることは、大いなる矛盾を含んでいます。両極の振り幅があります。この矛盾を経営者が真実として受けとめ、そして取り込めるかどうか。商品リニューアルにおいて則ち経営において、この振り幅を取り込めるだけの心の余裕と高い意識こそがヒットという「結果」を導くための肝です。
モノが溢れている時代です。お客様は間違いなく「どれを買ったらいいのかわからない」です。スマートフォン端末でのコミュニケーションも忙しく、お客様は間違いなく「時間」がありません。このような今の時代に求められているのは、商品サービスそれ自体に「話題性」「特化性」「限定性」、そして買いやすさという意味の「簡便性」が絶対に必要不可欠です。
例えば、最近トレンド紙で取り上げられた「海苔弁当専門店」が東京駅地下のグランスタにあります。のり弁のイメージを払拭し、お子さんを連れた女性客に人気があります。商品は3つだけです。価格は全て税抜き1,000円。従来マーケティングの教科書において、プライシングは松・竹・梅の3種類にし云々という常識があります。が、この店の価格はALL1,000円。忙しいママたちは価格で悩んだり迷ったりすることなく、食材の「好き・嫌い」の直感で決めることができます。実際にわたくしの目の前で4歳くらいのお嬢さんが商品サンプルを見て「鮭がイイ!」とママにリクエストし、パパッと手早く買っていました。主婦の立場で考えたら「何てラク!」な買い物でしょうか。
この店は「のり弁当」の商品リニューアルに成功しています。一般的な常識では「のり弁」は低価格商品です。その常識をリニューアルしプレミアム化。海苔と米、トッピングの具材「海」「山」「畑」の幸にこだわりました。パッケージは高級包材を使用し、高級を感じるカラーの黒やこげ茶、そして清潔感のある白を配色。全体として落ち着いたデザインを採用しています。消費者目線でみれば、不快な要素がありません。経営者は著名人でマスコミで取り上げられていますので広報戦略も効いています。売れる力を充分に発揮したヒット商品で、実際にお客様に受け入れられています。
このように商品リニューアルにおいて、ネーミングやパッケージ、プライシングには「こうすれば売れるよ」という技術があります。言い方を変えれば「売れない」を排除する技術があります。商品を売れるようにするのは技術です。そして技術ではありません。
知人にたいへんな「のり弁好き」がいます。出張の際には必ず東京駅地下でお弁当を買うので前出のお店で海苔弁当を買ったそうです。とてもおいしかった、と微笑んでいました。しかし買ったのは一度きり。その理由はシンプルです。「浮気は一度きり」だそう。曰く「やっぱり大丸の〇〇〇〇の弁当なんだよね、出張の時は」と。何回か買っているうちに店員さんたちと仲良くなって出張の時は必ずその店へ。「ジンクスだからね」と。つまりゲンをかついでいるのです。令和元年、テクノロジーが進化した社会に生きているというのに・・・。しかしだれしもがこのような経験を持っていると確信します。
売れるとは技術です。そして技術ではありません。ノウハウと対極にある「心術」です。心術(しんじゅつ)とは「こころの働き」「心情」を意味します。弊社では「心術」を「目には見えない働き」であり顧客心理と定義しています。商売に働く「目に見える力」と「心のはたらき」。この矛盾、境界線のあいまいな二つの世界を取り込んだ体系をつくることで、商品サービスのリニューアルヒット、そして売れ続ける力が生まれるのです。
顧客は神、でしょうか? 様々な考え方がある中で、事実、顧客とはこの世を生きる「人間」です。人間=ヒトは動物分類学上で「霊長類」のトップです。広辞苑六版によれば「霊長」とは「霊妙不思議な力を持つすぐれたもの」を意味しています。商いとは人と人との間に生まれる交換のことであり、霊妙なヒトの行いです。究極的には、商いとは技術。そして商いとは心術であり、摩訶不思議な力をもった「神術」である。わたくしは確信を持って定義しております。
ますますテクノロジーが進化し情報が複雑化してゆく中、より一層「商売を科学する」「売れるを科学する」という考え方が一般化しています。しかし顧客視点に立つ限り、それは作り手の自己満足です。商品サービスを見直す時、御社では「技術」や「ノウハウ」だけを求めておられませんか?一方、顧客の「心のはたらき依存」になっていませんか? ヒットはむずかしくない。売ることはシンプルです。相反する思考を意識して「どちらも」取り入れた仕組みづくりが要請されています。
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