社長が把握すべき、組織構造と権限委譲の考え方
「今年も組織変更がありました。新しい名刺です」
苦笑いをしながら名刺を差し出すS部長。経営者・経営幹部向けの勉強会でご一緒している方です。
「えっ。またですか? 御社も好きですね。組織変更」
苦笑いをしながら名刺を受け取る小島。気心の知れた間柄だからこそ、いたずらっぽく応対してしまいます。
大手企業、とくにグループ経営をしている企業では、頻繁に組織変更が行われます。
社員も慣れたものです。学生時代に経験したクラス替えのように、定例行事のごとく受け入れます。中身を見ると、名称だけが変わり、ほぼ同じ人員、ほぼ同じ業務、というケースも多いものです。もしくは、組織内で若干の統廃合があるぐらいでしょうか。
こういったケースの多くは、数年で交代するサラリーマン経営者のお遊びです(こういう表現をすると、お叱りの言葉をいただきそうですが…)。社長に就任した記念として、改革をした気分を味わうための組織変更。いったい何のために?と疑問を感じるものが散見されます。経営資源がもったいないものです。
逆に、本気の組織変更もあります。戦略の変更をともなうものです。グループ会社をまたぐ統廃合や、機能別(職能別)組織から事業部制組織・カンパニー組織へ、と組織形態を根本的に変える場合です。この場合は、大混乱を招きます。社内が落ち着ち、組織変更の効果が出るまでに、短くとも3~5年はかかります。
その一方で、中小・中堅のオーナー企業では、ほとんど組織変更が行われません。
そして、担当得意先や担当業務のローテーションも少なく、社員は徐々にマンネリ化していきます。すると、活躍する主体的な社員、寄生する依存的な社員、社員同士の立ち位置も固定化し、ほとんど変化しません。
下手に組織をいじっても、社内は混乱します。(お遊びは問題外)
もしくは、既存組織を維持しても、社内は停滞します。
どちらも問題があります。いったいどうしたらよいのでしょうか?
今週は、社長が把握すべき、組織構造と権限委譲の考え方をお伝えします。
■1.代表的な組織構造とメリット・デメリット
代表的な組織構造には、どのようなものがあるのでしょうか?
ひとまず、一般的なことを記載したのち、小島なりの見解も記載しております。一度目を通してみてください。
※お急ぎの方は、本項目を飛ばし ≪■2.オーナー経営者が好きな組織構造とおちいりやすいワナ≫ からお読みください。
(1)機能別組織(職能別組織)とは
経営の主要機能(モノの生産・販売に加え、研究開発・購買・物流、カネの財務会計、ヒトの総務人事、情報のシステムなど)ごとに分化した組織のこと。
<○:メリット>
・意思決定がトップに集中するため、トップダウン経営がしやすい
・個々人の専門性が高まりやすく、生産性の向上が期待できる
<×:デメリット>
・組織の権限や責任が曖昧になるだけでなく、社員が専門的な見方に偏る
・個人や組織が変化に無関心になり、部門横断的な問題に対処しにくい
(市場や顧客への迅速な対応よりも、組織内部の都合が優先されやすい)
→ 小島の見解
オーナー企業は、この組織構造を維持し続けるケースが多い。「細部に至るまで意思決定したい」という欲求があるため、トップはこの形態をなかなか手放せません。
(2)事業部制組織とは
製品あるいは知識、ときには顧客を単位として、複数の機能(職能)をもつ組織を部門化した組織のこと(本来はすべての機能を備えた独立組織のはず。しかし、日本では人事などを除く、擬似事業部制が大半)
※さらに進むとカンパニー制組織となる
<○:メリット>
・現場に近いところで業務的な意思決定ができる
(経営者が全社的かつ長期的な意思決定に専念できる)
・事業部ごとの業績や責任が明確になり、経営者の後継者育成を進めることができる
<×:デメリット>
・共通化できる職能や機能の重複を避けられない(非効率)
・事業部を超えた交流が難しく、中長期的な施策が実現しにくい(特に新規事業は立ち上がりにくい)
→ 小島の見解
近年は、情報技術が発展し、情報を共有化しやすくなりました。事業部内の兼任や、事業部を超えた統合も可能になり、職能や機能の重複を大幅に減らすことができます。とはいっても、経営資源の豊富な大手企業向けのサービスが多いもの。中小企業が使いこなせるサービスは限られており、現実は難しい。
(3)マトリックス組織とは
事業部制組織の欠点を補うために「事業」に絞らず「機能(職能)」など、二つの軸で指示命令機能を設けた組織のこと
<○:メリット>
・機能の重複が無くなり、非効率をさけることができる
・専門性を維持しつつ、現場に近いところで担当業務に専念できる
<×:デメリット>
・指揮命令系統が複数になるため、組織が混乱する
・管理が複雑になり間接費が増加しやすい。権限保有者の対立が生じやすい
→ 小島の見解
背伸びをして導入し、大失敗した企業も多い。理想の話にとどまり、現実的ではない。これを実現するには、全社員が相当自立しており、かつ協働意識が高くなければならない。結局のところ、仕事の優先順位が見極められないという問題を回避できない。
■2.オーナー経営者が好きな組織構造とおちいりやすいワナ
オーナー企業は、機能別(職能別)組織を選択し、維持し続けるケースが多いものです。経営スタイル、従業員数、取り扱い製品・サービスなどを考慮すると「事業部制組織に移行するまでもない」からです。これが実態でしょう。
さらに掘り下げると、これには経営者の欲求が関係しています。
「トップとして細部に至るまで意思決定したい(しないと不安)」
「ようやく仕事を覚えた社員。担当変更で再投資したくない(変更リスクも恐い)」
こういった欲求があるからです。感情的に痛みを避けて、目先の快を優先。結局は、社員に任しきれません。目の届く機能別組織が好きなのです。
しかし、この組織構造を維持する限り、デメリットが生じます。例えば、機能ごとの責任が曖昧になり、営業部門VS製造部門、直接部門VS間接部門といった対立が発生します。
また、それぞれの社員が担当している機能に偏った見方しかできず、部門をまたぐ全社的な視野を持つことができなくなります。
そして何よりも、社員が変化に無関心になります。学生時代を思い出してください。小学校→中学校→高校→大学校と進学しました。強制的に環境が変わるにつれて、我々は一歩ずつ大人になりました。外部環境の変化は、自然とそこに所属する人々の変化を促します。
しかし、オーナー企業では、ほとんど組織変更が行われません。異動や業務のローテーションも少ないでしょう。これは、変化をうながす前提をそもそも排除しているといえます。社員がマンネリ化して当然です。大学2年生から3年生へ進級しても、たいした変化はありません。そして、大学生6、7、8、9、10年目と浪人し続けているようなものです。(=経営者が浪人を推奨しているようなものです)
にも関わらず、経営者は「社員が育たない」「後継者が育たない」「主体性が足りない」と不満を言います。単に、言っていることと、やっていることが異なるだけです。緻密な工夫も無く、この組織構造を維持・優先する限り、致し方ありません。いち早く、この矛盾に気づいてください。
■3.中小・中堅企業にオススメの組織構造と権限委譲の考え方
中小・中堅企業は、機能別(職能別)組織をオススメします。ただし、上記≪■2≫のような不具合が生じないように配慮しなければなりません。
なぜなら、現状のやり方を続ける限り、「任せられない」→「人が育たない」→「任せられない」→「人が育たない」→ … という負の無限ループから抜け出せないからです。
まずは、社長が何をどのように考えているのか(何を優先しているのか、このときの判断基準はなど)、頭の中にあるものを外に出し、社員にも見える形にしましょう。
そうです。明文化するのです。簡単なチェックリストや管理資料のフォームを見直すだけでも効果的です。
そして、社長の考えを社員に理解させつつ、他の社員の業務をお試し体験したり、担当変更をうながす仕組みを考えましょう。「現状維持よりも挑戦した方がすばらしい」と評価する仕組みです。
さらに、これを業績に絡めて自分達の生活や働きがいにつながるという仕組みを構築していきましょう。
できることからで大丈夫です。大きな方向性を見据えて、現実的な手を1つずつ打ってください。くれぐれも、小手先のテクニックに走りすぎないように。
社員に当事者意識を持たせつつ、1つずつ仕組みを整備する。これがポイントです。伸びている会社の経営者も、はじめはみな初心者でした。しかし、こういった取り組みを何年も継続した結果、伸びている会社を創りました。ただそれだけです。
最後に、権限委譲もこの仕組みに連動させましょう。「社長が社員に権限を委譲する!」と宣言しても、仕組みがなければ社員は何もできません。権限を委譲するからには、仕組みに落とし込む必要があります。一歩ずつ自立させる仕組み=架け橋が必要なのです。この点もご留意ください。
※参考コラム:その1「社長が間違えやすい権限委譲の注意点」
※参考コラム:その2「なぜ、あなたの会社は権限委譲が失敗するのか」
さぁ貴社は、はじめの一歩をいつ踏み出しますか?
一人の経営者として、変化するリスクを背負い決断するタイミングがあります。
御社にとって、このタイミングは、いつでしょうか?
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