美しき愛社精神にどっぷりつかると 企業の生産性の悪化から立ち直れない その理由は
「先生 作業指示書を作って運用しはじめたのですが、問題がありまして…」
とある企業の業務改革部門の担当部長からのメールです。
ある店舗の売場で、品出しや発注をしている時に、店長からレジに入るように言われ自分の仕事が遅れて残業したら、今度は上司に怒られたそうです。
「会社のためにやってるのに、なんで怒られなきゃならないのか?こんなのだったら私たち辞めます!」とベテランパートさん数人が言ってこられたそうです。
①「担当外の仕事を言われたら断る」
②「全て受けて残業でやる」
③「やり残した仕事はやらないで帰る」
という選択でどれにすればいいのでしょうか?という質問です。
作業指示書を使い始めようとする際、よくある光景です。
日本企業の多くは②を選び、それが「美しき愛社精神!」と絶賛されてきました。
パート社員の方だけではなく、本社員、部課長や役員に至るまでが どっぷりその世界で何十年のやってきたわけですから、ある日突然「作業指示書を使って…」と言われれば、こうなるのはある意味、真っ当な状態と言えます。
むしろ問題なのは、こういったことが、潜在していて、持ち帰り残業やサービス残業が横行していたとすれば一大事です。
もう、少し前と違って、今は、それが発覚すれば、労基署の指導にとどまらず企業名公表され、「ブラック」として採用の苦境にたたされることは当然の流れといえます。
特に、毎年新入社員や新規パートを採用されている企業は、新人だから何でもいう事を聞くだろうし、逆らわないうちにそういう環境にならしてしまえば…
という「まちがった愛社精神の教育」などしようものなら、ほぼ間違いなく労基署の行政指導だけでなく、社会的制裁を受けることになることを忘れてはなりません。
先の問題も、そういったことが発端でした。新入社員の人が毎日定時に上がる為、やりのこした仕事を回りのパート社員がやるはめになっていて、その上、レジからはひっきりなしに呼ばれ全く自分の仕事が進まない、その不満がついに爆発したのでした。
数年前なら「まあまあ」と、それぞれの言い分を聴いて、丸く収めてきたことも、解決の糸口が見えないことにはお互いが納得しません。
現実問題として、作業指示が曖昧で、いつ休みがとれるかわからないような企業に勤め続けなくても、働きやすい企業は 世の中にはいくらでもあります。
そうは言っても、経営者として、何千人何万人といる 従業員の動きを把握することは不可能のように思えます。
しかし、そういうことが起きた時、各自がどんな業務をおこなっているのか?社長や運営部長が手元の端末ですぐにわかるようになっていなくては、店から噴出した問題に対して、改善指示を出すこともできません。
かつては、その程度問題は、上に上がってくるまでもなく「小さなこと、まあ、良いように処理しておけ」といった感覚でうやむやにされてきました。
作業指示書を作って運用していくということは、言い方を変えますと、企業としてそういう「うやむや」と決別するということになります。
先の問題は、パートさんが優秀であったため、店長や課長はいくつもの仕事を指示していました。しかし、負けん気に強い彼女は「できません」と言いたくない性格もあって、発注や特売の計画そういったことを がんばって仕事をやりくりしていたのでした。
作業指示書を作る段階になって、作業量が多く収まりきらないことから、実際にかかっている正しい時間を書かずに、形式的に作っていたということでした。
作業指示書作成の原則は「1人一作業」なのですがそれに反し、1人で複数の仕事を組みこんでしまったことから、時間内に終わらないことが、頻発していたのでした。
作業指示書作成には、業務項目調査や、追跡調査といったやり方ルールがあって、その通りにやることで、あとから問題が発生した時、どこでボタンの掛け違いが起きたのかがわかるようになっています。
店舗では、実際に作業中にお客様から話しかけられることは 日常茶飯事です。1人一作業に設定しても、最初は時間内に終わるのは 大変なこともあるからです。
実際に、魚を調理しながらパソコンは打てませんし、レジを打ちながらスケジュール表を作成することもできません。ミーティング中に電話にでることがないように。誰でも、1人一作業が原則です。
世の中には、自転車で綱渡りをしたり、一輪車に乗りながらジャグリングをしたり器用な人がいますが、それはあくまでも訓練を受けそのパフォーマンスを見せることを生業にされている方です。
企業では、そういったことよりも指示通りのことを時間どおりやって、作業を終了してもらうことが第一です。
「そんなことしてたら 売上が上がらないし、お客様の問い合わせにも対応ができないのでは?」という声が聞こえそうですが…
お客様から お問い合わせが無くても対応できる売場づくりや運営体制がとれていれば、お問い合わせ自体を減らすこともできます。しかし、そういったお客様の声を拾う仕組みや、それについて対応する時間の余裕がなければ、それどころではないというのが現実です。
まずは、一人一人をひとつの作業に当てはめ、余裕を持って取り組まなくては、何も変わらないのは火を見るよりあきらかです。
これは作業指示書を使い、人時割レイバースケジュールに移行させ 多店舗展開していくなかで、必ずや通る難所といえます。
こういった体験の積み上げが、人時売上の向上に繋がる一番の近道であることは、意外にも知られておらず、誰もが陥ることといえます。
話は元に戻りますが、①「仕事を断る」②「残業をしてやる」③「やらないで帰る」のどれかということですが…
このケースの正解は③となります。
「えー? 発注も 品出し放置して帰る?まるで、仕事放棄、お客様に迷惑がかかるじゃないか?」という声が聞こえてきそうですが、
但し、「上司に報告する」というのをルールと規定しています。
そして、作業指示書上に赤ペンでその事実を 記載して記録として残すことです。
1度ある事は2度あり、2度ある事は3度あるというように、同じ間違いを繰り返すムダを無くすための重要な記録となるからです。
新入社員は、上司に言われた通り 一人一作業を遵守し、時間内に作業を終えて帰った。しかし、ベテランパートさんへの説明が不十分であったため、「あのひとならやってくれるだろう」といった企業側の作業指示書の運用方法の伝え方に問題があったということです。
作業指示書のレイバースケジュール化によって、無理な仕事量を誰が抱えていたのか?あるいは、どの仕事が遅れていたのか?一目瞭然となります。
極端な話、店長は一歩も売場に出なくても、各人が何処で何今やっているというのが、図上でわかるわけです。
先の問題は、オンライン化されたレイバースケジュール上で、店長から業務改革部長を通じご相談をいただき 翌日、ベテランパートの皆さんに説明をし、作業指示書の使い方をその時から改善していただくことになった一例です。
後日、その売場にいくと、とても和やかな雰囲気になり、売場の状態もよくなっていてこのご時世に、売上も前年クリアするほどまでに回復していました。
個人についたダブリ作業を無くすことで、一人一人の業務量が平準化されたことが大きかったといえます。どんなに優秀な人であったとしても、一人何役もこなすことはできません。
これは、本部が店舗にだす指示も同じで店舗のレイバースケジュールを確認せずに、一過性の売上アップや、特売送り込み、販促強化策の連発で、店舗でこなしきれない指示を出せばどういうことになるか?を想像してみればわかることです。
何でもかんでも、店に指示を出し、特定の人が業務を抱えてやるのは、人時売上を極端に低下させます。
一方では、1人ひとりが生産性の高い働き方で、事業所の収益力を高めるためには、一人が 同じ仕事しかしないのもまたもったいないのも事実です。
というのは、どんな仕事にも緩急があり、そういった時に、他の業務の支援に入れるトレーニングをしておくことで、各部門の人時生産性は上がると同時に、個人の多能工化が促進できるからです。
これまで、お手伝いしてきた企業も 最初は人手不足の問題を抱えていましたが、こういった取り組みを進める事で、3割以上人時が減ってもゆったり仕事をしても確実に業務がこなせ、桁違いに収益が改善してきています。
さあ、貴社では、まだ、特定の人に複数業務をやらせ続けますか?それとも、平準化で、企業収益と個人の育成に舵をきりますか?
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